表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

バイト

売れない小説家とちょっぴりメンヘラな彼女のささやかな日常のお話。

一話完結にして数分で読めるようにできるだけ短めに書いています。

読んでいただけたらとても嬉しいです。

「バイトはしてほしくない」

 少しでも家計の足しにしたくて居酒屋で働こうと思っていることを輝夢(らむ)に伝えた時の返事がそれだった。正直、賛成されるとばかり思っていたし、何ならめちゃくちゃ褒めてくれてナデナデしてもらえたりするかと思っていたのだけれど、期待していた反応とはちょっと違った。上下お揃いのルームウェアを着た彼女はベッドの(はし)に腰掛けて、さっきから視線を合わせてくれない。僕が理由をたずねると、少し頬を(ふく)らませて言った。

「出会いがあるもん……」

 それが理由⁉︎ と、一瞬、愕然(がくぜん)としたけれど、超がつくほどのヤキモチ妬きの輝夢ならありえる話だった。

「でも働かないと、お金が——」

「大丈夫。お金は輝夢が稼ぐ」

 食い気味に返されて(ひる)んでしまう。

「そ、そういうわけにはいかないよ。ただでさえ輝夢ちゃんが家賃を払ってくれてるのに、これ以上甘えるわけには……」

「気にしなくても大丈夫だよ。だって輝夢がそうしたいからしてるんだもん。それに来月から同棲するから家賃の支払いは減るんだし」

「気持ちはすごく嬉しいけど、気にする」

「どうして」

「男としてぇ!」

 急に力を込めて言うものだから声が裏返ってしまった。

「そういうの古いよりっちゃん、古い古い!」

「そうなのかな……。じゃあ、小説が売れるまでの間でも?」

「んん! ダメ、他の子にとられたくない!」

「そこっ⁉︎ ねえ……。輝夢ちゃんは僕を信じられないの?」

「信じてるに決まってるじゃん」

「じゃあ大丈夫——」

「でも嫌なの!」

 三歳児のようにベッドの上で足をバタつかせはじめた彼女に、僕は(あき)れそうになった。

「心配しすぎるところあるよ輝夢ちゃんは。だいたい僕みたいなパッとしない男がモテるわけないじゃんか」

 自分で言っておいて(むな)しくなってくる。

「わかんないよ? バイトは助け合いなんだから、特別な感情が生まれないとも言えないでしょ?」

 パッとしないというのは否定しないのね、と心の中でつぶやいた。

「そりゃあ、僕だって出来ることなら働かずに輝夢ちゃんに養ってもらいたいっていう気持ちがないわけではないけど……」

「じゃあいいじゃん。りっちゃんが家事をちょっと手伝ってくれたら、輝夢は何も言うことないけどな」

「本気で言ってる? まじで良いのかなそれで……」

「輝夢はいつも本気だよ。りっちゃんがいいならそうしたい」

 僕は瞳を閉じてしばらく考えたあと口を切った。

「……わかった。そこまで言うんなら、家事は全部僕がやることにして、とりあえず、しばらくそうしてみようか」

 僕がそういうと輝夢は嬉しそうに何度もうなずいた。

「すごぉい。全部するの? じゃあ輝夢がお休みのときは手伝うね。書くので忙しかったら無理しないでいいよ。そういえばりっちゃん知ってた? 専業主夫の年収は平均四百七十万なんだって。普通に共働きって感覚だよね」

 

 結局僕はまた彼女の優しさに甘えている。でも、輝夢がそれで納得するなら、あまり意固地(いこじ)になる必要もないのかもしれない。とりあえず、二人で話し合って決めたことなのだから、受け入れようと思う。明日から主夫兼作家(売れない)で生きていくことになった。でも、それはそれで何だか楽しみになってきた。

「あ。でもママ友とかできたらどうしよう……」

「それはさすがに気が早いでしょ!」

 と笑って言うと、「それもそっか」と彼女も笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