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馴れ初め

売れない小説家とちょっぴりメンヘラな彼女のささやかな日常のお話。

一話完結です。数分で読めるようにできるだけ短めに書いています。

読んでもらえたら嬉しいです。

 僕が輝夢と出会ったのは四年ほど前になる。まだ故郷の熊本にいた時だった。今でも鮮明に覚えている。あの夜は小さな氷の結晶が街を白く光らせていた。僕は当時ライターをやっていたのだけれど、連日の激務で疲労困憊(ひろうこんぱい)していた。深夜、コンビニに数日ぶりのご飯を買いに出かけたところ気分が悪くなって路上に座り込んでしまった。その時に親切な人が、心配してペットボトルの水とハンカチを渡してくれた。

 それが当時大学生の輝夢だった。ほとんど一目惚れだった。

 後日、街で偶然の再会を果たした時は運命だと思った。でも恋に奥手な僕は彼女との距離を縮める方法がわからなかった。

 大学の学園祭で、彼女に告白したけれど、うまくはいかなかった。転機となったのはしばらくして彼女が元彼からのDVとストーカー被害に悩まされていることを知ってからだ。僕は身を(てい)して彼女をその男の暴力から守った。そして、元彼の逮捕という形で事件は終局した。でも彼女は責任を感じて僕から離れていった。

 数年後、東京で偶然の再会を果たす。その瞬間、(せき)を切ったように彼女への気持ちが溢れてきて、猛アプローチの末、付き合えることになった。


「『なんかめっちゃ声聞きたいから電話しよ』」

 ソファに寝転び、僕の膝の上に頭を置いてスマホをいじっていた輝夢が急にそんなことを言い出した。思わず「ん?」と聞き返す。

「これ、りっちゃんからのメッセージです。付き合う直前のやつ」

「え?」

 驚いて彼女が見ているスマホを覗き込むと、たしかに僕とのメッセージのやり取りが映った画面が表示されていた。その中に先ほどの文言が記されている。

「そんなこと言ってたんだ……。てか昔のメッセージ読み上げるの恥ずかしいからやめてね」

「『輝夢ちゃんに会いたいよ』だって」

 僕の制止も聞かず、イタズラっぽい笑みを浮かべて輝夢は続ける。

「ねぇ、いいってば」

「待って、これ見て」

 そういって見せられた画面にはお風呂に入る直前の彼女に向けた僕からのメッセージが載っていて、それを黙読して恥ずかしさでおかしくなりかけた。

「『お風呂上がりの輝夢ちゃんめっちゃ良い匂いしそう笑』」

「ちょっと! 声に出して読まんくていいからっ」

 彼女は「変態だ」と言いながらソファの上で笑い転げている。うん、さすがにそれは僕も否定できなかった。というか過去の自分、よく付き合う前に、好きな人にこんな欲望丸出しのメッセージを送れたな。


「それを言ったら輝夢ちゃんだって……」

 僕も自分のスマホを取ってメッセージを(さかのぼ)って見返してみる。

「『こないだ律くんの夢を見たよ。他の女の子といちゃいちゃしてて夢の中でめっちゃ嫉妬してた』」

「かわいい〜」

 自画自賛しているが顔は赤くなっている。でも、たしかにこれは可愛い。いまと少し呼び方が違うのも、初々しくて良い。ただ僕はこれを見て、この頃からすでにメンヘラの片鱗(へんりん)を見せていたのだなと気づくのだった。


「あ、付き合った日のメッセージあった」

 僕らが付き合うことになったその日はたしか、水族館に遊びに行っていて、本当はそこで告白するつもりだったのだけれど、勇気が出ずに結局帰りの駅のホームで告白した記憶がある。


 駅で別れて、帰宅したあと、僕から『今日はありがとう。輝夢ちゃんと付き合えて本当に嬉しい』と送ったメッセージに対して輝夢は『こちらこそありがとう。すごく楽しかったよ。輝夢も律くんと恋人になれて嬉しい。これからもよろしくね』と返してくれていた。二人で肩を並べながら、初々しいメッセージを読み返していると甘酸っぱい記憶が蘇ってきて、少し恥ずかしくもありつつ、懐かしさが込み上げてくるのであった。


 五月三日。それが恋人としての一歩を踏み出した僕らの新しいスタートの日だった。あれからもうすぐ一年。月日が経つのはあっという間だと、彼女の肩をそっと抱きながらそう思う。かなり恥ずかしいけれど、昔のメッセージを見返すのも原点に帰ることが出来て、悪くないかもしれない。新しい発見もあって面白い。


 もちろん今も昔も輝夢への気持ちは変わらない。いやむしろ、あの頃よりも彼女への愛は、より高く、より深くなった気がしている。

 そんな風に何気なく輝夢を想う日だった。こんな日がもっと増えたらいいなと思う。


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