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予測不編の精霊魔法使  作者: あかつきp dash
第一章『ここは月の都』
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 六が起きた頃には陽もすっかり傾いていて、寝ぼけ眼をこすっていると四葉がやってきて「もうすぐ夕飯だよ」と声を掛けに来てくれた。

 当然、食堂の場所など知っているはずもなく四葉に案内してもらった。

「ここは元々名家のお屋敷だったんだけど、随分も前に移り住んじゃったそうなの。いまは少し改装して本屋と学生寮を兼ねるようにしたんだって」

 本屋はともかくとして学生寮にした理由というのが六たちが通う学校から近いということだったらしい。だが、本屋という特殊な空間のせいで学生たちからの評判はすこぶる悪く、入寮する学生のほうが珍しかった。

 四葉に連れられるまま、両開きの扉を開けて中へと足を踏み入れる。おそらく、ここが食堂なのだろう。

 部屋の広さだけなら三〇人くらいは十分に入れるだろう。床には赤い絨毯が敷かれて、置かれている調度品もごちゃごちゃせずに上品に配置されている。

「ちなみにここの寮生って全員で何人いるんだ?」

「全員で五人だよ。あ、それと男子は六くんだけだから」

 最後の部分は割と重要な気がするのだが、それを付け足すように言われて少しショックを受ける。

(まあ、いいけどな)

 六は半ば諦めた様子で部屋を見わたしていると、赤髪を後ろで括った少女の存在に気がつく。少女は六たちの存在に気がつくと、席を立ちあがりこちらへ寄ってくる。

「紹介するね。彼女はリュリュ・デュカスさん。同じ学年だよ」

 近くで見るリュリュの身長は小さい。一五〇センチもあるかといったところか。メガネをかけていて、耳が尖っている。耳が尖っているのはエルフ族の特徴である。さらに付け加えておくとエルフの肌は色白である。リュリュのように日焼けしたように浅黒い肌は珍しい。

「双葉、こいつは?」

 リュリュは六を指差して四葉に訊ねる。

「羽遠見六くんだよ。今日から入寮したの」

「そうか」

 リュリュは六そのものにあまり関心はなさそうに気のない返事を返した。

「な、何か?」

 リュリュは問いかけに答えようとせず、代わりに六のかけているメガネを瞬時に奪い取った。

「お、おい!」

 咎めている暇もなかった。それくらいに素早い動きだったのだ。これがエルフ特有の身のこなしの軽さというものだろうか。

「このメガネ、どこで手に入れたんだ?」

「それはオーダーメイドだよ。だから、どこにも売っていない」

 リュリュは「ふーん」と言いながら、六の顔を見あげる。すると、なぜかその表情がみるみる険しいものへと変わっていく。

「お前、私がお前のメガネを勝手に取ったことがそんなに気に入らなかったのか?」

「単純に驚いているだけだよ」

「だったら、どうして私を睨む」

 リュリュのまわりに熱気がまとわりつく。あきらかに普通ではない。

「ま、待って!」

 一触即発になりそうだったところを四葉が慌てて割って入ってくる。

「六くんは昔から目つきが悪いの。だからデュカスさんに敵意があるとか、そういうことじゃないんだよ」

(それにしても、何なんだ。フォローしてもらっているはずなのにまったく嬉しくない)

「とりあえず、六くんにメガネを返してあげて」

 四葉はリュリュに頭を下げて頼みこむ。すると、リュリュも観念したようにため息を一つついて、六へメガネを差しだす。

「返す」

「ああ……」

 特に謝ることもなく、リュリュは席へ戻っていった。

 それから六と四葉は席について、少し遅れてフェイとクリステルもやってくる。

 フェイは特に誰と目を合わせようともせず、誰とも少し離れたところに座る。対してクリステルは誰に対しても申し訳なさそうに隅の方へ座った。

 隣り合って座るのは六と四葉だけで、妙に重々しい空気が会話することすら咎めてくるようであった。

 だだっ広いだけの部屋で五人が黙々と食事をする空気は何とも言えぬ息苦しさである。六はこれが最低でも一年は続くのかもしれないと思うと嘆息するしかなかった。

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