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サンドリヨンの憂鬱  作者: 藤塚咲羅
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序話 廃病院の産声 其の二





「と、意気込んだはいいもの………」



赤城康弘は、狭く暗い建物の中でどっとため息をついた。



「………はぐれてちゃ、世話ないんだよなぁ…」


時は遡ること数十分前のことである。





「嫌だぁぁー!!俺は絶対に嫌だー!!!」


「あんたなんで死体処理班にいんのよ!!!」


塔上冠は、病院が嫌いであった。

では何故医療関係を生業とする死体処理班に在籍しているのか。それは謎である。


「こんな建物お前の炎で焼いちまえよ!!!1発だろ!!!!」


「あんた、【調査】の意味わかってる!?ついにおつむ迄筋肉になっちゃったって訳!?」


「嫌だー!無理〜!」


両足で全力で拒否する塔上の手を、黒河が女性とは思えぬ力で引っ張る。地面には塔上の靴がめり込んだあとが出来ていた。


「………これは塔上には不向きな案件だったなぁ。他を呼ぶかい?」


「………………それはなんか嫌だ」


赤城が宥めようとすると、塔上は子供のようにほっぺたを膨らませて拒否した。先程から彼はなんだか子供のようだ。もう、17歳の青年だと言うのに。

ん?


「………ねぇ、アゲハ」



「何よ、康弘!この馬鹿引っ張るの手伝ってよ!」



「塔上って確かに我儘で子供っぽくて、どうしようも無い馬鹿だけどさ……」



「あんた仮にも自分の同期にすごい悪口言うのね」


雨音が滴る。

暗雲はより一層立ち込める。

まるで、この会話を遮るように。


「その言葉そっくり君に返すよ。……話を戻すけど、塔上は馬鹿で稚拙な奴だけど、こんな風に任務の場所がいくら自分の苦手なところだからって駄々を捏ねるような奴だったっけ?」


え?


「仮にも、彼は反社会組織の構成員だ。そう簡単に殺せると思われては困るよ」



「赤城、おマエお前オマエナニイッテるんダ?おれ、俺、オレは塔上ヵンだ」



「キモ」


黒河は瞬時に塔上のようなものから、手を離すと右手から火炎を吹き上げさせた。

黒河は妖術使い。

空気中に含まれる【妖気】を操り自発的に超常現象を作り出し妖を滅する。


「気づくのが遅れたね。アゲハ」


赤城は少しバツが悪そうな顔をしながら、懐から何枚かの護符を取り出した。

彼は古に存在したと言われる陰陽師の適性を持っている。

妖術や神通力とも違う、独自の【陰陽術】を使い妖を祓う。


黒河の火炎が、塔上冠のようなものを巻き込みながら炎を上げた。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛イタいいたい!!縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>縺斐a繧薙↑縺輔>」



「……許しを請うなら、もっと惨めったらしくやることをおすすめするよ。殺したくて堪らなくなるくらいね……」



赤城は燃えさかる炎を見ながら薄気味悪い笑みを浮かべている。


「(……常識人ぶってるけど、なんだかんだ此奴が一番ヤバいやつって自覚、あるのかしら?……)」


そう思いながら、黒河は炎の温度を一気にあげて妖を炭にした。まだ、人が焼けたような気持ち悪い匂いが辺りに漂っている。


「先を越されたね。本人はもう中に入ったのかな?」



「あの馬鹿の事だから、そう考えるのが妥当でしょうね」


黒河は燃え残った炭を、懐から試験管を出して中に入れた。そして、廃病院の方を見つめた。


なんだか、酷く嫌な気分になった。






「ったく、さっきは酷い目に遭ったぜ。まさか無理矢理引き込まれる羽目になるとはな!」


時刻は現在。事態は三人それぞれが病院内を独走する混沌と化していた。そんな中、ひとり中に入った塔上は短刀を振り回しながら中の妖達を屠っていく。


祓う赤城、滅する黒河に対して、塔上は妖を屠る。屠って殺す。

それは彼の類稀なる動体視力と、彼の特異体質が可能にしているものだった。


残滓が見える目。


残滓、とは廃棄物のようなものである。

車が走れば二酸化炭素が排出されるように、工業製品を作れば廃水が出るように、

妖が妖力を使えば、廃棄物が出る。

それが【残滓】だ。塔上は【残滓】を視覚し、意のままに操ることが出来る。


【いいか。俺たちが二酸化炭素を排出し続ければ毒になるように、妖共も自分の廃棄物をモロに喰らえば堪らず死ぬんだ。】


塔上は灰谷の言葉を思い出した。


「退け。お前らの廃棄物は俺が有効活用してやるよ」


塔上は迫り来る妖を、一体、また一体と屠って行った。


「それにしたって不気味な野郎だな………鳥みたいな体に赤ん坊みたいな顔……相変わらず妖ってのは趣味が悪いぜ」


塔上は足音を鳴らして歩き始めた。ギシギシと軋む腐った床板は今にも、外れそうだ。

彼は万が一を考え、慎重に歩くこととした。





「不衛生だわ。今にも吐きそう」


一方その頃、黒河は玄関近くの待合室を探索していた。棚を探ってみても出てくるのはカビが群生して読めなくなったカルテや使用済みと思われる体温計のみ。


「イライラするわね〜!!此処!」


と、言いながら棚の中に勢いよく手を突っ込むと中から埃まみれの手紙が出てきた。

元の便箋は白だったのだろうが、埃を被ってしまって灰色っぽい色になっている。


「………また、烏百合なのね」


便箋には、烏百合宵と書かれていた。


拝啓

暑さもようやく厳しさを増してまいりましたが、百恵様にはお変わりなくご健勝のこととお喜び申しあげます。

さて、▓▓▓▓▓▓▓▓の件ですが▓▓▓▓▓▓▓▓の▓▓▓▓▓▓▓▓のため来院期間を1ヶ月に伸ばそうと思います。ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いします。

