第16章 締め日
「麗人さん、オレと対談動画撮りませんか?」
オレは麗人に動画の撮影を持ちかける。
「本当は天沢にも手伝ってもらおうと思っていたんですが、まあいいです。動画撮りませんか?」
「ふふ。キミは本当に面白いね。社長に怒られたばかりなのに」
「ダメですか?」
「結論から言えば、ダメだね。キミがすることは面白いとは思うけど、ボクの中で絶対は一条ハジメだ。社長が、白といえば白、黒といえば黒だよ。ましてや運営側でもある代表のボクがそれをやっちゃったら会社として成立しなくなるよね?」
それは確かにそうだ。LLの実質No.2が上の判断に逆らってしまっては統制が取れない。
「ふふ。そんなに落ち込まないで?ボクとしては結構良いことだと思っているんだ。だからこそ、新しいことをするなら結果で示すかそれ相応の理論武装をしてこなきゃだね」
「わかりました。じゃあ、オレは社長を説得します。許可がおりたらその時はオレと一緒に動画撮ってください」
「ふふ。もちろん、社長が許せばボクは全然構わないよ」
「それともう一つ、オレは1人でどんどん個人チャンネルを運営していきます。それに麗人さんは目を瞑るっていうのはどうでしょう?」
麗人は何も答えなかった。黙認すると捉えて良いのだろう。
「麗人さん、天沢がご飯行きたいって言ってました。今度3人でどうですか?」
「いいよ、最近ナツメは天沢とよくいるよね」
「ほぼ同期なんで」
「余計な入れ知恵したらだめだよ?」
釘を刺された気がした。
「ナツメは、普通のホストとはちょっと違うから」
「わかりました」
今の売り上げは、仕組まれた最速記録とたまたまバズった影響が9割だ。そこに本質はない。要はそれをモノに出来るか。そのために、個人チャンネルは継続する。
当初のプランとは少しずれたが関係ない。一条ハジメからNoと言われたが無視して動く。もちろん、交渉もしつつになるが、麗人に言われたように結果も作らなきゃいけないからだ。
モーニングルーティーン、募集した質問に答える様子などよくあるインフルエンサーのフォーマットを自分の形に落とし込んで撮影に臨んだ。定期的に週に2、3本投稿する形にする。ホストをやりながら1人で成立させるのは時間的に厳しいが、さすがにマルコDにはもう頼めない。だからスタッフとして天沢を雇うことにした。天沢は掃除組で金銭的に余裕がないこともあり、快く承諾してくれた。
天沢をスタッフとして雇った大きな狙いとして、いつか天沢ナナの個人チャンネルを開設した時に使えるノウハウを学ばせること、動画編集のスキルをつけさせることだ。これはいずれオレにもリターンが来るだろう。
2週間後
オレの個人チャンネルは、ある程度軌道に乗りその影響で売り上げも伸びた。ホストを始めて初の締め日を迎えた。当然、撮影も入る。
「七条ナツメです。ご一緒してもよろしいですか?」
「え!七条ナツメ、初回つくの!?」
「はい、隣いいですか?」
「まじか!やった!いつも動画めっちゃ見てる!!!」
これはいつも初回やヘルプにつくとよく言われる。オレが思っている以上にホストに通う客が動画を見てるようだ。
「LLのホスト、麗人様かナツメくんしか知らないし良い人いなかったらどちらか指名しようかなって思ってたけどナツメくん初回ついてくれるなら飲み直しお願いしようかなー」
「本当に?オレこんな可愛い子にそんなこと言われたら嬉しいわ!初回の時間、破ってここに居座っちゃおうかな」
「いいじゃん!居てよ〜」
「じゃあ、とりあえずLINE聞いてもいい?」
「うん!交換しよ?」
連絡先をゲットして適当な文を送る。
「七条ナツメさん、お願いします」
「あれ?もう呼ばれちゃった。一緒にいるの楽しくてあっという間だった」
「え〜、もう行くの〜」
「うん、ごめんね。良かったらこの後指名してね。後悔させないから」
ホストを始めてから、初回は少し話し足りないくらいに留めておく方が指名に繋がることが多く意識するようになった。
さっきのお客様からも飲み直しをいただけた。初回、ヘルプもこなしつつ、指名客の接客を行う。今日は締め日ということもあり、1番お金を使ってくれるエースと呼ばれる太客が来店していた。
「カンナいつもありがとう」
「ナツメくんっ、今月No.入れそう??入店初月に入りたいもんねっ♡」
カンナは、いわゆるホス狂だ。担当になって間もないオレに依存気味でほとんど毎日来てくれる。しかし、結構な額を使ってくれるので無碍にはできない。
ホストをやってて水木が言っていたことが少しわかった。
ホストは女を騙して金を稼ぐ。それは揺るぎない事実だ。ただ純粋に担当を上に押し上げたい者や依存することで生きる糧にしている騙されたくてわざわざ来ている者も意外と多いと感じる。
元精神科医としては褒められるものではないが、それで人生の歯車が回っているのであればそれはそれで良いのかもしれない。回っている歯車を他人が無理やり付け替えるのも変な話だ。悪い夢だったと目が覚めるまではそれできっと良いのだろう。
「カンナ、無理しなくても大丈夫だよ。今、No.6辺りだからNo.には入れそう」
「ナツメくん、すごいっ♡でも、どうせならNo.5以上にいきたいよねっ?いくらあればいけそっ?」
「本当に大丈夫だよ。まあ、あと50あればNo.4ぐらいにはいけると思う」
「じゃあ、シャンパンおろすっ♡すみませーんっ♡」
あくまで自分で選んだって事実が大切。オレは提示をするだけ。自分から煽るのとでは大きな差がある。
カンナが注文した50万overのシャンパンはラストオーダーに間に合った。締め日ラストオーダーギリギリで注文することで他のホストや客同士と駆け引きが発生する。
