第21章 展開
「北条麗人、個人チャンネル始めます」
アップロードされた動画は、麗人のイメージビデオのような内容だった。
LLのNo. 1はどこか品があり整った容姿は様になっていた。注目度も反応もかなりのものだった。
「ナツメ、前に話してた対談動画撮らない?」
麗人の動画を見ていると当の本人から連絡が来る。
「ぜひお願いします」
「じゃあ、今日のミーティング終わりで」
以前から調整していた麗人との対談の約束を取り付けるとオレはLLへと向かう。
「おはようございます」
「「「おはようございまーす」」」
「ねえねえ、ナツメ!動画見たら連絡してって言ったじゃん♪」
出勤するなり天沢が話しかけてきた。
「あれって掃除組でも個人チャンネル始めても良いってことかな?良いならなおさら麗人さんとの対談セッティングしてほしいな⭐︎」
「まあ、それは後々ね。個人チャンネルに関しても今日の営業終わりのミーティングで話があるんじゃない?」
「あー、確かに♪じゃあ、今日も頑張ろうね⭐︎」
今日はLL全体で指名での来店予約が多かった。それもそうだろう。社長である一条ハジメが大きく動いたからこそ不安に思う客たちは担当のとこに聞きに来るのは当然の流れだ。しかし、それは無駄足になるだろう。当事者であるホスト達ですら何も聞かされていないのだから。
「カンナ、今日も来てくれてありがとう」
「ナツメくんっ♡カンナも会えてうれしいっ♡社長の動画見たけどこれからも変わらず会える?いなくなったりしない?」
「しないよ。これからもたくさん会いに来てね」
「ほんとっ!?うれしいっ!今日はナツメくんの好きなの頼んでいいよっ♡」
「無理しなくて良いよ、でもありがとう」
オレのエースであるカンナも例に漏れず不安そうだった。オレを繋ぎ止めようとしたのか締め日でも記念日でも何でもない日に50万overの高額のオーダーをした。
「記念日でもないのに本当に良かったの?」
「うんっ、いいのっ♡」
「そっか、ありがとうね。じゃあ、せっかくだから今日はオレとカンナの記念日にしよっか。何の日にする?」
「えー!ナツメくん天才っ!じゃあ、ナツメくんが天才すぎるから天才記念日にするっ♡」
「なにそれ笑」
オレも今日はカンナ以外にも既存客からの予約が多かった。LL全体でも常に予約で満卓だった。
「LLって今後どうなっていくの?」
オレは卓についた時、既存のお客様は全員この疑問をしてきた。オレも知らない部分が多く、地下でのことを話すわけにもいかないので他のホストと同じように知らぬ存ぜぬで通した。
「なんとなんと超高額オーダー、総額1000万over我らがNo.1、北条麗人代表の素敵な素敵なお姫様から高級シャンパン、ロジャーレイリーパールを頂きました。お前ら集まってこいや」
不安が漂う空気を一変させる一撃1000万overのオーダーが入る。どこか身が入らないままのホスト達がオールコールで麗人の卓へと集まる。
「うりゃそりゃ、わっしょいわっしょい」
「「「うりゃそりゃ、わっしょいわっしょい」」」
「歌舞伎の街でオレらが魅せる夜の夢〜♪さあさあさあさあ」
「「「さあさあさあ」」」
オールコールが始まる。
「ちょっと待って、マイク貸して」
麗人は音頭を取るホストからマイクを奪う。
「何?今のコール。1000万の価値があるって言えるかな?もう一度切り替えてやり直して」
ふわふわとしていた空気が一気に締まる。
「うりゃそりゃ、わっしょいわっしょい」
「「「うりゃそりゃ!わっしょいわっしょい!」」」
「歌舞伎の街でオレらが魅せる夜の夢〜♪さあさあさあさあ」
「「「さあ!さあ!さあ!」」」
さっきの気の抜けたコールとは異なり、息のあった迫力のあるコールへと変わる。
「さあさあ、ここで我らがNo. 1、北条麗人代表から一言!一言ください!それじゃあ行くぜ!行くぜ!」
「「「スリー!ツー!ワンダー!」」」
「さっきはごめんね。色んなことがあってみんなが不安な気持ちはわかるよ。でも、みんな一回考え直してほしい。ボクらホストが一番に優先しなきゃいけないのは何かな?お客様だよね?それにLLは大丈夫だよ。だって"ボク"がいるから。今の景色が結果が全てだよ。迷わずボクに、社長についてきてほしい。ヨイショ」
「さすが我らが代表、言うことがー?」
「「「違う!」」」
「まさに歌舞伎のー?」
「「「カーリースーマ!!!」」」
「我ら無敵のー?」
「「「Legend Lineー!!!」」」
麗人が鼓舞したことで客も巻き込んだフロア全体が一つにまとまる。器とはこういうものなのだろう。
当然、この日のラスソンは麗人が取った。不安にまみれた月初に一撃1000万over、この熱に浮かされないやつは男じゃない。
営業終了後、全体ミーティングが始まる。
