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世界は違へど楽しみたい  作者: 固まった雪玉
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第5話 物語の出発点

「なあなあゼロ、今夜女子の部屋に行くだろ?」


 様々な会話が飛び交うバスの中、一人の青年が右隣の座席に座っている風貌が変わってしまう前の青年に話しかけていた。


「実は今日女子にお呼ばれされてさぁ、ついでにゼロも誘っておいてよって鈴がよ…」


「えっ…マジかよ鈴が…?」


「いいよな、幼馴染がいるって…しかもあんな健気で可愛い子!俺が彼女に貰いたいぐらいだ…なんてな」


「何が幼馴染がいいだ、お前も小学校からの付き合いだろ」


 ハハッと笑い、青年は椅子にもたれ掛かり、麦茶を取り出し飲みながら話を続ける。


「しっかしまあ…ついに卒業出来るのかな俺」


「深望みしすぎだろ」


「そうかぁ?案外簡単に出来そうな気がするんだけどな、なあヤマはどう思うよ」


 青年はゼロと呼ばれた青年を挟んで右側の窓際に座っている青年に話しかける。


「無理だな、お前のこと好きだという女子を見たことがない」


 無愛想な青年はすぐに読書に戻る。


「ひどっ!」


「いつかは出来るって、気を落とすなよ」


「やっぱゼロはいい奴だなー」


 とてもいい笑顔をする。


 この青年、神木真城と無月零、そしてヤマと呼ばれた男三人衆はまだ知らなかった、この後ーーー


 ーーー世界を巻き込む戦の始まりになる事件が起こるなんて。


 ◇ ◇ ◇


「しかし真城が生きてるって分かったはいいが、どうして二千年も生きてたんだ?」


「お父さん、二千年も生きてないよ?確かまだ37歳ぐらいだったはず」


 どうしてか転移する前から20年しか経っていないらしい。もしかしてこの空間とリルの居た異世界は時間にズレがあるのだろうか…あの女狐、そんなこと俺聞いてないぞ。


「てか…え?なに…あいつまだ37なの!?リルって今何歳?」


「あまり女性に年齢は聞くものじゃないですよ、ちなみに私はまだ17歳です」


「転移前の俺と同年…ってことはあいつ20…もっと早くて19…いや18で童◯を捨ててんのか!?」


 ファー♂、クソッ…こちとら二千年物の童◯だぞこら、あいつ…許すまじ。


 フフフと声を漏らし手がわきわきと動く。


「あんまり童…◯…とか言わないで…」


「ん…ああ、すまん…苦手なのか?」


「え…いや…その…」


 顔が少し紅潮し、目を逸らす。まだまだ乙女といった感じだ。初心だなぁ………いやムッツリっぽいな。


「そ、そんなことより向こうの部屋に行こうよ」


 話を逸らそうと必死になっているのがまる分かりだ。


 俺が手を放していたドアノブに手を掛け、回して全開に開け放つ。


「………………………………え?」


 ドアノブから手が滑り落ちるように放れ、その場に固まる。


 彼女が目にしてしまったのは、体育館部屋の中央で大量の肉を頬張っている大蛇だった。


「あ………え…なんで……どうして…?」


 手が小さく小刻みに震えている。動悸が激しくなり、息が漏れて、目には恐怖の色が写っていた。


 この子凄い怯える子だなと頭に浮かんだが、殺されそうになった相手に怯えるのは当たり前だ、トラウマなんて治らないものが常だ。


 …だが、この子はすぐに立ち直る。何故ならつい今しがた、より強大な死の恐怖に直接対面したからだ。自慢じゃないけどね…こんなこと自慢したくねぇ。


「大丈夫、怖くない」


 リルの頭にポンッと手を置き撫でる。同年(実年齢は二千以上離れている年下だが…)にこんなことをするのはチェリーなボーイである俺には恥ずかしい行為だが、友達の娘なのでそこまで抵抗感は無かった。というかなんか、幼馴染の鈴に雰囲気が似ているせいか距離を近くに置いてしまう、気持ち悪がられていないのは救いだった。二千歳以上年上なんだ、堂々としていよう。