「素敵な素敵なお姫様方、本日もご来店いただきありがとうございます。LL社長の一条ハジメです。素敵な素敵なお姫様方、ボクの可愛い王子たち、長らくお待たせいたしました。集計が終わりました。」
一条ハジメが壮大なBGMとともにフロアに向け、挨拶をする。
「指名本数、顧客数、総売上の順で今月のNo.発表をボクからさせていただきます。指名本数、顧客数は上位3名、総売上は上位10名の発表となります」
ホストとそのお客様が身構える。
「指名本数No.3は西京ユイガ総支配人です!おめでとうございます!続いて、指名本数No.2は七条ナツメ副主任です!おめでとうございます!」
話題性もあり、指名が多かったオレの名前が呼ばれた。
「続いて、指名本数No.1を発表します。やはりこの男に勝てるやつはいないのか?指名本数No.1は北条麗人代表です!おめでとうございます」
やはり麗人は強い。話題性のあるオレよりも指名本数を勝ち取っていた。
「それでは、顧客数No.の発表に移ります。顧客数No.3は南ゆうた支配人です!おめでとうございます!続いて、顧客数No.2を発表します。なんと今月は指名本数、顧客数、総売上で不動の1位が顧客数で連続V記録が途切れてしまいました…。No.2は北条麗人代表です!おめでとうございます!」
顧客数で麗人が2位、一条ハジメの言葉の続きを待つ。
「なんと顧客数No.1、期待の新人がやってくれました!顧客数No.1は七条ナツメ副主任です!おめでとうございます!」
…勝った!麗人に…勝った!顧客数での話だが、オレが麗人の牙城を崩した。とてつもない高揚感が込み上げてくる。
しかし、そんなオレとは対照的にフロア内はピリついた雰囲気だった。
「続いて、総売上のNo.1に移ります」
カンナが手を握ってくる。オレはそれを握り返すことはしなかった。
「総売上No.10は千草ハグサ王子です!おめでとうございます!千草ハグサ王子は初のNo.入りです!
…
続いて総売上No.5は東流星EPです!総額700万over、おめでとうございます!
総売上No.4は七条ナツメ副主任です!なんと入店初月で総額800万overでのNo.入りの快挙です!おめでとうございます!」
オレはNo.4だった。予想通りでは合ったが、正直No.1を争えるんじゃないかと舐めていた。
「それではお待ちかねの総売上TOP3を発表いたします」
フロア内のBGMが変わる。
「総売上No.3は西京ユイガ総支配人です!1200万overです!おめでとうございます!」
No.4のオレと400万も差があった。
「さあさあ、皆様。今月のNo. 2を発表いたします。我らが代表の連続Vはついに止められるのか?いくぜ!いくぜ!いくぜ!今月のNo.2は南ゆうた支配人です!総売上1600万overです!おめでとうございます!」
もうNo. 1は聞かなくてもわかる。
「そしてそして、皆様もうお分かりですね?今月のNo. 1はこの男!北条麗人代表です!この男は誰も止められないのか?総売上はなんとなんと驚愕の驚愕の3200万overです!おめでとうございます!」
麗人は、想像以上に圧倒的だった。オレの売上の4倍、No.2のゆうたですら麗人の半分だ。
「それでは、今月のNo. 1を讃えるオールコール!オールコールをかましていくぜ!集まってこいや!」
LLでは締め日に今月のNo. 1を讃えるオールコールを行う。全ホストがNo.1の前に跪き、社長である一条ハジメが直々にコールをする。
「うりゃ!そりゃ!うりゃ!そりゃ!」
スタッフ総出でシャンパンコールが始まる。負ければ跪き、勝てば玉座に座るシンプルな構図だ。負けたホストのお客様は卓に残され担当の惨めな姿を見せつけられる。そうやってホストやそのエースは敗北の味を覚えていく。
「えー、今月もNo.1を取らせていただきました北条麗人です。全てはボクを支えてくれる素敵な姫のおかげです。今月は面白いことが起きまして久しぶりに熱くなれました。その熱に応えてくれた姫のおかげで3200万overになれました。ありがとうございます。
ここで一つ、お話をさせていただきます。」
麗人は神妙な顔つきで一瞬、一条ハジメに目線を送る。
「ボクは一条ハジメ社長に憧れてこの世界に入りました。社長とはLLが出来る前にいたグループからの付き合いで、ずっと隣でお仕えしてきました。この街に改革をもたらすには舐められるわけにはいかないと社長と話をして全力で走ってきました。そして、LLの不動のNo. 1になりました。そんなボクですが…」
麗人の次の言葉をフロア中が待つ。
「今年いっぱいでプレイヤーを引退することにしました」
突然の引退宣言に、響めきが訪れる。
「社長とは話し合って決めました。まだ半年以上ありますが、残り期間全力で駆け抜けます」
麗人は神妙な顔つきから悪戯する子供のような顔をした。
「いい?ボクは今年で社長を超える。なりふり構わず日本一を目指す。這いつくばっている雑魚ども。ボクから玉座を奪ってみなよ。熱くさせてみなよ」
麗人は全力で煽る。
「返事は?」
「「「うおおおおおおおおお!!!!!」」」
這いつくばっていたホスト達が地鳴りのような雄叫びをあげる。オレも思わず声を上げる。
麗人が一条ハジメにマイクを渡すと続けて煽る。
「お前ら、覚悟は決まったか?」
「「「うおおおおおおおおお!!!!!」」」
「いくぜ!いくぜ!オレら無敵のー?」
「「「Legend Line!!!」」」
ただならぬ熱気に包まれたまま、初めての締め日は幕を下ろした。




