表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

イベントの下準備

「…へ?」


 朝出勤すると社長から呼び出しがあった。

 そこで由衣佳(ゆいか)はとんでもないことを聞かされることになる。


「企業アカウントの合同イベントですかあ?!」

「そう、色々な企業アカウントで集まって、楽しそうにして、それをアオトリに載せようという企画だ」

「えっと、我が社も参加なのですか?」

「もちろんだ。有名な企業アカウントが集まる。マンダリーくんももちろん、出席だ。永島くん、頑張ってくれるね?」

「あの、でも、私が中の人ってことは」

「勿論、那加川くんにも行ってもらうよ。彼だけじゃボロがでそうで不安だし。写真を撮る必要もあるだろう?きっと他の企業も二名ほどで参加するはずだ。SCFYさんも、四条丸しじょうまるさんと多鍋たなべさんが来るらしいぞ」


(多鍋さんが……。それは会いたいけど。でも、)


「永島、勿論参加するよな?一緒に楽しもうぜ」


 いつの間にかきていたのか、ポンと肩を叩かれた。


「那加川先輩……」


 由衣佳は既にこの話は断れない段階まで来ていることを悟った。


(ああ、憂鬱)



 企業アカウントのオフ会。

 それは、運動会だった。

 運動会といっても、なつかしの競技で、パン食い競争、借り物競走、くす玉割り、フォークダンスというもの。

 運動会の種目を選んだのは企業アカウントの中の人たちではなく、昭和の企業戦士たちだった。部長以上のクラスのため、異議を出すものもいなくて、そのまま開催されることになった。盛り上がったのは、それぞれの会社の昭和生まれの人たち。

 でも実際動くのは、平成生まれが中心の中の人だった。


 パンを提供するのは野木沢パン。

 マンダリーの提携企業でもあるローズ製紙が紙を提供。

 クズ玉作りなどはそれぞれの企業が協力してすることに。

 企業アカウントの中の人たちも駆り出され、由衣佳ゆいかも勿論参加だ。


(下準備が大変なんて、なんて面倒な)


 企業アカウントの中の人たちは皆笑顔だが、紙を切りながら持参したパソコンやスマホでアオトリ運営も続けている。

 顔色は笑顔を保っているが冴えない。

 そんな中、流次はにこにこといつも笑顔だった。彼の同僚でスカフィーの中の人である麗子は、そんな彼を訝しげに見ている。


「楽しんでますか?永島さん」

「えっとまあ」


 実際、由衣佳はまったく楽しんでなかった。

 自身が中の人であることは秘密なのだから、こそこそとバレないようにアオトリを確認しなければならないのだ。その上那加川が運営しているかのように演出しなければならない。


(そういえば、スカフィーさんはこのところ、日中おとなしいけど)


 運動会の下準備が始まって三日。会場予定のスポーツセンターの一室を借りて、準備をしているのだが、由衣佳と那加川が訪れるといつも、二人はいつも作業をしていた。

 那加川は麗子に会えることもあり、積極的にスポーツセンターを訪れようとしていて、由衣佳は勝手にしてくれとばかり、彼だけ行かせようとするのだけど、那加川はいつも由衣佳を引きずるようにして連れて行った。

 

(まあ、作業している様子とか写真撮って投稿しないといけないけど。気が乗らない)


「……私は、永島さんに会えて楽しいのだけど、永島さんはつまらない?」

「は、え?」


(な、なんて言いました?多鍋さん?!)


 由衣佳は耳に入ってきた言葉を脳裏で再現して、頬が一気に赤くなりそうになった。なので、慌ててくるりと違う方向を見る。


(き、聞き違いよ。聞き違い)


「可愛い」


(な、なんで)


流次りゅうじくん、そろそろ戻らないといけないわ。アポがあるのよ」

「そうでしたね。それじゃあ、またね。由衣佳さん」

「は、え?あの、また、お願いします」


(もうわけわからないわ)


 由衣佳は同様したまま、流次と麗子に挨拶を返した。


「なんだ。二人でいい感じじゃないか」

「先輩!見てたんですか。なんで助けてくれないんですか?」

「助けるって。困っていた?口説かれていただけだろ?」

「口説かれていた?え?」

「どうみてもそうだろう。あの態度。多鍋さんって、君にだけちょっと特別っぽいよな。まあ、麗子さんとそういう仲じゃないのがわかって嬉しいけど」


 那加川はさらりと四条丸麗子を下の名前で呼びながら、そう言う。

 動揺している由衣佳はそんな変化にまったく気がついてなかった。


「麗子さん、綺麗だよなあ。本当。見ているだけで幸せ。俺のことも大智さんって呼んでくれるんだ。あの声でよばれる度に腰が砕けそうになる」


 那加川は惚気なのか、なんなのかを話しているが、由衣佳の耳にはまったく入ることはなかった。


(多鍋さんが私を口説く?ありえない。だってあんな綺麗な人だし。でも私のこと可愛いっていったよね?!……肌ケアもっと頑張ろうかな)


「マンダリーさん。これもお願いします」


 準備は遊びではない。

 淡々と他の企業の人から紙束を渡される。


「はい!」


 運動会の準備はまだ終わらない。

 由衣佳たちは午後五時までちまちまと紙吹雪を作る作業をしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