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第4章 ヘルプ

「七条ナツメです。ご一緒してもよろしいですか?」


オレは一条ハジメからもらった源氏名とともに初めてホストの卓につく。LLでも売れっ子ホスト、西京ユイガの卓のヘルプだ。


「おまえ誰?」


ユイガが不機嫌そうに聞く。


「本日から入店しました七条ナツメです。お願いします」

「つまんねー挨拶だな笑。おまえ売れなさそう」

「ユイガ〜、新人さんかわいそうだよ〜」

「失礼します。お酒いただいてもよろしいですか?」

「アヤ、こいつ飲みたいって。いい?」

「ユイガ、優しい〜。しょうがないな〜」

「ありがとうございます」


オレのグラスいっぱいにユイガがシャンパンを注ぐ。豪快な男だ。


「じゃあ、それ一気な」

「ユイガひどい〜笑。でも、アヤも新人くんのガッツ見てみたいな笑」


これがヘルプか…。ヘルプは基本的に多くの卓を回るのでグラスに半分以下しか注がず1卓1卓でそんなに飲まない。ただ担当ホストと姫に煽られた時は盛り上げるために飲まざるを得ない。


「頂戴します」


ゴクゴクッ


オレは注がれたシャンパンを一気飲みする。


「新人くんやる〜!」

「いいねお前。じゃあ、もう一杯な」

「ユイガ、新人くんかわいそうだよぉ。でも、アヤももう一回見たいかも!見せてくれたらアヤ、もう一本おろしちゃうかも!」

「え?まじ?お前頼むわー」


こいつらいつか殺してやる。そう心に誓いつつ覚悟を決める。


「ありがとうございます。いただきます」


「七条さん、お願いします」


オレを呼ぶ店内アナウンスが鳴る。


「ナツメく〜ん。ユイガから洗礼受けてたね〜。大丈夫〜?」

「大丈夫です。」

「強いねナツメく〜ん。じゃあ、次いこっか〜!紅咲さん、ナツメくんゆうたんとこつけて〜。じゃあ、いってらっしゃ〜い」

「七条さん、次は南ゆうたさんの卓にお願いします」


オレは紅咲に促されるまま、南の卓に向かう。


「七条ナツメです。ご一緒してもよろしいですか?」

「新人くん、いらっしゃい!ぼく、南ゆうた!よろしくね!」

「お願いします」

「ねね!ぼくとリナの写真撮って!」

「わかりました」


南からスマホを渡される。オレはそのまま南とその客にスマホを向ける。


パシャッ


「いかがですか?」

「うん、ありがとう!ぼくもリナも盛れてる??」

「お二人とももともと素敵ですけど、より映えますね。」

「お??やるね〜。普通に盛れてるって返してたらシバいてたよ!」


思わぬ返しに驚く。危なかった。


「ゆうた、新人くん驚いてるよ〜」

「だって細かい配慮出来ないヘルプなんていらないじゃん??せっかく一緒にいるんだから少しでも楽しい時間過ごしてほしいもん。リナもそうでしょ??」

「も〜う、ゆうた〜。」


リナは南に抱きつく。


「ゆうた、リナ、この後もゆうたと一緒にいたいな」

「ぼくもリナと一緒にいたいけど、他の卓にいる子にもアフターお願いされてるんだ…。しかも、向こう結構使ってくれるし…ね??」

「やだ!」

「ごめんね。向こうのほうが使ってくれてるから…」

「やだやだやだ」

「もうわがまま言わないでよ〜。じゃあ、リナもう一本おろしてくれる??」

「それは…言ったじゃん今月厳しいって…」

「じゃあ、今日は無理かもね」

「やだ」

「やだじゃないの。今日はごめんね」

「やだやだや。」

「ごめんね…」

「クレカなら…クレカならいける…!」

「え??なに??」

「クレカで一本おろす」

「え!ほんと!?」

「これで今日ゆうた、リナとずっと一緒にいれる?」

「うん!いれるいれる!ぼくもリナと一緒にいたかったから!うれしい!」

「やった!!!うれしい!!!」

「リナありがと〜!」

「じゃあ、新人くん向こうに勝てる分お願い!」

「はい。かしこまりました。南さん、少しお願いします」

「おっけー!」


オレは金額確認するため、南を呼びバックヤードに向かう。


「南さん、向こうはいくら使ってるんですか?」

「全然だけど!この後そのまま帰るらしいよー!」

「え?アフターないんですか?」

「ないよ!アフターなんて。いい??これは駆け引きなの。こうやってシャンパン煽るんだよ??わかった??」

「な、なるほど。じゃあ、どれ注文かければいいですか?」

「いいよロゼで。どうせそれ以上無理だし!」

「わかりました」


オレは納得しないまま、南の指示通り注文をする。


「ぼくちょっと向こうの卓行ってくるから。いい??リナのこと少し任せて。姫が卓に1人になってるでしょ??あれ、オンリーって言って基本NGだからね!」

「すみません。任せてください」


オレは南にそう言われると急いでリナがいる卓に向かう。


「リナさん、ありがとうございます」

「何にしたの?」

「ロゼです。」

「ロゼか〜。ならまあいいや〜。でも、出勤増やさないとだな〜。」

「南さん、カッコいいですよね」

「そうなの!ゆうたはカッコいいの!なのに、2人だと甘えてくるから可愛いんだよね!」

「そうなんですね。リナさんとはそういう関係なんですね〜!」

「わかる?ゆうたぜったいそうゆうこと言わないけどリナとゆうたはそうなのー!」

「え??なに??何の話??」


南がこちらに戻ってくる。


「えへへ。ないしょー」

「え〜、教えてよ〜!」

「ないしょなのー。ねえ、ゆうたロゼは?」