「よく見ろ、俺とどっちが怖い?」


 俺と大蛇を交互に見る。


「でも怖い」


 …当たり前だな。怖いものは怖い、どれだけより怖いものが他にあったとしても結局怖いものに変わりは無いのだから。痛いところ以外を痛くしても同じなように。


 少し力を貸してやるか。


 リルの頭に手を置いたまま自身の魔力を少しずつ解放していく、大蛇を圧倒する程の魔力を俺とリルを中心に展開する。


 強者に守られているというのは絶対的な安心感をもたらす。


「ほら、あれが怖いか」


 段々とリルの顔から恐怖の色が抜けていく。体の緊張も解れたようで武器を取り出すかと思ったがどうやらそれはなかったようだ、というか武器は全部部屋にあるので向けることの出来る武器といえば魔力ぐらいだろうが、それもなかった。


「…怖く…無い?…あれほど追い詰められた相手なのに」


「そうだ、怖くなんてない」


 真っ直ぐに大蛇を見つめ歩み寄る。ちなみに大蛇が魔力に当てられて怯えないように分身体が魔力でカバーしているのでこちらを全く気にすることなく肉を食べ続けている。


 手を伸ばせば触れることの出来る距離まで近づいた。大蛇もこちらに気付き、顔を近づける。まるで品定めをするような、危険度を測るような目でリルに相対する。


「………ッ!……………」


 一瞬体がたじろぐが一歩も引き下がりはしなかった。

 リルは数秒考え込み、決意を決めた表情で大蛇を見上げる。そしてーーー


「「へぇ」」


 俺と分身、二人同時に驚いた。なかなか度胸のある女だと。


 ーーーリルは大蛇の頭を撫でていた。


 それは恐怖心克服の為なのか停戦の表明なのか、俺には判断つかなかった、他人の心を読む力は無いのでな。


 手を大蛇から放す。大蛇は興味を無くしたように再び肉に食らいつき始める。リルは一段落といった顔をして一息ついた。


「よーしよしよし、いい子だなお前は、そうだもっと食えたんと食え」


 分身が大蛇を甘やかしている、娘か何かだと思っているのだろうか。それを見て複雑な心境になるリル、分からないこともない、目覚める前まで命を懸けた戦いをしていたんだ、割り切れと言う方が無理な話だ。


「無かったことにしろなんて言わない、俺が強制するのは可笑しな話だしな、だから言えることは一つ、助言としては…とにかく馴れろ、でないとしんどいぞ」


「………うん」


 だいぶ辛い決断ではあるだろうが、この子なら出来る、そんな気がする。本当にただの勘でしかないが。


「なんだかシリアスみたいな重い雰囲気を出してるとこ横からすまんな」


 餌を与えていた分身が唐突に話をねじ込んでくる、いささか驚いた。


「どうしたんだ?」


「本体なら俺の言いたいことは分かるだろ?」


 なんだ?何を伝えたい…ん……だ……………は?


 頭の中に意志が流れ込んでくる。これは…嘘だろ?


 バッと目的のモノがある方を向く。そこには30cmはある水溜まりがあった。


「あれがどうしたの?」


 どうしたってお前…あれお前の…


「あれなお前の体液なんだよ」


 分身がペラッと口にする。


「私の体液…?……………!~~~~~~~っ!!!!」


 リルの顔が首元から頂点まで真っ赤に一気に真っ赤に染まる。言わんこっちゃねぇ。


「つまりだな、あれはお前が漏らした跡で、おしっーーー」


「わーっ!!わぁぁーーっ!聞こえないぃー!言わないでぇぇぇーーーッッ!!!」


 耳を塞ぎ発狂したように大声で遮る。年頃の乙女にこれはキツい、だが多分恐らくきっとムッツリっぽいので大丈夫だろう。絶対に立ち直り早いと第六感が告げている、せめてもSかMかぐらいははっきりとさせておきたいものだ。


「ふーっ、ふーッ!!」


「睨むなよ…別にアソコゆるゆる女だとか思ってないからな安心しろ」


「安心出来ないよ!って、え?そんなこと思ってたの!?とにかく消して!お願いだから忘れてぇぇっ!」


 体育館部屋に声にならない叫び声が響く。この中で気にすることなく食事を続けている大蛇は将来大物になる、そんな気がした。

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