第14章 密着
「オレがホストになった理由?それはこの街がオレを呼んでいたから」
オレはカメラに向かってキザなセリフを吐く。
一条ハジメのチャンネルをほとんど運営しているマルコDにオレは密着取材を依頼した。
「オレに密着しませんか?」
「え?どういう意味?くっついてってこと?」
「違います、密着取材してほしいってことです」
「あぁ、取材の方ね?それ、だめネ。一条さん、好きに撮ってイイ言うけど、個人に肩入れダメ言われてる」
LLのチャンネルでは、一条ハジメの密着、LLの営業風景、その他事業の紹介など一条ハジメに関わるものを全体的に撮影してマルコDが面白いと思った所にクローズアップする。ヤラセはなしだ。
「それは知ってます。でも、それは"LLのチャンネルでは"ですよね?」
「ハイ、そうです」
「ってことはオレのチャンネルなら平気ですよね?」
「ナツメさんのチャンネル?」
「はい、オレが新しくチャンネルを開設します。そこで密着取材をしてほしいんです。あわよくばLLの方でこっそり宣伝も」
「ちょっとオモシロイかもですね、それ」
「じゃあ、お願い出来ますか?もちろん、お礼もお支払いします」
「でも、一条さん、怒らない?大丈夫ネ?」
「オレから社長にはちゃんと言っておきますから安心してください」
オレは、一条ハジメにこの話をするつもりはない。
前例のないことを始めるのに許可取りなんてしてたら時期を逃す。勝手に進めて許可を出さざるを得ない状況にしてしまえばいい。
「じゃあ、決まりですね。お願いします」
「営業風景、軽いインタビューするはあったけど密着取材初めて。ナツメさん、オモシロイ人ネ」
LLの強みは一条ハジメの知名度だ。一条ハジメから紹介されれば個人のSNSも爆発的に注目される。一条ハジメは律儀に自身のアカウントでLLに入店したホストを紹介する。オレのSNSも紹介され相当な数アクセスがあった。それに動画投稿サイトでバズったこともあり、オレのアカウントはアクセスだけでなくフォローまでかなりの数してもらえた。
一条ハジメの知名度、バズった反響を利用しない手はない。当然、バズの効果は短いので初動が大切だ。
一気にオレのSNSはフォロワーが増えたが、それはあまり意味を持たない。SNSは流動性が高く密度はなく本質的ではないからだ。だからより密度の深いコンテンツに誘導する必要がある。そのためのチャンネル開設が必須である。麗人に勝つにはそれぐらいしないといけない。
「ナツメさん、今日は、お願いネ」
「マルコさんお願いします」
マルコDとオレの密着取材を始める。
「なんでホストを始めたんですか?」
「オレがホストになった理由?それはこの街がオレを呼んでいたから」
「一旦、ストップするネ」
撮影が止まる。
「ナツメさん、いつもとキャラ違う、こんな感じで行くつもりネ?」
「ダメですか?」
「いや、だめじゃないヨ、でも、ビックリするネ」
「ごめんなさい、動画はちょっとオーバーにいきます」
耳に残るフレーズが大切だからだ。撮影を再開する。
ホストを始めた理由や他のホストとの話、1日のルーティーンなどを撮影する。
もちろん、フレーズを意識したセリフを吐いていく。しかし、少し下手くそに演じる。人間味を垣間見せる。これから投稿する動画や配信の準備だ。
「マルコさん、今日はありがとうございました」
「ナツメさん、こちらこそありがとネ。面白かったヨ」
「編集が終わったら一度連絡をください」
「オッケーね、なるべく早くするヨ」
「お願いします」
そう言ってマルコDと別れると、オレはいくつか動画を撮影する。チャンネル開設のお知らせ動画と配信の準備する告知動画だ。
そんなこんなで営業の時間が近づく。そのままの足でLLへと向かう。
「おはようございます」
「「「おはようございまーす」」」
「ナツメさん♪今日も出勤早いですね⭐︎」
天沢が話しかけてきた。
「許可あっても新人だから一応ね」
「さっすがー!売り上げある人は違いますね⭐︎」
「運が良かっただけだよ。それより、天沢は同期なんだからタメ口にしようよ」
「いいですね♪じゃあ、タメで!それとナツメくんって呼ぶ!」
「おっけー、天沢、今日終わったら時間ある?」
「空いてるよー、アフター?」
「いや、ヘルプじゃなくて2人でご飯でもどうかなって」
「じゃあ、僕とアフターだ♪」
「そうだね、じゃあ、また営業後」
天沢との約束をこぎつけるとお客様のもとへと向かう。今日はSNSからの初回指名が1人と指名し続けてくれているお客様が1人いる。今日も通常通り、指名客やヘルプにつき営業をこなした。
「おつかれさまでーす♪」
「おつかれ」
営業が終わり、天沢と合流する。
「今日はどこ行くのー?」
「焼肉と寿司どっちがいい?」
「お寿司!良いとこ行きたい♪」
「じゃあ、寿司にしようか」
オレは、「鮨屋 扇」へと向かう。個室もあるため、個人的な話もしやすい。
「そういえば、ナツメくん♪この間マルコDとなにか話してなかった?」
「ああ、ちょっとね」
「何話してたのー?」
「普通に世間話だよ」
「なんだー、悪だくみかと思った⭐︎」
天沢は、意外と鋭いとこがある。
「天沢は、どうやって営業かけてるの?」
「んー、初回ついたりマッチングアプリ使ったりしてるかな♪」
「なるほどね、どう?」
「あんまり指名には繋がらないかもー、たまに同伴できるけどね⭐︎」
実際、ナンパやマッチングアプリで営業をかけるホストは多い。しかし、コンプライアンス的になかなかやりにくくなっているのが現実だ。
「やっぱりなかなか厳しいよね。オレも動画の反響で今は指名が取れているけどその影響は長く続かないだろうから何か出来ないかなって考えてるんだよね」
「えらいね♪贅沢な悩みだ♪」
「そういうつもりじゃなくて…」
「冗談だよ⭐︎」
「ごめん、でも実際そう思っている」
確かに少し嫌味な話になってしまったかもしれない。
「オレに少し考えがある。いずれわかるからその時は話に乗ってくれるか?」
「うーん、内容次第かな♪でも、前向きに考えておく⭐︎」
「それと、今度麗人さんを誘ってご飯行こうと思うけど行きたい?」
「もちろん、行きたい♪」
「じゃあ、また連絡する」
完璧ではないが、これで仕込みは十分だ。そんなこんなで天沢との食事は解散の時間になった。
次の日、LLへと出勤する。どうやら今日は撮影が入るそうだ。
「ナツメさん、マイク、これネ」
マルコDが話しかけてくる。マイクをつけるどさくさに紛れてマルコDがオレに耳打ちをする。
「例の動画出来ましたヨ」




