6話 今世の妹アメリアちゃん(病弱伯爵令嬢ヒロイン)1
「ジュリオンさまぁ、せっかくおめかししたんですからアメリアさまにも見せてあげましょうよぉ」
はっはっと見えない尻尾をぶんぶん振っているエミリーちゃんが、僕の手を引いたり背中を押したりしながら、てくてくぶんぶんと進んでいく。
うーん、今の僕はあのおじいちゃんに教えを請いたいんだけどなぁ……エミリーちゃん、うっきうきだからなぁ……。
まぁどうせ庭でいつも通り土いじりしてるだろうし、このあとで良いや……エミリーちゃん、うっきうきでかわいいから……。
ほら、家に帰ってきたらわんこが足元でまとわりついてきたら、どんだけ忙しかったり疲れてても「構ってやるか……」ってなるあの感じ。
よーしよしよししたげないと露骨にしゅんって尻尾が下がるから、とりあえずで何分かモフってあげるあの感じだ。
「絶対喜びますから! さぁ!」
「いや、しかし、アメリアと僕は……」
一応口では抵抗をしておくも、ジュリオン様の妹なヒロインの――病弱で儚い属性のあの子の幼女時代も見たいっていう欲に負け、エミリーちゃんの思いつきにより現在背中を押され続けながらずりずりと運ばれている僕。
ジュリオン様(女装・偽装メス堕ちモード)。
……いやあの、でもさエミリーちゃん……僕もとい今朝までのジュリオン様……義妹、現在のママンの娘と没交渉なんですけど……あ、うん、君はそういうのこれっぽっちも気にしないよね……。
気まずいとかいう感覚は、たぶんこの子にはない。
だからこそいろんなイベントで活躍するんだけど。
――アメリア。
アメリア・デュクロワ――現在5歳と、僕と2歳差の義妹。
病弱伯爵令嬢としてメインヒロインの1人として登場する彼女は、とある理由により幼い頃からベッド暮らし――という設定だったはず。
その状態はなんとゲーム開始の10年後まで大きくは変わらず、不憫属性に胸打たれる根強いユーザー人気のある、メインヒロインだ。
正室だったセレスティーヌママン没後、側室だった第二夫人のソフィーヌママンが正室に繰り上がり、それに伴い母子でこの屋敷に引っ越してきた義妹の彼女。
ジュリオン様的には彼女が気に入らなかったらしく、とにかく徹底無視。
……うん、そりゃそうだ……暴言とか吐かなかっただけ偉いってレベルだわ……家庭環境的に。
気持ちは理解できるっていうか現代人の普通の感覚なら「かわいそうな子だな」って思うし。
自分の母親が――それもジュリオン様が5歳のときに亡くなってすぐに屋敷に入ってきた義母のソフィーヌさんと、その娘のアメリアちゃん。
ただでさえ「母親をむざむざ死なせた」ってだけで父親を憎むレベルになってたジュリオン様だ、そんな父親が詳しい説明もなく「今日から屋敷に住むことになった」とだけ言い残して連れてきた「新しい母親と連れ子の妹」だ。
正直、いじめたりしてないだけで盛大に褒められるレベルだろう……ジュリオン様視点では。
だって、当時5歳児だぞ?
5歳児が――あくまで平民だった僕の前世的に表現すれば、事故で亡くなった母親――それも父親の過失で――の悲しみも癒えないうちに、さっさと再婚して。
ただでさえ子供が母親を亡くしたショックへ、愛人で抱えてた人を「今日から母と呼びなさい」ってまさかの自宅へ招くわ、母親に産まれてた連れ子まで抱えてくるわだ……そりゃあ怒る。
怒るか絶望して引きこもるかの2択しかないでしょ、5歳男児メンタルでは。
しかもその父親、あとかなり年上の兄さんも、詳しい経緯とか慰めの言葉とかも掛けてなかったはずだし。
確かにその直後にいつもの魔族襲来での対応で忙しかったのはうろ覚えで聞いてたけども、それにしてもうーん、このコミュニケーション障害。
言葉が足りない、足りなさすぎる。
たぶんエミリーちゃん居なかったら、この屋敷の雰囲気は壊滅してたんじゃないかな。
んで本来ならジュリオン様を慰めるべき2人は政務が忙しいとかなんとかで基本的にこの屋敷には帰ってこないし……そらジュリオン様も荒れるわ。
うん、ジュリオン様が「あのジュリオン様」になるのは必然だったレベルで家庭環境が崩壊している。
しかも使用人たちも癇癪起こす僕が怖かったのか、誰ひとりとして気遣ったりは――ああ、してたわエミリーちゃんが完全に別方向に。
だからある意味でジュリオン様がいちばん安心して接していたのが彼女で、だから普段から罵倒されるかわいそうな天然ドジヒロインだったわけで。
「あ、あの、エミリー? 本当に坊ちゃ――ジュリオン様は」
「絶対仲良くなれますから! ほら、ジュリオン様も!」
「え? あ、ああ……」
「ほらほら、良いって言ってます! 通してください!」
……ジュリオン様の家庭環境に思いを馳せていたら、いつの間にかにアメリアちゃんの自室の前に来ていたらしい。
で、僕の生返事を良いように誤解したエミリーちゃんにより、アメリアちゃん専属の使用人たちが渋々といった形で扉を開け、おそらくは彼女に良いかどうか尋ねている。
……お願い、断ってアメリアちゃん……!
没交渉で1年中廊下で使用人たち罵倒してる義兄なんて怖いでしょ?
だから、ね?
僕も目覚めてからまだ1時間経ってなくって気持ちの用意とか全然――
「……どうぞ。ジュリオン様、アメリア様はお身体が弱いので、どうか、どうか声を荒らげたりなされませんよう……」
いやいや使用人さんたち、さすがに止めよう?
こんなジュリオン様が義妹の部屋に入ったらどうなるか分かるでしょ?
あ、だめだわ、応対した人、さっきの騒ぎ見てた人だったわ……なんか笑顔が怖いもん。
このままだと崇拝されてしまう……仕方ない、エミリーちゃんに押される形で入るしかない……!
「……ああ……」
「ジュリオンさまなら大丈夫です!」
普通に通されちゃった……あとエミリーちゃん、なんで君はそんなにもポジティヴシンキングなの?
ああそうだったね……ジュリオン様に罵倒され続けて高校生の年齢で本編が始まって、主人公に攻略されてもなかなかジュリオン様から離れない系ヒロインだからね……17歳女子が公開おしりぺんぺんとかされても、翌日にはケロッとしてた記憶が……。
「……おに――――――おねえさま……?」
エミリーちゃんの声量を9割くらいカットしたような、弱々しく幼い声。
その声は、かつて画面で聞いたよりもずっと幼く、ずっと小さく。
「……アメリア」
男ということで飾りっ気のないジュリオン様の自室とは違い、実に少女趣味な内装の洋室――まぁ5歳の女の子だしな――カーテンがほとんど閉じたままで、ベッド周辺に直射日光が当たらないようにされているために薄暗い室内。
水色系の天蓋付きのベッドに寝ていて、たった今身体を起こしたんだろうアメリアちゃんが――僕を見ていた。
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