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第3章 源氏名

「か、帰りたい…」


思わずそう呟いた。

水木のサポートで初回のつき方、ヘルプの仕方などの基礎をこの数日叩き込まれた。そして、今日は体験入店初日だ。

しかし、いざ入ってみると想像とは全く違うものだった。17時に出勤して一通り説明を受けるとバックヤードに通された。


「おい、新入り。」

「は、はい。」

「これも洗っとけよ、あとこれはやり直し。」


現在21時、ここまでひたすらグラスを洗っている。せっかく覚悟を決めてきたのにひたすら食器を洗っている。ホストはもっと派手な世界だと思っていた。一体、何をしているんだろうか…。


「「「お疲れ様です!!!!!」」」


フロアにいたホストたちが一斉に声を出す。


ガッシャーン…!


思わず驚いて手を滑らせ、洗っていたグラスを割ってしまう。


「すみません…!」

「おい、新入り…‼︎すみません、社長‼︎」


どうやらあの一条ハジメが店に来たみたいだ。あの大声はそのためだったらしい。


「素敵な素敵なお姫様方、うちのが失礼しました〜。どうかごゆっくり〜。」


ブランドものを身にまとった男は、フロアに向かって丁寧に頭を下げる。一瞬にして空気が変わる。カリスマホストとはこれほどなのか。


「新入りく〜ん。どうも〜。」

「す、すみません…。」

「気にしなくて良いよ〜。キミは水木さんからの紹介だし〜、やっぱり聞いてた通りイケメンだね〜。」

「ありがとうございます…。」


どうやら水木の影響力はオレが思っていた以上らしい。


「どう〜?指名取れた〜?」

「今日は日比谷さんから言われてずっとグラスを洗っていました。」


日比谷、日比谷レオンはオレの教育係だ。売れてはいないがそこそこベテランらしい。


「ねぇ〜、日比谷呼んで〜」


一条ハジメは近くにいた内勤に声をかける。


「日比谷レオンさん、日比谷レオンさん至急バックヤードまでお願いします。」


日比谷を呼ぶアナウンスが店内にかかる。


「失礼します。ハジメさん、新人のことで何かありましたでしょうか?」

「日比谷く〜ん。この子、水木さんの紹介なんだけど〜。」

「そうだったんですか…。すみません…。」


日比谷はハッとした顔をしてすぐに謝罪する。


「すみませんじゃねぇよ。」


ゆるい雰囲気だった一条ハジメの顔つきが急に変わる。


「すみません…。」

「だからすみませんじゃねぇよ」

「すみません…。水木さんの紹介って自分知らなくて…。」

「見たらわかるだろ才能が。なんで卓につかせてないの?」

「は、はい…。」

「はいじゃなくて、なんで?」

「…。」

「ねぇ、なんで?…まあ、いいや。」


一条ハジメの剣幕に日比谷はすっかり圧倒されていた。


「じゃあ、そういうことだから〜。新入りくん、おいで〜。」

「は、はい!」


オレは一条ハジメと日比谷のもとに急いで駆け寄る。


「これから卓ついてもらうけどいける〜?」

「あの源氏名って…?」

「えぇ〜?源氏名すらまだだったの〜?」

「すみません…。」


源氏名さえ決まってなかったことに一条ハジメは目線で日比谷を軽く責める。


「キミなんか希望ある〜?」

「オレこういうの初めてでよくわからないです…。」

「何もないの〜?」

「源氏名って重要なんですか?」

「別になくても良いけどね〜。あとあと困ったりするんだよ〜。ストーカーとかね〜。」

「なるほど。」

「希望ないならボクがつけてあげるけど、どう〜?」

「え、あっ、じゃあ、お願いします。」

「ん〜、どうしようかな〜。七条ナツメ!せっかくだからボクから条の字を取ったんだけどどう〜?」

「じゃあ、それで。ありがとうございます。」

「源氏名ってね、意外とそれが売上につながったりホストをやる上で色んなことがあると思うけど自分自身と源氏名の自分でわけるって意味でも大事なんだよ〜。」

「そうなんですね。」


自分自身と源氏名の自分でわけるということは、あまりよくわからない感覚だったがとりあえず返事をしておいた。


「じゃあ、さっそくヘルプついてみよっか〜!紅咲さん、お願い〜!」


一条ハジメは近くの内勤にオレを預けるとフロアに向かう。

こうして、オレの七条ナツメとしてホスト生活が始まった。

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