表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/187

5.輸送業を始めたら盗賊に襲われた

 エメラルダが怒涛(どとう)の様に現れ去っていったため、ブルースは言われた通りに叔父(おじ)の家へと向かう事にした。

 

「どうせ行く当てなんてないし、今はエメの言う通りにした方が良いよね」


 歩いて行こうとしたが、ふと目の前にある魔動力機関装甲輸送車(ファランクス)が目に入る。

 するとどうした事か、ブルースは迷わず運転席に乗り込み、動力スイッチを押した。


「……どうして使い方がわかるんだろう。ハンドル、アクセル、ブレーキ、ギア、初めて見るはずなのに、全部知ってる」


 ガソリンや軽油などを使う訳ではなく魔力で動くため、音は爆発音ではなく電子音に近い。

 ハンドルを握り、ギアを入れてアクセルを踏む。

 操作自体は初めてなので流石に運転はぎこちないが、輸送車は前進を開始する。


 しばらく運転して慣れてくると、ブルースはアクセルを大きく踏み込んだ。

 メーターの針はグングンと進み、時速百キロメートルにまで到達する。

 流石に大型なので、百キロ前後が限界のようだ。


魔動力機関装甲輸送車(ファランクス)って大きいし頑丈だし、あ、輸送車っていう位だから、後ろに荷物を沢山詰めるよね? 運搬を仕事にしたら良いんじゃないかな」


 本来は戦場へ向かうための装甲輸送車なのだが……まぁ輸送なので間違いでもない。

 日中はすれ違う人が驚くため出来るだけ道のすみっこを走り、夜になるとテント代わりに使う。

 恐らくはこの世界のどこよりも安全なテントだろう。


 数日後には叔父がいる街に到着し、ブルースは温かく迎え入れられた。


「久しぶりだねブルース。もう十年近く会っていなかったか?」


「お久しぶりです叔父(おじ)さん。もうそんなに前になるんですね」


「ところでブルース、これは何だい?」


「えっと、僕にもよくわかりませんが……落ちていました」


 魔動力機関装甲輸送車(ファランクス)を指さして首をひねっているが、ブルース自身もよく分かっていないため、少し誤魔化したようだ。


 叔父がブルースに会ったのはスキル判定が行われる前で、まだイジメが始まっていなかった。

 なので今までブルースがどんな扱いを受けていたかなど知る(よし)も無いのだ。

 どうしてブルースが来たのかを、今までの境遇を隠し、ウソを混ぜて話をした。


「そうか、あまり強くないスキルだからって武者修行に出すなんて、ブラックリンめ、相変わらず戦う事しか考えていないんだな」


「ホワイティーさんはそんな人じゃないと思っていたけど、やっぱり旦那に感化されたのかしらねぇ」


 叔父は戦いが好きではないが、かといって否定するわけではない。

 戦争が避けられないなら兵士が必要だし、そのためには常に訓練をする必要がある。

 兄であるブラックリンは戦いに傾倒(けいとう)しがちだが、今はソレが必要な時代なのだ。


 その日は珍しくブルースは沢山話をした。

 兄弟でも姉のオレンジーナ、妹のエメラルダ以外とはほとんど話をしないため、こうして会話を楽しむというのがとても嬉しいようだ。

 たま~に末っ子のヴァイオレンが話をしたかもしれない。


 翌朝、早速賞金を持ってエメラルダが現れた。


「お久しぶりです叔父様!」


「やあいらっしゃいエメラルダ。おーい、エメちゃんが来たぞー」


「あらあら、今日もお茶を飲んでいくわよね?」


 どうやらエメラルダ、ペガサスに乗って時々叔父宅を訪問していたようだ。

 ブルースも出迎えるとエメラルダは小走りで走り寄り、ブルースに抱き付くと皮袋を手渡す。


「ブルーお兄様、こちらが暗殺者(アサシン)の賞金になりますわ」


 手渡された皮袋はズッシリと重く、中を見ると沢山の金貨が入っていた。


「え? これがあの暗殺者(アサシン)の賞金なの? 多すぎない?」


「前にも言いましたが、アレはそれなりの実力者なのです。これでも少ない方だと、私は思っていますよ?」


 そう言われては言い返す事も出来ず、礼を言って金貨を数枚エメラルダに手渡す。


「お兄様?」


「手数料だよ。運んだり、手続きをしてくれただろ?」


「お気になさらずお兄様。といっても、お兄様が気になさるのですよね」


 首を縦に振り、金貨を渡した手をグッと握りしめる。


「フフフ、それではお駄賃として頂いておきます。叔父様、叔母様、ブルーお兄様をよろしくお願い致します」


「ああ、エメちゃんもまたおいで」


「今度はクッキーを焼いておくわね」


 ペガサスに跨り、風に乗る様に軽く空を飛んで帰っていった。


 この日からブルースは荷物の運搬を始めた。

 最初はみんな鉄の塊で何をするのか理解できなかったが、鉄の塊が動く事を知ると、面白がって色々な物を積み込み始めた。


 それに馬車よりも乗り心地が良いので、乗合馬車代わりにも使用された。

 そんな事が日常になり、ブルースは人や物を運ぶには欠かせない存在になっていった。

 だがある日の事。


「おいおいなんだぁ? こりゃーおもしれーな、鉄の箱が動いてやがるぜ」


「兄貴! 中に人が乗ってやすぜ!」


「動く鉄の箱と人か。奴隷商人と屑鉄屋(くずてつや)に売れば金になるな」


 魔動力機関装甲輸送車(ファランクス)の前に十人前後の盗賊が群がり、行く手を遮ってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