ショッピング
「見てりっちゃん! 可愛い!」
冬物の洋服がずらりとディスプレイされたショッピングモール内のテナントの一角に置かれたコートを手に取って、輝夢は瞳を輝かせながら僕にそう言った。
「試着してみたら?」
着ていたジャケットを預かると、彼女は嬉しそうに鏡を見ながら袖を通した。
「どう?」
「うん、すごく似合ってる」
正直な感想を述べると、輝夢は頬を紅潮させて「えへへ。ありがと」と満面の笑みを浮かべた。
「えっ。待って。このバッグ超可愛い〜」
おしゃれで愛らしい服やアクセサリーなどを前に、ファッションが大好きな輝夢のテンションは最高潮に達していた。
いま僕たちは来週末に行われる友人主催のクリスマスパーティのプレゼントを選びにショッピングモールにやってきてきた。
「りっちゃん、どっちが好き?」
淡いピンクのニットとブルーのカーディガンを持った輝夢が首をかしげながらたずねてくる。
「うーん、どっちも好き」
彼女が持ち前のセンスで選んだ服なら、どんなものでも似合ったし、どんなものでも好きだった。
「もお。ちゃんと選んでよ〜」
頬を膨らませる彼女だけれど、可愛い服に囲まれているからあっという間に機嫌を直してくれた。
そのとき僕はとんでもないものを展示品の中に見つけてしまった。それはサンタクロースのコスプレ衣装だった。一般的なものからちょっと——いや、だいぶセクシーなものまで目白押しだ。しかもこの一番端っこに展示されているものに関してはもはや——
「下着じゃん……」
ドキドキしながらつぶやくと、いつの間にか輝夢が隣にきていた。
「ふぅん。りっちゃんってこういうのに興味あるんだ」
「あっ、いや、えっと……たまたま目に入ったといいますか……」
しどろもどろになる僕に輝夢は追い討ちをかけるように続ける。
「着てほしい?」
「へっ⁉︎」
思いもよらない彼女の言葉に驚きのあまり身体をのけぞらせる。
「そりゃ見てみたいけど……」
「ふふ。りっちゃんの変態〜」
ぐうの音も出ない僕に輝夢は耳元で囁く。
「じゃあ……。クリスマスはサンタさんごっこ、する?」
甘美な言葉と耳にあたる吐息のせいで身体が硬直した。頭の中にはセクシーサンタになった輝夢の姿が次から次へとよぎっていき、女性経験の乏しいことで有名(?)である陰キャな僕は妄想だけで顔が真っ赤になってしまった。
「ふふっ。冗談だよ、かわいいなぁ、もう」
輝夢はそう言って僕の手を引いて売り場を去ろうとするのだが、僕は思った。人生何があるかわからない。この機会を逃したら一生、輝夢のサンタ姿を拝むことは出来ないかもしれない。このまま冗談で終わらせてしまって果たして良いのだろうか。そう気づいた時には僕の足は止まっていた。
「りっちゃん?」
立ち止まった僕を見ながら、輝夢が不思議そうに首をかしげている。
「やっぱ買おう、一着だけ」
荘重とした物言いに目の前の輝夢は目を丸くしている。
「買うって、サンタさんのコスプレを?」
「うん」
「……やだ」
「なんでっ⁉︎ さっきまでノリノリだったじゃん……!」
「だってりっちゃんの目が本気すぎてこわいんだもん〜」
泣きそうになりながら彼女はそう言うのだった。しまった。怯えさせるつもりはなかったのだが、さすがにキモかったか!
この日は結局、諦めて帰ることになったのだが、後日、土下座までして彼女を説得して通販で注文し、人生ではじめてサンタのコスプレ衣装を手に入れることに成功したのだった。