7話 現庭師・元・王国騎士団長ベルトランおじいちゃん2
――話を戻すと、つまりはジュリオン様。
舐めプでもなんでも、普通にやってれば普通に強くなれる。
なんならこれから一切鍛えずとも――たぶん、そこそこは強くなれる。
小1から中3まで遊び呆けていても、普通に高校でトップクラスになれる。
それがジュリオン様ボディの実力だ。
なにそれずるいぞジュリオン様。
そして大切なのは――たとえ最弱ルートのジュリオン様だったとしても「ゲーム開始時点で悪役として登場する場面で、学園の3年生までを含むほとんどのモブキャラを瞬殺していた」――すなわち、レベルとスキルを備えていた事実。
つまり――たとえめっちゃ怠けていたとしても、そこまでは到達できる。
設定上は人類圏のあらゆる貴族の子弟に才能のある平民をかき集めたっていう学園の中でも大半を占めるモブたちを――上級生まで含めて、だ。
なら?
前世で未来を知ってる僕がその情報を利用し――学園に入る前、ゲーム開始時点までに鍛えておけば?
少なくとも中盤までは主人公たちに後れを取らず、負けはしない実力をキープし続けたらば――すなわちメス堕ちルートと死亡ルートの大半を回避できる。
「……ジュリオンさまのそくしつさんになったら、いつまでも着付けできますぅ……?」
「……そうですか。ちょっと危ないけど、王国法では血が半分ならけっこんできるんですね……!」
これは、しょせんはゲームの知識。
繰り返すけども、確証なんて存在しない。
ただの妄想かもしれない。
レベルとかスキルとかいう概念も存在せず、ジュリオン様な僕は地面に落ちてるセミみたいに捕食されるかもしれない。
だけども――もしこれが合っていた場合、僕はただ鍛えてこの身体のポテンシャルを引き出すだけで、生き延びられる確率がぐんと上がる。
なら、それをしない手は――もちろん、ない。
単純に――最悪の場合に国外逃亡とかしても、モンスターの棲息する魔界に逃げおおせても、レベルさえあれば死にはしないだろうし。
世界の強制力(死亡確定orメス堕ち確定)がどう働くかは分からないけど、それも含め、やっぱり力こそ正義だ。
「はぁい、ジュリオンさまが素直にしてくれたので着付けできましたっ」
「……ああ」
「さすがにセレスティーヌさまの大切なお召し物を普段着にはできませんからね。代わりに私の服ならいくらでも着てください! あ、でも、私の方がちょっとだけジュリオンさまよりも背が高い……えへへぇ」
「わ、わたしの服も、今度……な、何年かしたら、おねえさまの着た服を、おさがりとしてたんのうできます……! いもうととして、うれしいです……!」
「……ああ」
で。
早速目覚めた今日から身体を鍛えるつもりだけども、万が一ママンの服――遺品に泥でもついちゃったら、数ヶ月後に帰ってくるだろうパパンが激怒することは間違いなし。
いくら放任主義を通り越した無関心の父親でも、あと兄でも、んなことしたら良くて折檻、悪くて放逐だろう。
そんなわけで、恥を忍んで――表向きにはすっごく押せ押せになったエミリーちゃん&アメリアちゃん連合軍に押されて仕方なくという形で、あと、なぜか2人に手ずから脱ぎ脱ぎさせられて着せ着せさせられて。
ま、まあ、7歳男児が7歳と5歳女児に下着にさせられるだけだし……いや、なんか背徳的だなこれ……しかも着せられるのは女物だし。
さて。
今、鏡の前に映るのは――ジュリオン様が見たことのない、町娘として着ていてもおかしくない、ごく普通のスカートにシャツという服装のジュリオン様、もとい僕。
まぁ町娘としては肩に乗る長さの、銀と紫が光りすぎて主張の激しい髪の毛に紅く光る目、ぼんぼんだからこそ真っ白な顔にママンを受け継いだ整いすぎた顔が、あんまりにも違和感しか与えないけども。
なにこの超絶美少女……しかも整いすぎててちょっときつめのお顔立ち、若干のつり目な上に不機嫌顔でさらにドン。
……僕の好みにクリティカルヒットなのは、なにかの陰謀か?
鏡とか、極力見ないようにしよう……セルフメス堕ちしかねないし。
とまあ亡き母さん譲りらしい顔は、あれだ、近寄りがたい美人さんってやつ。
負けたらくっころしそう。
そして結末はやっぱりメス堕ちジュリオン様の各ルートへ収束する……と。
性格のきつい人とは、僕ならお近づきになりたくはないけども、残念ながらこの中身が僕なんだよなぁ……。
でも、これなら庭で動き回っても支障はないはずだ。
仮に破いちゃったりしてもこの服程度ならぼんぼんとして貰ってる小遣いでどうにでもなるはずだし。
……っていうか町に行けるようになったら、自分で服買お……いくらなんでも肉体的に同い年の女の子の服を着てるのは精神衛生上悪い……ほら、いい匂いするし……メインヒロインだからしょうがないね。
「おお……セレスティーヌ様……!」
「男子としてこの世に生を受けてこられたのに、エミリーの服を着ただけで完全にセレスティーヌ様の、あの手のつけられないときのお姿と……うっ、心臓が……!」
「セレスティーヌ様が城を抜け出されて町へ通われていたのを思い出します……!」
「そのせいで使用人総出で捜索を……うっ、涙が……!」
「ああ、やはりジュリオン様も亡き母君の精神を受け継ぎ、我々では止められなくなられるのですね……!」
「そうそう、こんな感じで絶妙にダサい格好で出ていたのでひと目では分からず、帽子をかぶられると振り切られた思い出が……!」
「演技もお上手で……ために、真正面からお会いしても逃げられたときのあの気持ち……!」
「……私の普段着……ダサいのでしょうか……」
「わ、わたしはすてきだと思います!」
あ、エミリーちゃんに流れ弾……でもダサいからね、良い意味で。
……あとママン……あなた、本当なにやってたんですか……おかげでやりやすくなりましたけど……。
「……少し、外に出てくる」
「わたしも、おひさまの元で輝くおねえさまを見てみたかったです……」
「代わりに、あとで私がいっぱい話してあげますね!」
あ、アメリアちゃんはさすがに無理か。
大半の時間をベッドで横になってる生活だからね。
今だって、床に座りながら僕を見上げてただけで息が荒かったし。
顔も赤くなってるから、しっかり休んでね。
けどもエミリーちゃんは元気いっぱいでついてくるよねぇ……なにしろ付き人だからねぇ……。
……でもさ、アメリアちゃん?
僕のこと、もう「おねえさま」認定なんだね……いや、「こわいおにいさま」で避けられるよりはよっぽど良いけどさ……。
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