性別暴露!
「流次くん。ちょっと気持ち悪い」
「なんですか?藪から棒に」
「ずっとニタニタしていて、イケメンが台無しよ」
「別にどうでもいいですよ。そんなの」
「強気ねぇ。でもうまく行っているみたいでよかったわ。オフでもスカフィーとマンダリーくんが仲が良いのは好ましいから」
「そういうものですか?」
「そういうものよ」
由衣佳と電話番号を交換してから、メッセージのやり取りが始まった。
もっぱら、流次のメッセージに由衣佳が返信する形なのだが、それでも彼は嬉しかった。
(由衣佳さんは可愛いよなあ。ケバケバしくなくて)
SCFYは顔で選ぶのかと思われるくらい、美男美女揃いだった。
それは元からの素質もあるが、社内でスキンケアが徹底していること、化粧の仕方などをレクチャーすることも関係している。
目を大きく見せる、顔を小さく見せるなど化粧技術が浸透しており、流次は同僚の女子たちの美しい容貌にうんざりしているところがあった。
(綺麗だとは思うけど、私が好きな綺麗じゃない)
由衣佳は整っているという顔立ちでもないし、肌が綺麗というわけでもない。
しかし流次にとって、由衣佳は綺麗で、可愛い女の子だった。
スカフィーとマンダリーとしてアオトリ上でも仲の良いやり取りを続け、プライベートでもメッセージを送り返す。
またデートに誘おうを思っている矢先、事件が起きた。
『スカフィーさんとのツーショット!スカフィーさんの中の人はとっても綺麗な男の人でした☆』
動画で多くのフォロワーを持ち、アオトリでも発言がよく取り上げられる、インフルエンサーのマギマ☆の投稿が、アオトリで一気に拡散された。
これは、SCFYのヘビーユーザーであるマギマ☆とスカフィーの対談という企画の際に、撮られた写真が原因だった。スカフィーの性別は明かしていない。けれども話し方や絡み方から女性と思われることが多かった。しかも美女だと思われているらしい。
それが突然男でしたと投稿があり、一気にコメント欄が炎上した。
SCFY社にも電話が頻繁にかかってくるようになった。
「別に男でも、女でも良いと思うのにね」
「そうですよね。まあ、スカフィーはモテてましたからね」
「言うわね〜。流次くん」
当事者である流次だが割と平然としていた。
女だと思っていたのはフォロワーたちで、自身は性別を明かしたことはないのだ。詐欺と言われても濡れ衣だと彼は冷静に怒っていた。
「この際、やめてしまいましょうか。麗子さん、交代できますか?」
「嫌よ。面倒な」
「そうですよね」
この件に関して上の方から指示はまだ出ていない。
謝るのも筋違いだし、流次は沈黙を守っていた。
そんな時、マンダリーからコメントが投稿された。
『スカフィーさんが男性!驚きました。そういう私も驚かないでくださいね。女です』
スカフィーに続いて、マンダリーからも爆弾。
再びアオトリは炎上したが、性別にこだわるなんて馬鹿らしいという方向に話が変わっていくにつれて、この騒ぎは治まっていった。
「やめてもよかったんですけどね」
「君にやめられたら困るわよ。私がスカフィーやらなきゃいけないじゃない」
アオトリによる宣伝は効果的だ。
アカウント自体を消すことはあり得ず、最悪の場合中身が交代になるくらいだろうと流次は予想していた。しかし、マンダリーのカミングアウト(?)から騒ぎは急速に治まっていった。
「そうだわ。どうせなら、二人の写真のせたら?フォークダンスの時の撮ってあるのよ」
「そんな写真があったんですね!どうして早く教えてくれないんですか?」
「……つまんないんじゃない」
「え?今つまんないって言葉が聞こえた気がしたんですけど」
「言ったわ」
「麗子さん、ひどいですよ」
「うまくいっていてつまんないわ。今回の騒ぎも由衣佳ちゃんのおかげで収まったみたいだし。仕上げに二人の仲の良い写真を投稿しましょうよ」
「それは、由衣佳さんが嫌がりますよ」
「嫌がらないわよ。きっと」
麗子に押し切られ、またなんとなく仲がいいことを自慢したくて、流次は写真を加工した後、アオトリへ投稿。
『沈黙しててごめんなさいね。私は男性です。そしてマンダリーくんは女性です』
そのコメント共に、フォークダンスの写真を載せると次々にコメントがぶら下がる。
どれも好意的であったが、マンダリーからは恨みのコメントが届く。
『スカフィーさん。どうしてその写真載せるんですか!』
それに対して、フォロワーたちの反応は明るい。
『マンダリーくん、照れてる。あ、マンダリーちゃんだね』
こうして、スカフィーとマンダリーの中の人の性別はアオトリ内に好意的に広まった。そしてもう一つ。中の人同士が付き合っているのではないかという噂と共に。