「ぼくひょっとしたらリナのおかげで今日ラスソンかも!」

「ほんと!?ゆうたすごい!!」

「リナのおかげだよ!だからね、今、駆け引き中だからロゼはもうちょい後で!」

「わかった!リナも待ってる!」


「七条さん、お願いします」


再び店内アナウンスがオレを呼ぶ。


「どうだった〜?」

「なんかすごかったです」


あまりの衝撃にうまく言葉が出てこなかった。


「まあ、びっくりするよね〜!あれがゆうたのやり方だからね〜。ボクとしてはあんまりだけど〜」


ホストにはホストなりの美学があるようだ。


「でも、良い感じにヘルプつけてたよ〜!センスあるね?じゃあ、次No. 1の卓行ってみよう〜!」

「No.1ですか?」

「そう、LLの不動のNo.1北条麗人のとこ行こっか!」

「北条?」

「気付いた〜?キミとボクと同じで条の字ついてるよ〜」

「ひょっとして北条さんも水木さんの紹介ですか?」

「違うよ〜。麗人はまた別だよ〜。まあ、それは本人から聞いてごらん。いってらっしゃい〜」


オレは言われるままにNo.1北条麗人の卓へと向かった。


「失礼します。私は…」

「「七条ナツメ」」

「えっ!?」


名乗ろうとしたところに、北条麗人が被せてきたので思わず声を出してしまう。


「七条ナツメくんだよね?」

「え、あ、そうです。な…。あ、よろしくお願いします」

「ふふ。なんで知ってるの?って聞こうとした?あぁ、ごめんね。掛けて良いよ」

「失礼します」

「なんでって聞こうとしてやめたよね?えらいね、ちょっと失礼だもんね。目上の人になんで知ってるのって聞くの」

「は、はい」

「ゆい、この子がさっき話してた七条ナツメくんだよ」

「え、カッコいい〜」

「ありがとうございます」

「ふふ。お利口だね。ボクこのお店の代表だからね、内勤さんから話聞いてたんだ、条の字がつく子がきたって。だから覚えたんだよ」

「光栄です。北条さんNo.1ですし、やっぱり風格がありますね、姫さまもとても素敵ですし」


他のホストのようにブランドもので固めた身なりではなく、オーダーメイドであろうスーツにピアス1つとシンプルな格好だったが、あの一条ハジメの店でNo. 1を取るだけあって実際、北条麗人には気品のようなものがあった。


「ふふ。ありがとう。あ、麗人でいいよ。それに今日はボクの卓ではそういうのなしで大丈夫だよ。普通に話そう?」

「いやいや、そんなわけには…。わかりました」

「やっぱりキミは賢いね。かしこまられるのは実は少し苦手でね。でも、普段は代表だから多少はね。察してくれて助かるよ」

「北条さ…。いえ、麗人さん」

「うん?なに?」

「不動のNo. 1って伺ってたのですが、どれぐらいなんですか?」

「そんなことないんだけどね、そう言われてるみたい。」

「麗人は、LLの初代年間王者だよー!しかも、年間王者も今も継続してるんだよ!」

「ゆい、あまりそんなこと言わないでよ。恥ずかしいから。」

「麗人は凄いんだからたまにはいいの!」

「え?LLが出来てからずっと年間王者ってことですか?」

「まあ、そうだね。でも、出来たばかりのグループだからそんなにだよ」


さすがにオレでもわかる。ホストは出入りの激しい世界で、LLが出来て4年も年間王者を取り続けるのは普通あり得ない。


「それって相当凄いですよね!?」

「そんなことないよ。…その話はもういいかな」

「麗人はね。特別なんだよ!」

「ゆい、もうやめてね…」

「あ、特別といえば一条さんから条の字のつく七条ナツメの名前をいただいたのですが…」

「条の字について知りたい?」

「はい、麗人さんはまた別だって聞いたので」

「ふふ。社長は、意地悪だなー。条はね、社長の認めた子だけがLLでは使って良いんだよ」

「それって何人かいるんですか?」

「いや、いないよ。今いるのはキミとボクだけかな。社長からつけてもらったのはキミが初めてだよ」

「麗人さんは、違うんですか?」

「社長がLLを作って4年ちょいかな。ボクは社長に憧れてこの世界に入ったんだ。LLのオープニングスタッフとしてね。でも、全然売れなくてね。」

「え、麗人さんがですか?」

「そうだよ。その頃、ボクは必死だったんだ。売れるために何でもやったよ。そうして半年ぐらいして初めてラスソンを取った。そこから徐々に伸びていって年間No.1が取れたんだ。でも、社長は認めてくれなくてそれが悔しくてボクは次の1年で必死にV12取ったんだ。」


V12というのは月間No.1を12回連続で取ることだ。つまり、年間通してNo.1取ったということだ。


「凄い話ですね…」

「年間王者を連覇して社長から初めて褒められたんだ。凄く嬉しかったよ。そこで改名させてもらったんだ社長から条の字をもらってただの麗人から北条麗人に。」

「麗人さんの条の字は、必死に勝ち取った認められた証なんですね。そんなの聞いたら、ボクに条の字なんて恐れ多いです」

「いや、良いよ。少し寂しいけどね。社長の先見の明は確かだし、ボクも今話しただけでキミのことは気に入ったから」

「ありがとうございます」

「今日はありがとね」

「いえ、こちらこそありがとうございました。改めてよろしくお願いします」


ホストには抵抗があったが、オレは目の前にいる北条麗人にいつの間にか敬意のようなものを持っていた。

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