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予測不編の精霊魔法使  作者: あかつきp dash
第一章『ここは月の都』
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 朝、目覚ましに起こされて六はノロノロと身支度をはじめる。はじめて袖を通す制服のサイズが存外にピッタリで驚く。

(俺も今日から高校生か)

 そう思うと感慨深い。少し意気揚々としながら六は鞄を片手に部屋を出た。

「あ、六くん。おはよう」

 四葉である。昨日の私服姿とは違って、制服姿は少し新鮮だった。六たちの通うギネヴィア学園の制服は男女ともブレザーである。ロイヤルブルーを基調とした上品なデザインが特徴でムーンウォールでも評判である。

「ど、どう? 高等部の制服ははじめて袖を通したんだけど、似合っているかな?」

「よく似合っているぞ。もっと自信持てって」

 四葉は六からみても可愛い部類に入る女の子だとは思う。どちらかというとフェイのような女の子の方が珍しいのだ。絶世の美女が世間にうじゃうじゃしていてても困りものである。

「ありがとう」

 それから六たちは食堂で朝食をとって寮を出た。

 五人がほぼ一緒に寮を出たのは示し合わせたわけでもない。単純に今日が入学式ということもあって登校時間がズレなかっただけというところだろうか。

 六たちの通う高校までは徒歩で一〇分といったところだ。先頭をフェイと四葉が横に並んで話している。その少し離れたところから六と横には何故かリュリュがいた。

 クリステルはそこからもう少し離れて付いてきている。時々すっ転んだり、散歩中の犬に噛まれたりしていたが、まわりも気にしていないところを見るとこれが彼女の平常運転なのだろう。

「おい、“うおのめ”」

「誰だよ、それは。俺の名字は“うおみ”だ。ついでに名前は六だぞ」

「そうか。名字は言いにくいから六と呼んでやろう。お前も私をリュリュと呼ぶといいぞ」

(どうして、そんなに偉そうなんだ?)と言いたくなったが、通学中に喧嘩もないだろうと思って「わかったよ」と返して流す。

「お前のかけているメガネを私に寄越す気はないか?」

「ふざけるなよ。ミニマムエルフ。寝言は寝てから言え」

「お前、口悪いな」

 怒るかと思ったが、リュリュにそういった様子は見受けられない。というか、表情の起伏が少ないせいで感情が見えなかった。

「これは大事なものなんだよ。簡単にあげますってモノじゃないんだ」

「そうか。私の見たところ、なかなかの逸品だと思うんだが」

「そういうリュリュも結構いいメガネかけてるんじゃないのか?」

「わかるのか?」

「フレームの素材がいいくらいだけどな」

「これは試供品でもらったものだ。競合していたほうに負けたせいで製品化はされなかったのが、残念だ」

「へ、へぇ」

 あまり感情の起伏を見せなかったリュリュが少し残念そうな表情を浮かべるのは意外であった。

「何でメガネが好きなんだ?」

「お前は好物に好きの理由を求めるのか?」

 リュリュはメガネをクイッとあげて珍しそうに訊ねてくる。六としてはそう言われると返しようがない。

 それからも学校に到着するまでリュリュのメガネ談義は続く。六はそれを存外に楽しく聞かせてもらっていた。

 校門まで近づくとギネヴィア学園と綴られた立派で大きなプレートがかかっていた。そう。ここが羽遠見六たちが通うことになるギネヴィア学園高等部である。

 ギネヴィア学園とはキャメロット社というムーンウォールの母体とも言える企業が直接経営しているというお墨付きの学園である。

「へぇ。ここがギネヴィア学園か」

 その名前は地球にいたときでも聞いたことがあるくらいだ。それだけ有名な学校である。そこに通えるということに特別な感慨はない。代わりに誰も自分を知る者がいないという事実が少し嬉しかった。

 校門に足を踏み入れると、六は妙な空気に気がつく。

 それは視線だ。自分というよりアヴァロン寮生を見る目という方が正解だろうか。明らかに腫れ物を見るような視線である。それは決して気分のいいものではない。

 理由もわからず、こんな視線を向けられて面白いワケもなく、六は後ろからついてきているクリステルに小声で話しかける。

「ミイラさんだっけ」

「ミ・イラです。何か御用でしょうか?」

 どうやらミとイラは区切らなければいけないらしい。

「それは失敬。何かまわりの視線が気になるんだけど、理由とか知っている?」

「アヴァロン寮の人って目立ちますから」

 クリステルは登校中も全身包帯でぐるぐる巻きにしている。初対面なら間違いなく驚くだろう。他にも圧倒的な美貌を見せつけるフェイにミニマムエルフのリュリュも十分に人の目を引きつける。

(この中で普通なのは四葉くらいか。それと俺)

「羽遠見さんも普通ではないと思いますけど」

「へ?」

 思わず声が上ずった。彼女には読心術の心得でもあるというのか。

「羽遠見さんって達観しているっていうか、妙に落ち着いてますよね」

「そ、そんなことはないぞ。俺は自他共に認めるキングオブ普通人間だぞ」

「はじめて聞く言葉ですね……」

 クリステルは呆れている。声の調子でそれは何となくわかった。

「まあ、学園生活を続けていれば追々色んなことがわかると思いますよ」

 それはつまり、ここで詳しく教えるつもりはないと言われているようなものだった。クリステルは笑顔らしきもの見せようとした、その瞬間に派手に転んで顔面をタイルの敷かれた地面に打ちつける。相当、痛そうだ。

「だ、大丈夫か?」

「き、気にしないでください。いつものことですから」

 いつもこんな目にあっているのか。そう思うと気の毒になってしまう。

「そうだ。四葉!」

 クリステルが転けて思い出したことがあったので四葉を呼び止める。

「どうしたの?」

「俺、手続きのことがあって先に職員室に寄らなきゃいけないんだわ。悪いけど先に行っててくれるか」

「いいけど、職員室の場所わかる?」

「ああ、たぶん大丈夫だ。ひょっとしたら、その関係で入学式も出られないかもしれないから、よろしくな」

「え? 六くん、ちょっと!」

 四葉が呼び止めるよりも先に六は走りだしていた。

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