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世界は違へど楽しみたい  作者: 固まった雪玉
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第4話 自己紹介

 状況に追い付けずただ口を開くだけ、そんなことしか出来ない彼女が俺の一言を聞き違いかと思い、繰り返すように疑問をぶつける。


「今、千年って…」


「ん?ああ…ごめん…少し感慨に耽ってた」


 人差し指で目元の水を拭い深呼吸をして落ち着きを取り戻す。


「先に謝っておく、ごめんな」


「え…?」


 ガッツポーズをキメて、拳を天高くに突き立てる。


「俺!!!生きててよかったァ!!!」


 マジで最高ぉ。今まで生きてきた中で一番嬉しい。


 魂からのシャウトを不審顔で見つめる彼女、だが微動だにしていない。馴れていくことは少しばかり恐ろしいことが分かる。


「ふぅ…よし」


 体を屈めて彼女を見る。


「変なとこ見せてごめんな、改めて初めまして。俺の名前は零、無月零だ、よろしくな」


 唐突な自己紹介をしてしまった、だが彼女は別段臆することもなかった。


「私はリルフォニアです、リルフォニア・ベルメイス。長いのでリルと呼んで下さい、知り合いにもそう呼ばれてますので」


 ほぉーやっぱ異世界なんだな、名前が片仮名っぽい。


「もてなしとか何も無いからな、まあこの椅子にでも座って休んでいてくれ」


 先程まで俺が座っていた椅子を持ってくる。


 リルの手を取り立ち上がらせる。まだ膝がガクガク震えていたがなんとか椅子に腰かけた。


 俺は机を近づけてお茶(?)を用意する。盆に置いて運び、机の上に置く。


 淹れてきたお茶(?)を怪しむように見ている。


「もしかして水が良かったか?」


「いえ大丈夫です」


 コップを両手で持ち少し口をつける。


「美味しい…!」


 口に手を当てて驚いた顔でお茶(?)を凝視する。ほわぁって、なんだか凄い乙女っぽい…って乙女か。


「それは良かった、小腹は空いてないか?これも美味いぞ」


 皿に盛った様々な菓子や果物のような物を出す。


 そこには赤い心臓の様な物、模様も何もない緑のボールのような物、真っ黒な鉱石のような物、見る角度によって色が変わる虹色の木の根のような物、そのどれもがこの世の物とは思えない物ばかりだった。


 リルの表情が強張る。少しどころではない、かなり引いている。


「まあ、初対面に出すような食べ物ではないとは思うけど食べてみたら分かる」


 一つ木の根のような物を手に取る。


「例えばこの“世界樹”の根っこを揚げた物、一応“シルフライド”って呼んでるんだけど、パリッとして噛む度に旨味が溢れてきて美味いんだ」


 右奥歯でかじりつき、ボリボリと音を立てて飲み込む。


 小声で「世界樹!?」なんて驚いてた。


「繊維の固さが丁度いいんだ。お一つどうぞ」


 まさしく未知の物を触る時のようにゆっくりと手を伸ばして取る。


 そのまま口に近づけていきーーー


 ーーーブシャャァァッッ。


 噛みついた瞬間にシルフライドから一気に水が放出される。口の中のキャパを余裕で超え、マーライオンのように吹き出してしまった。


 飛び散る飛沫を盆で防ぐ。きったねぇ。


 ゲホゲホと噎せ返るリル。頭を机より下に下げ、左手を机についてハーハーと呼吸を整える。


「それ、バケツ一杯ぐらいの水が出るからな」


「遅いですっ!」


 ガバッと顔を上げ大声を上げる。


「だから初対面に出すような食べ物じゃないって言ったんだけどな」


「言ってましたけども…本当にそうだとは思わないでしょ!?」


「いやー、はっはっは」


「はっはっはじゃないですよ、まったくもう!」


 椅子に座り直したリルにハンカチを渡す。「ありがとう」と一言言って口を拭く、拗ねた子供のようにしか見えない。


 あ、ちなみに吹き出した水は俺が片付けた。まとめてこう…キュッて。


「落ち着いた?」


「…落ち着きました、大丈夫です」


「なら、聞きたいことがあったんだ」


「答えられる範囲でなら」


 もしかしたら混乱を招くかもしれないが聞いてやる。手掛かりになるかもしれない。


 真摯な眼差しで彼女を見つめる。


「どうしてリルは…日本語を話せるんだ」


 そう、これは大切なことだ。つい、日本語で話してしまっていたが異世界で何故日本語が?普通は異世界語とかでは?もしかして異世界語は全て日本語なのか?はっきりさせておかなければな…。俺のように日本人が転移・転生しているはずだ、そいつらの足掛かりになるかもしれない。


 そうしたらクラスメイトや妹が異世界に来ていたことが分かるかもしれない。


 …あーあ、あいつらに会いたいなぁ。


「父に教わりました」


「お父さんにか…その人は日本人なのか」


「はい、父は日本から来たと言っていました」


 そうか、父親が日本人か…エンジョイしてんなオイ。


 クッソー…エルフを嫁にするとか羨ましいにも程があるだろ。いいなぁ俺もエルフを嫁にしたいなぁ。


 机に左肘を置き、その手で顔を支えて遠くを見つめる。


「聞きたいことは終わりですか?」


「今はこれでいいかな」


 椅子にもたれ掛かり手を頭の後ろで組んで斜め上を見る。


「じゃあ私が質問していいですか?」


「はい、どうぞ」


 正直何が質問されるかは分かっている。あれだ、千年と口から零れた言葉だ。


「聞きたかったんですが、先程の千年とは?」


「それについては端的に答えるよ。その前に…言葉遣いをいつも通りにしてくれないかな、こう…なんか壁があって避けられてる感がするんだ」


 頭を掻く。どうにもむず痒いんだよなぁ。


「いや、さっきので怖がってるってのは分かってるんだけど、リルが知り合いと話してる感じで話してくれたらこっちも楽っていうかなんていうか」


 あたふたと身振り手振りで伝える。


「ふっ…あははっ」


 突然お腹を抱えて笑いだした。机に顔を突っ伏して体が痙攣を起こしている。


 ひぃひぃと声が漏れているのを必死に抑えようとしているのが伺える。…いや、長くね?


