STORIES 039:道化師たちの眠る場所
STORIES 039
僕は贈り物が苦手だ。
誰かに贈ることも、誰かから贈られることも。
どちらもいつも心を悩ませる。
もちろん、真心や好意のこもったプレゼントは嬉しい。誰かに贈りたくなるときだってある。
だけど、高価なものとか、お返しだとか…
そんなことで悩んでしまうので、サラッと受け取れないし、贈り物を考えるのは本当に苦手だ。
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相手や場面にもよるのかな。
大人になると面倒なことも多いから。
子供の頃はどうだったのかなぁ…
やっぱり、あまり得意じゃなかった気がする。
でも、好きな人がいると…
やっぱりなんとか喜ばせたいから、笑顔になってくれるところを想像しながら、贈り物選びも楽しめるのかな。
うーん…
どちらかというと、そんなときでも悩んで疲れていることの方が多いような…
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20歳そこそこだった頃。
ある日、僕は池袋の百貨店を歩き回っていた。
何がいいかな、何にしようかな…
クリスマスだったか、それとも誕生日が近かったのか。
もう細かいことは忘れてしまったけれど、とにかく彼女へのプレゼントを探し歩いていた。
あちこちのショップを巡り、ギフトになりそうなものを手に取り眺めては、また戻していた。
その時は、そんな時間を楽しんでいたと思う。
時間的に余裕があったのかな。
少なくとも、閉店間際に慌てて探し回るような感じではなく…
まぁ、お金はあんまり持っていなかったけれど。
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暫く探索を続けた後…
ある売場で足を止めた。
美しいオルゴールたちが並ぶ。
大小さまざまな箱の蓋を開けると、少し寂しげで優しい音色が静かに流れる。
アクセサリーを入れられるくらいの大きさも、邪魔にならずに丁度いいのかも。
特に目を引いたのは…
アンティークっぽい色合いに塗られたもの。
カウンターでグラスを前にした、物憂げな表情のピエロが描かれている。
そういうオルゴールというと、大抵はクラシックとかスタンダードジャズのアレンジ曲が使われているけれど…
具体的な曲までは覚えていない。
とにかく、そのピエロだ。
贈り物としては少し陰気かな、とも思ったけれど、なぜか強く惹かれた。
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ピエロというのは、道化師全般を指す「クラウン」のなかのひとつ。
泣き顔のメイクを施し、会話はせず、滑稽な動作だけで人々を笑わせる。
でも、そんな振る舞いをしつつも…
人々から指を指されて笑われていることに、本当は心の中で泣いている。
あの涙のわけは、そういうことらしい。
ステージを終えてひとり安酒をやりながら、その日の演技のことや明日からの暮らしを憂いているのだろうか。
そんなピエロが描かれたオルゴール。
僕は、その日いちばん気に入ったそれを選んだ。
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彼女はとても喜んでくれた。
もし気に入ってもらえなければ、自分の部屋に置きたかったくらいだけれど。
ま、そんなこと言わないか。
そもそも、僕はそういう女性とは仲良くならないしね。
それはともかく、僕が気に入ったピエロの絵は、僕のものにはならないままだ。
30年も前の話。
あのオルゴール、どうしたかな。