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入学式から二週間ほどが経過した。
あれから調子に乗ってしまったヘンリーが同格の相手に魔法で決闘を挑み大敗を喫して、いまは彼が笑いの種になっている。おかげで六が派手に負けた事実は綺麗さっぱりと忘れ去られていた。
おかげでいまは平穏な学園生活を送れている。
それとは別にアヴァロン寮のメンバーは揃って勇者部というよくわからない活動内容の部に入ることとなった。
あれから、あてがわれた部室を五人で掃除して、いまは普通に使えるくらいにまでは綺麗にできている。
部室が使える段階になったところで、いよいよ活動も本格化していく。といっても、いまは生徒会からの雑務を請け負うくらいで、具体的な方針などは決まっていない。それどころか、ずるずると生徒会の雑用が主な活動内容になりつつあった。
「勇者部って元は何をする部活だったんだ?」
「月は元々魔王の根城だったのはご存じですよね?」
六のふとした質問にクリステルが読んでいた本をそっと脇に置いて、答えてくれる。
「ああ」
「その魔王を倒して月を開拓した人たちが勇者様。その勇者たちを称え、魔王たちがいつぞや復活してもいいよう鍛錬を怠らないよう戒めるために作られたのがギネヴィア学園の勇者部ということです」
「ほー。でも、いまの感じだと生徒会の使いっ走りって感じだぞ?」
「私の語ったのが本来あるべき理想の姿で、羽遠見さんの言うのが現実の姿ということでしょうね」
「魔王の復活なんて、いまじゃ誰も信じてないだろうしな」
「目標の焦点がぼやけてしまって、活動意義を失ってしまったんでしょうね」
「そういうところを生徒会に利用されて、使いっ走りにされたわけか。何とも嫌な話だねぇ」
夢も希望もないとはまさにこのことだろう。
そんな会話をしていると黒髪の好青年が部室に入ってくる。
「やあ。諸君、元気にやってるかな?」
爽やかに挨拶を決めたのはギネヴィア学園生徒会会長の貴咲樹である。だが、樹は問いかけの返答を待つ気もなく言葉を続けた。
「今日は君たちに仕事を頼みたくてね」
樹は依然として爽やかな笑みを浮かべたままだ。
六たちはその意味ありげな笑みに疑心を覚えつつ、彼の話を聞くのであった。