これは、▓になるための方法なのです。


院長 烏百合宵


「………まだなにか入ってるわね……?」


黒河は封筒の中に手を突っ込むと、なにかフィルムのような厚紙の感触がした。


「………赤ちゃんの、エコー写真…………?」


白黒のモザイクの写真は、封筒の中に入っていたせいなのか劣化箇所は少なくこれといった傷もなかった。黒河は胎児のエコー写真を実際に見たことはなかった。が、見聞として本などで見たことはある上に反社会組織とはいえ医療に携わる者だ。


「……でも自信が無いわ。康弘やあの馬鹿と合流した方が……」


「ミツケタミツケタ……隕九▽縺代◆髯「髟キ繧帝が鬲斐☆繧句・ウ……!」


足元から、地を這うような気味の悪い声がした。‘’それ”は、黒河の足をしっかりと掴んで離さない。


「…………クソ虫どもがっ……!油断したわ……!」




廃病院では、ようやっと赤城と塔上が合流したところだった。2人とも息を切らして、話すのもやっと、という程に疲れている様子だった。


「お前、何匹殺した……?匂いが凄いぞ」


赤城が息も絶え絶えに話した。

そう、話しかけられた塔上の容貌は返り血で真っ赤だ。彼は、まだ汚れていない布で短刀の刀身を拭き取った。


「……今回の妖は厄介だ。生身の妖に人の怨念が宿ってる………黒河はかなり苦労してるんじゃねぇか……?」


「………お前、この屋敷に入ってからアゲハを見たか?」


「…………見てねぇ。」


真逆、

そう思った直後であった 。


「繧上◆縺励□繧医♂縺峨♂縺峨♂縺峨♂縺峨?ゅ♀縺九≠縺輔=縺√=縺√=繧」



けたたましい呻き声を高らかに響かせながら、朽ちて脆い床板を突き破った巨体が見えた。その刹那、赤城は巨体の風圧に吹き飛ばされた。


「赤城!」


塔上は振り返って彼の名を呼んだが、返事はない。


「縺翫°縺ゅ&繧薙?√♀縺九≠縺輔s縲∫ァ√?∝ヵ縲∬憶縺?ュ撰シ」


巨体は、赤ん坊と白い鳥が繋がったような体をしていた。顔はしわくちゃの赤ん坊なのだが、その手は真っ白な羽になっていた。赤ん坊の飛び出そうな目玉が、ぎょろり、と塔上の方を見つめる。


「………かかってこいよ……腐れ野郎」


と呟いて、塔上は短刀を構えた。妖は巨大であればあるほど、人身であればあるほど、妖としての妖力は強い。即ち、出る廃棄物……【残滓】も多い。


「ピギャァァァァアァァァァァァ!!おか、おか、おかあさぁぁぁぁぁん!!!!」


耳を劈くような悲鳴にも聞こえる妖の鳴き声を気にも留めず、塔上は高く飛び上がり、右腕を振り上げた。



「………此処は、どこなのよ………」


黒河アゲハが目覚めたのは、暗い、地下室の様な場所だった。床は冷たく、辺りには初夏にはちょうど良い涼し気な空気が漂っている。


「………失態だったわ。兎も角、何の足しにもならないとしてもあの馬鹿共と合流しないと……」


そう、立ち上がった時だった。


「嗚呼、起きてしまったんたね。僕の新しい母(患者さん)


「………誰?」


コツンコツンコツン、とくぐもった靴音を響かせながら誰かがこちらへ歩いてくる。


それは、男だった。

長い黒髪を一つにまとめ、白衣を来た医者のような風貌の男。


「ようこそ。烏百合病院へ。初診の方は、こちらへどうぞ」


男はにこやかな笑みを浮かべた。



大正9年 初夏

市立烏百合病院ノ院長【烏百合宵】ガ、極メテ非人道的ナ人体実験及ビ殺人ヲ繰リ返シテイタコトガ発覚。妊婦ヤ女性バカリヲ狙イ、上記ノ妊婦ノ赤子ヲ無理矢理トリアゲテイタ事ハ非常二許サレザル行為デアル。烏百合氏ハ、「▓▓▓▓▓」

ナドト供述シテオリ明日ニモ警察ニヨル捜査ガ進メラレル予定デアル。コノヨウナ事件ハ起コシテハナラナイトシテ、近隣ノ住民ハーーーーーーーー。


大正9年 ヨコハマ毎新聞7月号より一部抜粋

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