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逆さまの王  作者: ひじり
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【終章】

 古城へと戻った二人は、ノインの墓石の前に佇んでいた。

「これから、どうするかのう」

 魔力の半分をシイナに分け与えたリュウオは、それでも十二分に他の魔族を圧倒するだけの魔力を秘めているわけだが、リュウオ自身が納得できないでいる。魔を統べる王たる存在として、自分は不適格になってしまった。そう考えていた。

「北へ行くか、南へ行くか、それとも西へ行くか、はたまたミロクのおる東の地へと行くか」

 ロギスタニア大陸を出て、別の大陸へと移り住むつもりだ。そしてそれは一人で向かうのではなく、シイナを連れ添っての旅となる。

「西がいいです」

 思案するリュウオに、シイナが主張する。

「ほう、何故じゃ」

「東のエルバストロス大陸には、嫌いな魔族がいますから」

「くっく……、汝は正直じゃの」

 思わず苦笑してしまう。シイナと共にいれば、こうやって言葉を交わすことも可能なのだ。

 寂しい思いをすることもないだろう。

「うむ、それではシイナの意見を参考にし、西へと向かおうぞ」

 心残りがあるといえば、ノインの亡骸をおいていくということぐらいだろうか。しかしながらそれも要らぬ心配だった。

 リュウオはシイナとの契約を結ぶ際にしてみせたように、空間に亀裂を生み出すと、墓石を丸ごと次元の彼方へと飲み込んでしまった。重力を操ることが可能である限り、二人はいつでもノインの墓石の前に手を合わせることができるのだ。

「汝には、すまぬことをしたのぅ」

 ふと、リュウオは思い出したかのように呟いた。

 了承を得たとはいえ、シイナは占師ではなくなり、更には新たにリュウオとの契約を結んだ。

 強引が過ぎたかもしれない。

「そうですね……。でも、そんなことよりももっと大切なことがあるのを忘れていますよ」

「大切なこと? なんじゃ、それは」

 小首を傾げ、リュウオはシイナの眼を見つめる。

「リュウオ、わたしは貴方と契約を結んだとき、大切なものを代償として支払いました」

「なにを言うとるか、代償を支払ったのは吾の方じゃ、シイナはなにも失っておらんぞ」

 リュウオが言っていることは正しい。決して間違ってなどいない。

 だがしかし、シイナが伝えようとしているのは、そんなことではない。

「いいえ……、わたしは、貴方に未来を奪われました」

「……未来じゃと?」

 占師であったときと同じように、隻眼にリュウオの姿を映し出す。視ることはできずとも、見ることはできるのだ。

「ええ、死を受け入れる未来です。……でも、その代わり、二つの贈り物をいただきました」

 贈り物と称し、シイナは言葉を続けていく。

「一つは、光ある世界を……」

 右目を指差し、瞬きをしてみせる。

「そしてもう一つは……リュウオ、貴方と共に、幸せになる未来を……」

 その科白を口にした次の瞬間には、シイナは踵を上げてリュウオに顔を近づけ、あっという間に唇を奪ってしまった。

「……わたしの、初めての口づけを貰っていただきましたから、二つではなくて三つになってしまいましたね」

 恥ずかしそうに頬を掻き、シイナは可愛らしく微笑んだ。

 この行動には流石のリュウオも驚きを隠せないようだった。

「汝は……、シイナは、想像していたよりも積極的じゃな」

「今回は特別です。二度目はありません」

「ないのか」

「ないです」

 そんなやり取りを交わし、二人は共に笑いあう。

 やがてどちらからともなく手を握ると、古城の外へと向かった。

 扉を開けてみると、すでに回りには多くの魔族が集まっている。リュウオがこの地を離れるという噂を聞きつけたのだろう。この群を見れば理解できるが、ロギスタニア大陸に巣食う九割以上の魔族が集結している。正にお祭り騒ぎだ。

 二人のすぐ傍には、トルエカの姿も見受けられる。

「別れの言葉は、要らぬな?」

 深々とお辞儀をし、トルエカは今もなお忠誠を誓う。

「では……、シイナ=ラヴィリンスよ」

 その名を言葉にし、重力に逆らい、ふわりと舞い上がっていく。

「ちと、長い空の旅になるじゃろうが、存分に堪能するがいい」

 耳元に囁かれ、シイナは小さく頷いた。

「はい、よろこんで」

(了)


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