5話 剣と魔法の才能は作中最強のジュリオン様1
この世界の貴族子弟は、基本的に学校なんて場所には行かない。
そもそもとして、義務教育なんてものはない。
平民だって数歳から親の手伝いをする世界観。
それでも貴族は一流の教育を受ける――ただしそれはお金とコネの世界なわけで。
「はぁ、家庭教師のお方……次は半月後ですな」
つまり、逆を言うとお金とコネさえあればすんごい人からいろいろ教えてもらえるわけで。
「早めてもらうことはできないか?」
10年後までほぼ死ぬことはないにしても、そこから先はほぼ死ぬ未来が待っている以上、「コネなんて恥ずかしい」とか言ってる場合ではなく。
だから、恥を忍んで尋ねてみたけども。
「……以前に坊ちゃまが『月に1度で充分だ』と……」
「ああ、そうだったな……悪い、気にしないでくれ……」
「なに言ってるんですかこのバカ次男」って顔をした使用人さんに「結局なにが言いたかったんだろう」って顔されてメンタルが削れた僕。
おのれ覚醒前のジュリオン様(僕)……!
現代人はメンタルが雑魚雑魚なんだぞ、ちょっとは気を遣え!
ゲームの中で都合の良いなんちゃってファンタジーではあるけども、それ以外は割と「ザ・中世」をやっている世界観。
主人公周りだけが実に快適な「お気楽な中世」なだけで、ヒロインたちもわりと悲惨な境遇だったりするし。
ということで場所の移動は数日かけて馬車でかっぽかっぽが基本なわけで、さらに言えば連絡すら手紙で、それもまた早馬とかになるわけで。
唯一で最寄りの町が馬車で数時間とだった気がするけども、そんなところに都合良く滞在してくれてるわけでもなく。
「ちなみに、今から急ぐよう頼んでも……」
「早馬での手紙が届くまでにも相当……恐らくは、ただ待つだけとそう大差ないでしょうな」
ぐへぇ。
ということらしく、早速に出鼻をくじかれた形となった。
まぁしょうがない、ゲームのシナリオでも情報の伝達が遅いからって理由でのイベントとか結構起きてたし。
まぁいい、少なくとも今日だけで……えーと?
まずもって、エミリーちゃんのぶっかけ(心停止)で前世を、そして今世の未来を思い出した。
正直これだけでもとんでもない逆転劇だもんな……彼女には感謝しかない。
冷たかったけど。
臭かったけど。
それでも情報は命だ。
命の代償は受け入れないとね。
なに、死ぬのに比べたらあの程度はむしろ安いんだ。
死ぬほどに冷たくて死ぬほどに臭かったけど。
で、母親譲りの見た目で母親の形見な服で女装した結果、使用人たちほぼ全員――うちの半分は亡きセレスティーヌ母さんの実家(王家)から来てる人たちらしい――からのヘイトを消失させることに成功。
残り半分の人たちも、亡き母さんの蛮行もといアクティブさを聞き及んでいたのか、「それに比べたら……」と態度を大幅に軟化。
あと「なにかあってもほぼほぼエミリーちゃんが被害担当だし」って。
多分だけど、「セレスティーヌ様に比べたら……」ってことで、たぶんよっぽどのことをしない限りは生暖かい目で見られるようになった気がする。
まぁ今の使用人さんみたく、素で好感度が低すぎて塩対応なのも多いけど。
ジュリオン様がジュリオン様してたんだ、しょうがないと割り切ろう。
それにしても、今世の母さん……一体どんな人だったんだ……おもしれー女枠だったのか……?
それとも何?
娯楽を提供される側の高齢化に伴い需要が増えたらしい、最近流行りの経産婦ヒロインってやつ?
少なくともジュリオン様として5歳くらいまで育てられた限りでは、そんなやべー人な気配はなかったけどなぁ……。
ま、とにかく、そんなわけで原作開始までの身の安全は確保できた……はず。
折り合いの付かない――いや、今は前世の成人してただろう意識だから分かるけども、たぶん今世の父親と兄はあれだ。
――僕にどう接して良いのか分からない、だから使用人伝いで生活を知るに留めてる。
それだけが理由な気がする。
そりゃあね?
セレスティーヌママンの死は、夫――父親としては悲しくとも、貴族政治の結果。
直接の原因は人類の的な魔王軍だし、おかげで残りの軍はみんな撤退できたらしいから、気持ちはある程度整理できるはず。
兄も理性的で賢く、確か10歳差くらいあるから現時点で高校生。
母の理不尽な死ってのを、悲しくてもどうにか飲み込める年齢だ。
当主として、戦場での判断でときには切り捨てるとか教わって実践してるはずだ、母親の死も辛くはあってもなんとかなるはず。
それに比べ、たった5歳で癇癪持ちのジュリオン様――しかも母親の死を聞かされて泣きわめいている――男親と兄として不器用な面が強く出ちゃった感じかな。
ほら、男ってそのへんがほんっと不器用だから……「態度で見せる」とか「あえて見守るだけに留める」とかするんだよ……いやまぁ人によるけども、それでも女性に比べるとねぇ。
そんなジュリオン様に、せめてもうひとり歳の近い兄弟が居るとかならなんとかなったかもしれないし、せめて父親か兄が落ち着くまでそばに居て怒りを受け止めるとかしてればまだ良かったんだろうけども……男だからね、不器用っていうか泣きわめく赤ちゃんをどうしたら良いか分からないっていうか。
だからある程度こっちが大人としての対応さえできれば、少なくともこれ以上の関係悪化は起きるはずもなく、殺意を向けられるとかはない……はず。
まぁこれはあくまで精神年齢成人以上だと思ってる、前世の僕からの見解だ。
記憶を受け継いだ形だから、自然身内って考えて最大限好意的に解釈している可能性もあるし、もしかしたら本当にジュリオン様のことを疎んでのことかもしれない。
そこのとこはいずれ話さないといけないけども……早くて数ヶ月先だからなぁ。
現状の考察のことごとくが「はず」ばっかりなのはしょうがない……なにしろ思い出したのが数時間前で、それ以前の僕はただの子供だったからな。
「はぅぅ……それにしても綺麗……お人形さんみたい……」
僕専属の付き人――メイドなだけあって、ほぼ常に傍に居てうろうろちょろちょろとたとたしながらつぶやいているエミリーちゃん。
あとついでにそのあいだにも「あ゛うっ」……って壁にぶつかったり「み゛っ」……ってすっ転んだりしてるし。
ドジっ子+ジュリオン様の髪スマスツリーに興味津々なせいでえらいことになってる。
……そうやって落ち着きがなさ過ぎるのも、ジュリオン様の癪に障るポイントだったんだろうなぁ……ほら、ドジっ子とかってリアルの身近に居ると……って言うし。
僕?
この子をゲームで攻略したこともあるから、むしろかわいいと思うだけだけど?
10年後なら女の子らしさで厳しかったかもしれないけども、今はただの養女、距離が近くても目のやりどころに困らないし、主観的には姪っ子とかそんな感じだからほほえましくしか見えないし。
自分の親兄弟は憎くても、その子供とか親戚ともなるととたんにかわいくなるもんだ。
うん……この子は大切に育てよう。
ちょっとせわしなくっておっちょこちょいだけど懐いてくるわんこを懸命にお世話している姿を見せたら、あの不器用な人たちの心もちょっとは動くかもしれないし。
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