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メンヘラ彼女に愛されて困ってます。

 僕の彼女は可愛い。

 背中まで届く艶やかな長い髪。切長の目。整った鼻筋。ふっくらとした唇からのぞく真珠のような歯。肌は雪のように白く、すらっとした体型はモデルのようだ。

 外見だけでなく性格も穏やかで優しい。

 僕はそんな彼女が大好きだ。彼女のような女性は世界中どこを探したって見つけられない。そんな風に思わせてくれる大切な大切な、自慢の恋人だ。


 バンっ! 


 リビングでソファに寝転びなからスマホをいじっていると、台所から突然物音がした。気になって見に行くと、あろうことか分厚い木製のまな板に対して垂直に包丁が突き刺さっているではないか!

 しかも結構な深さまでメリ込んでいる。穏やかではない光景に僕は愕然(がくぜん)とする。もはや現代アートの様相を(てい)する包丁とまな板を前にうなだれたまま(たたず)んでいる女性————この子が僕の彼女の吉岡 輝夢(らむ)だ。


「輝夢ちゃん、ど、どうしたの?」

 ただならぬ気配の彼女におそるおそる声をかけると、輝夢は顔を上げてゆっくりと僕を見た。鋭く光るそのジト目に射抜かれて、ヘビににらまれたカエルよろしく、身動きがとれなくなる。十一月も半ばだというのに額からは汗が滲んでいた。

「りっちゃん」

 力のない声で僕を呼んだあと、輝夢はゆっくりと左手を上げる。その手には彼女のスマホが握られていた。

「これ、なあに?」

 画面がよく見えなかったので彼女に近づいてみると、それは可愛らしい韓国の女性アイドルの画像だった。僕はそれを見て驚愕(きょうがく)した。

 たった今、ソファで寝転びながらSNSで見かけた美人Kポップアーティストの投稿した画像に『いいね』したのを、輝夢に秒で見つかってしまったのだ!


「そ、それは」

「ちゃんと、納得いくように、説明してくれるよね?」

 彼女の浮かべる薄ら笑いがとても怖い。たった『いいね』ひとつ、ただそれだけのことと思うかもしれないが、僕の彼女にとってそれは重大な問題なのだった。


 そう。僕の彼女は、かなりのメンヘラである。今のこの状況からは想像もできないだろうが、普段はとても穏やかで優しいのだ。ただ、不注意というか魔がさすというか、僕が少しでも他の女性に対して意識が向いてしまうと、このように態度が急変してしまうのだった。まあ、そんなところも可愛くて大好きなのだけれど。


「りっちゃん。どうして黙ってるの?」

 彼女の手が包丁にかかったのを見て、強烈な勢いで背筋に冷たいものが走った。

「ら、輝夢ちゃん落ち着いて! これは間違いなんだ! 手が滑ったというか、集合的無意識というか、なんというか……」

「……どういう意味?」

 包丁の取手が強めに握られるのがわかって、いよいよ生命の危機を感じる。

「や、やだなあ。わざわざアイドルに『いいね』なんてするわけないじゃん。こんなに可愛いアイドルが目の前にいるのに!」

「ほんとかなあ……」

 可愛いと言われてちょっと機嫌を良くしたのか、包丁を握る手を離したのを見て、ここぞとばかりにたたみかける。

「そうだよ。輝夢ちゃんみたいな世界一かわいい彼女がいるのに、そんなことしないって」

「でも『いいね』されてるけど?」


 僕は慌てて自分のスマホから先ほど押してしまった『いいね』を取り消した。

「これでよし! ほんとに手が滑っただけだよ。許してくれる?」

「うーん。どうしよ」

 腕を組みながら考え込む彼女に「あれ? てか今日は一段と綺麗だね?」ともうひと押しする。

「……なんか、そうやって都合のいいこと言って誤魔化してない?」

 しかしこれはどうやら逆効果だったらしい。まずい。今日はいつにも増して勘が鋭いぞ。

「か、かわいいなぁ。ヤキモチかな?」

「そういうんじゃなくて……。一緒にいるときに他の女の子に『いいね』しないでっていうこと!」

 ヤキモチじゃんか! と心の中でツッコミんでしまう。どんだけ可愛いんだまったく。


「わかった!」

 ムキになる輝夢がおかしくて僕は笑ってしまいそうになりながら(というかもう半分笑ってしまっていたが)、親指を立てて全力で肯定した。

「もう……ならいいよ」


 どうにか生命の危機を脱した僕は、納得してくれた輝夢の頭を撫でてから、リビングに戻る。

「よおし、あと100回くらい『いいね』押すかー!」

「ねぇ!!!」

 可愛い反応が見たくて冗談でそう言うと、彼女が射殺すような視線でキッチンから飛び込んできて僕はおかしくてとうとう笑いが止まらなくなってしまったのだった。ちなみに僕は緊張や恐怖を感じるとなぜか笑いが我慢できなくなってしまうタイプの人間である。急いで「冗談だよ!」と言う。とはいえ彼女もちょっと笑っているから、まあよしとするか!


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