 やっと顔が上がり目にうっすらと浮かぶ涙を拭い、俺の顔を見てまた笑いだす。


 笑いのツボがよく分からんが顔を見て確信した、もう俺に対する恐怖は微塵も無くなったようだった。


「笑いすぎだろ…でも緊張はこれで解けたか?」


「ははっはっ…はっ…ゴメンゴメン面白くって、でもありがと」


 ニッと晴天のような笑顔を見せる、あぁ癒されるわぁ。


「ええっと、この喋り方でいいんだよね?」


「ああ、それでお願いする」


「じゃあ続きを…千年というのはどういうこと?零さんは千年も昔から生きているの?」


「零でいいよ。まあ正確には二千年以上なんだけどな」


 ここから回想に…入らないんだけど。


「二千年前、日本…リル達からしたら異世界で俺を含むクラスメイト…仲間のようなものだ、そいつらと俺は事故に遭ったんだ」


 懐かしいなぁ…今となってはあれが唯一の手掛かりなんだよな。


「んでそこから俺はここに転移してしまった、二千年前な。千年前ってのは俺がやっと転移魔法を会得出来た時でそいつをこの空間の外に向けて放った時なんだ」


「もしかしてそれって…」


「そう、リルだな」


「なにかこう遣る瀬ない感じが…」


「要するに俺の張った罠に掛かった魚というわけだ、煮るも焼くも俺の自由ということだな」


「奴隷商みたいなことを言うね、少しでもその気なら抵抗はするよ?」


「すまん」


 笑った顔してるのにその奥は目玉を穿り返しそうな雰囲気を醸し出している。


「まあ、そんなところだ。俺は二千年ここに閉じ込められてた、出るためにはもう一人必要だったんでな」


「それで私が来たことにあんなに喜んでたんだ」


「ああこれでやっと出られるんだ…あいつらの手掛かりも探せる」


「あいつら?」


「クラスメイトだ」


 椅子から立ち上がり棚に飾ってあるネックレスを取る。


「憶測というかどう説明したらいいか分からんが、あいつらはこっちに居る、そんな気がするんだ…ま、もう二千年たってるから遺骨を探すことになるだろうが…残って無さそうだな」


 リルに背を向けたまま話を続ける。


「でも探さないといけない、それが俺が異世界で生きる意味だからな」


 クルリとリルに向き直る。


「でさ、俺そっちの世界のことあんまり知らないから、ここ出たら少しの間だけ一緒に行動してくれないか?お代は払うから」


「いいよ」


「………はぇ?」


 あまりにも一瞬で返答が返ってきたことに驚いてしまった。考え込んでしまうかキッパリと突っぱねられるかの二択だと思っていたから即答で了承してくれるとは思ってもみなかった。


「いいのか…?そんな簡単に決めて」


「頼んだのは零でしょ、驚かないでよ」


「こんなに早く即断即決するとはさ、思わないだろ」


「そうかな、正しい判断だと思うんだけど。だって強大な力を持つ零と仲間になれること、戦い方を見て学ぶことも出来るだろうし、なによりお父さんと同郷の人が困ってるのだから手伝いたいと思ったの」


 えへへー、変かな?と頬を掻く。強かで凄くいい奴過ぎて感動した。漫画で見るヒロインポジションというやつだろう、果たして補正がどのようにかかるのか。


「じゃあまずは私の家に行ってお父さんに助言を貰おっか?」


「是非ともお願いする」


 リルは立ち上がり俺の傍に寄る。


「契約成立だね」


「ああ、よろしく」


 握手を交わし少しはにかむ、それを見て彼女を助けて良かったと心の底から思った。


 ◇ ◇ ◇


「一応聞いておきたいんだがお父さんの名前はなんて言うんだ?」


 いつの間にか居なくなっていた分身のところ(大蛇のところ)に行くために部屋を出ようとドアノブに手を掛けた時にふと頭に浮かんだ。


「お父さんの名前?」


「これから会いに行くのに名前も知らないのは失礼だからな」


 それもあるが同郷の名前を聞いて本当にこっち側に居るという確証が欲しかったんだ。日本の名前を聞いて安心したい。


「お父さんは神木真城ですね」


 ………………………………は?


 ドアノブを回そうとしていた手を止める。聞いたことのある名前に心臓が跳ねた。


「本当にそれがリルの父親の名前なんだな」


「え…?はい、そうですけど…何かマズかったですか?」


 ドアノブから手を放し、リルに詰め寄る。


「な…何…どうしたの…怖い怖い怖い」


 自分がどんな形相をしていたかは分からない、リルの反応からして恐ろしい顔をしていたのだろう。


 そして肩を掴んだ。


「本当の本当の本当の本当に神木真城って名前なんだな」


「凄いデジャブ……名前に関しては本当だよ、私リルフォニアの名前に誓える」


「そう…か…」


 リルの肩から手を放し2歩後退る。


 嬉しい…とにかく嬉しい、まずは一人目達成だ。どうして生きているのかは分からないがそんなことはどうでもいい、生きていることに感謝だ。


 リルの口から出た名前、神木真城は俺のクラスメイトの名前だった。

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