第6話 その娘、進化にて
「絶対に覗かないでよ!」
「覗かないって」
俺は紳士に受け答えをし、バスタオルの準備をするのだった。
リルは今お風呂タイムだ、何があったのかは割愛するが女の子なので冒険の後は風呂に入ってさっぱりしたいはずなので風呂に誘っておいた。
「あの…聞いていい?」
「どうかした?」
服を脱ぐ衣擦れ音が聞こえてくる。…これは今夜のオカズは決まりかな。
「私ってここに飛ばされて来た時は傷だらけだったはずだけど治ってるってことは零が治してくれたんだよね」
「それがどうかしたか?」
「お礼を言いたくて…その…ありがとう」
「当たり前のことをしただけだ………むしろ礼を言うのは俺の方なんだがな」
「何か言った?」
「んーん、何でも」
ガラス越しにうっすらとリルの姿が写っている。以外と胸は大きいようだった、着痩せするタイプらしい。
「こんなこと聞くのもアレだけど零は寂しくはなかったの?この場所で二千年も閉じ込められて」
声のトーンがかなり落ち着いた音になった。
え、まさかのシリアス展開ですか?
「………いや全然」
「…そうだよね…」
なるべく明るく振る舞ったつもりだったが駄目だったか?
二人の間に沈黙と静寂が流れる。
先に沈黙を破ったのはリルだった。
「あのっ、じゃあこれからどうするの?クラスメイトも大体は生きてるってお父さんが言ってたから」
「これから?…そうだな死んでしまった奴とかいるだろうし、探さないといけないな…でも折角の異世界だ、楽しまないとな」
「なら一緒にいろんなとこに行こうよ、少しの間だけじゃなくね」
「長い付き合いになりそうだ」
「よろしくね」
「ああ、よろしく」
扉でお互いの顔は見えないが、きっと二人ともいい顔をしているのだろう、息の詰まる雰囲気は消えていた。
「そういやリルはどんな魔法を使うんだ?」
大体見当もつくし、分かってはいるが一応興味本位に聞いてみる。相手の口から聞いて知っておくのも必要だろう。
「私は風魔法が主体で、あとは身体強化魔法かな」
「あれ?炎魔法は主体じゃないんだ」
再び沈黙が訪れる。不味かったのか?
「…どうしてそのことを?」
「見れば分かるだろ?」
「普通は無理かな」
どうやらそっちの世界の住人は出来ないらしい。危ない危ない、大事な時にボロは出さないようにしないとな。
「私は弓使いだから風魔法と身体強化魔法を使うの、炎魔法はその…ピンチの時にしか使わないかな」
「3つの魔法が使えるのは多い方なのか?」
「結構いるよ。大体皆主属性と副属性を持ってそれで無属性は9割程度が持っているから普通かな」
「3属性、いやそれ以上だったら珍しいってことか?」
「でもいるところにはいるからそれほど珍しいわけではないね」
なら大丈夫だろうと考える。もし2属性で讃えられる世界だったらさすがにヤバかった、炎然り風も土も水も、あまつさえ空間だろうと捻じ曲げることが出来るのだ、神か化け物と呼ばれるだろうな。
しっかりと自分の目でこの世界を確かめなければな。
ここで長話をしていてもリルが風呂に入れないので退散するとしよう。
「じゃあ俺は向こう行っとくから、タオル置いとくぞ、着替えもな」
「ありがとう」
その場から離れる際、浴室の扉を開ける音と「ひっろぉ…!」というマヌケな声が聞こえてきた。喜んでくれたみたいで良かった。
「しっかし弓使いかぁ…あれは弓じゃないだろ」
それに炎なんかよりももっと…。
風呂場から戻るとまだ分身が大蛇を餌付けしていた。あの隣にある肉の山は一体何十日分の食糧だろうか。
「凄く旨そうに食うな…」
「そっちは終わったみたいだな」
分身が振り返りこちらを見るとすぐに大蛇に向き直る。
「そんなにこいつのこと気に入ったのか?」
「あぁこいつ可愛いんだぜ…あ、おいそんなに詰め込むなって…すっげ飲み込めるんだ…」
よーしよしえらいぞぉ、なんて実家の犬を相手してるみたいにはしゃいでる。
「名前とか決めたのか?」
「まだだ。そうか呼び名があればいいな」
俺なりに真剣に名前を考えた(分身が)。
「ミリシアでどうだ?」
「いいんじゃない?」
「じゃあ、お前の名前はミリシアだ…どうかな?」
大蛇は気に入ってくれたようで目を少し細めた。その後肉にかぶりつく。
「ついでに魔力でも与えるか」
俺はミリシアに触れ、体が壊れないように調整しつつ膨大な魔力を注ぎ込む。
次の瞬間ミリシアの体が光り、体がどんどんと大きくなっていった。
引っ越し等バタバタしており間が空いておりました。
これから頑張っていきます。