「は〜い、ボクの可愛い王子達。今日もお疲れ様〜」
一条ハジメが一同を労う。
「ごめんね〜?みんな不安にさせちゃったよね〜?だから今日は今後の方針について説明するね〜」
全員が息を呑んで一条ハジメの次の言葉を待つ。
「ただ全てを話すのはまだ時期早々かな〜。だから、まずは簡潔に言うよ。LLの今の形はなくならない。そこは安心してほしい。ただそれと並行してホストの新しい形を作る。う〜ん、新しい形はホストとは言えないかもしれないけどね〜」
ホスト達は一旦、安堵の表情を見せるとさらに次の言葉を待つものと興味をなくしたものにわかれた。
「まず、LLの強みって何だと思う〜?天沢」
「んー、社長がいること⭐︎」
「そうだね、正解だよ〜。そう、このボク"一条ハジメ"がいること。その知名度、影響力だね〜。その恩恵を感じられる場面ってどこだと思う〜?ナツメくん」
「LLの公式チャンネルでピックアップされる部分だと思います」
「そうだね、正解だよ〜。ナツメくん、今キミが一番実感していることだよね〜」
「はい」
「そして、みんな知っていると思うけどナツメくんは勝手に個人チャンネルを開設してあれよあれよと登録者と顧客数を増やした。あ、これはしっかりナツメくんには注意したからあとで言わないであげてね〜?まあ、過程はどうであれ、結果を出した。だから段階的に個人チャンネルの運営の許可を出した。ここまでいいね?」
周りからオレに少し冷たい視線を送られるも気づかないふりをした。
「個人チャンネルの運営、もうすでに幹部以上には許可が出した。さて、ここからが話の本題。LLは新しく事業を展開する。一つ目として、LL傘下の映像制作会社を設立する。社長をマルコDに据えて、マルコDの伝で優秀な技術者を確保した。クオリティーはLLの公式チャンネルを見れば十分わかるでしょ〜?ここで、平の子たちに提案する。この会社を通してなら個人で動画投稿を許可しよう。現状維持か動画投稿かどちらか好きな方を選んでね〜」
突然の提案に、ホスト達は戸惑うが一条ハジメは気にせず続ける。
「もちろん、タダで動画制作してもらえるわけではないよ〜。かと言ってまだこれからなキミ達ではお金を支払って依頼することはできないよね〜?だから空いている時間にこの会社で仕事してもらうし、個人チャンネルで得た収益は会社と折半になる。個人チャンネルも頑張りたいならこの条件で頑張ってほしい。ここまでで何か質問はあるかな?」
「はい、少しいいですか?」
オレはいくつか疑問が浮かぶ。
「その会社、収益って個人チャンネルの広告収入が基本ですか?」
「いい質問だね〜。まだこれからな子達にそんな会社が回るような利益を生む価値はないよね?そこで、ボクがいる。なんて言ったってこのボク、一条ハジメは芸能人だよ〜。伝はある。TV、ネットの番組、インフルエンサーの動画制作など仕事はいくらでもある。それにLLの公式チャンネルをもう一つ開設してそっちはもっとこれからな子達をクローズアップしていく予定だよ」
「なるほど。幹部以上でも依頼することは可能ですか?」
「もちろん!LLの社割で利用できるよ〜」
「助かります。映像制作の経験がないホスト達がやってクオリティーは担保出来るんですか?」
「それも安心してほしいな〜。そのためにプロを引き抜いてきたんだから〜。最初は雑用から、教育もしていくよ。さらに頑張って力をつけて自分で仕事が取れればインセンティブも入る。モチベも落とさないようにサポートするよ。あ、それとLLは求人を大々的に出すよ。出入りの激しい業界だから人手は無限に必要だからね」
持たざる者がチャンスを掴みに来る世界だ。飛び込むには人生の残り全てを賭ける必要がある。なぜならそれしか賭けるものがないのだから。しかし、持たざる者にチャンスと同時にスキルをつける場所を与える映像制作会社は経歴に傷がつく夜職の隠れ蓑になる。それはまた夜の世界に飛び込むハードルを下げることになるだろう。実に合理的だ。
「映像制作会社についてはこんな感じかな〜。また気になることがあれば聞きにきてね〜。あと残り3つ、2つは簡単に。1つ目、配信を許可します。そこで得た投げ銭を売り上げに計上できるシステムを作ります。これはまだ幹部以上のみで。2つ目、LL系列のメンズコンカフェ"Legend Line Miniature Garden"を出店します。移籍希望も受け付けます」
これで大手を振って投げ銭を使って麗人と勝負できるかもしれない。コンカフェのオープンはクリーン化に向けてホストを徐々にマイルドにするのに自然な流れだと感じた。
「ん〜、とりあえずこれが最後で1番大切な話かな〜」
一条ハジメは、ざわつく一同が静かになるのを待ってから宣言した。
「Legend Lineは、Bleach Witchと経営統合します」




