31.イエロウビー
メリメッサ共和国の植物園に観光に来たら、ファルゲン連邦の手先の人質になってしまったブルース達。
今のところ有効な手段がなく、大人しくしているしかない。
だが大人しくしていても期限は三日間、それを過ぎたら殺されるだろう。
三人は殺されなくても、他の観客が助からない。
メリメッサ共和国が要求を呑むのか、それとも突っぱねるのか、それによって三万人の人質の運命が決まる。
初日は何とか過ごす事が出来た。
子供や老人はベッドやソファーで休み、食事も園内の在庫でまかなえた。
しかし二日目になると食料は底をつき、我慢できなくなった者達が騒ぎ始める。
「メリメッサは俺達を見捨てる気か!」
「助けてくれぇ! 嫁のお腹には子供がいるんだ!」
「私はメリメッサの人間じゃないわ! だから助けてよ!」
様々な怒号が飛び交い、冷静でいるものはかなり少ない。
「このままだと体よりも精神が持たない。姉さん、僕達で何とかしないと!」
「待ちなさい。明日までは我慢よ」
「でも!」
「大丈夫、メリメッサだってゴールドバーグ王国だって動いてるはず。私達にできるのは観客が暴れないように抑える事よ」
そうは言っても護衛をするといった三人は役に立たず、メリメッサ共和国も丸一日動きが無い。
裏では交渉をしているのかもしれないが、食料すら持ってこないとなると難航しているのだろうか。
意外と言っては何だが、ローザがいい仕事をしていた。
泣きわめく子供たちをなだめようと、大道芸を見せたのだ。
剣でジャグリングをしたり、矢を射ったら花束が現れたりすると、子供たちは大喜びしている。
そんな子供を見てか、騒いでいた大人達も落ち着きを取り戻したようだ。
「お疲れ様、ローザさん」
「えへへ、ただいまブルー君。子供たちが喜んでくれたよ~。あーお腹が空いた……って食べ物が無いんだった!!」
しっかりと落ちまでつけてくれるローザ。
だが人質となり、軟禁されているという事実は思った以上に人々の心を蝕んでいた。
そして三日目、日没までが期限となる。
その日は朝から騒々しかった。
国への批判や助けを呼ぶ声、敷地から何とか逃げ出そうとする者、逃げようとした者を捕らえて殴る兵士。
ブルースとローザは止めに入ろうとするが、それをオレンジーナに制される。
「姉さん!」
「オレンジーナさん!」
「待つのよ。まだ、もう少し我慢なさい」
ブルースとローザの我慢も限界が近い。
当のオレンジーナも冷静を装っているが、はらわたが煮えくりかえっていた。
そろそろ日が山に差し掛かり、リミットを迎えようとする頃、人質の観客たちは限界を超えてしまった。
三万もの人間が一斉に走り出し、植物園から逃げようとしたのだ。
当然それを押さえようとファルゲン連邦の兵士が止めようとする……のだが、どうにも様子がおかしい。
それもそのはず、ファルゲン連邦の兵たちは人質を押さえようと武器を手にすると、頭から血を流して倒れてしまうのだ。
数百の兵がいたはずだが、その数はあっという間に減り一桁になっていた。
「な、何が起きているんだ! メリメッサか!? おのれまともに交渉もせず卑怯な!!」
龍騎士が空を舞い、空から様子を見ているが、遂に最後の兵士が倒れてしまった。
もう人質を止める者はいない。
「こうなれば全員殺してやる! ドラゴンよ! 灼熱の火炎攻撃で焼き尽くせ!!」
ドラゴンが口を開き、炎が噴き出すその瞬間!
「ブルー! ドラゴンを倒すのよ!!」
返事を返す前に近接防衛火器システムを発現させ、大量の徹甲弾が龍騎士めがけて発射される。
火炎が観客に届く前に弾丸がドラゴンを蜂の巣にし、炎はかき消えていく。
ドラゴンは真っ逆さまに落下し、大きな音をたてて植物園の建物を破壊した。
動く気配もない、すでに息絶えている様だ。
「やったねブルー君! やっと解放されたよ!」
「うん、本当に良かった。でも、一体何があったんだろう」
「恐らくイエロウビーの部隊よ」
イエロウビー。
ワイズマン家の第三子次男で、ブルースの兄だ。
スキルは狙撃手、一キロ先のリンゴを射抜ける腕の持ち主だ。
すでに軍で部隊を率いる立場にあり、ブルースとはあまり関わり合いが無かったが、イジメる事も無かった。
狙撃手、もしくは弓使いの部隊で、長距離での狙撃を得意とする部隊だ。
「隊長、上手くいきましたね。ご姉弟に挨拶に行かれますか?」
「……必要ない」
「わかりました、では部隊は撤退いたします」
「ああ」
部下と会話をしていたが、その姿は木に隠れて影しか見る事が出来ない。
その影も気が付くと無くなってしまっていた。
「ジーナ姉さんは知ってたの?」
「イエローが来ること? いいえ、知らないわよ」
「あれ? じゃあなんでオレンジーナさんは冷静だったんですか?」
「冷静じゃないわよ。どうやってギッタンギッタンにしてやろうかと、ずっと考えていたわ!」
「じゃあどうして動かなかったの?」
「自惚れじゃないけど、国が私を見捨てる事はあり得ないわ。だから最後まで待ってただけ」
「でも姉さんがここにいる事なんて……あ! 護衛の弓使い達だね!」
「そうね、三日もあれば呼びに行ってくれると思ったから、それを待ってただけよ」
役立たずだった三人の弓使い達は、自分達が植物園に入らなかった事ですぐに応援を呼ぶことが出来たのだ。
ある程度の状況を伝えると、ゴールドバーグ王国はすぐに対応し、人質を巻き添えにしない方法を取ったのだ。
「でも龍騎士は悩んだわ。エメが来ても無理だったから」
同じ空を飛ぶ生き物であっても、ドラゴンとペガサスでは勝負にならない。
ペガサスは素早いから倒されないが、倒す事も出来ない。
「まぁブルーの新しいヤツなら倒せそうだと思っていたけど。それが新しいファランクスね?」
「うん。鉄の装甲でも簡単に撃ち抜くんだ。姉さんよく知ってたね」
「知らないわよ? 途中で盗賊まがいの連中を倒したのもそれでしょう? 大丈夫かなって」
ドラゴンの鱗は鉄よりも硬いが、龍騎士のドラゴンは小型のため鱗が薄い。
なので徹甲弾ならば問題なく撃ち抜ける。
盗賊達の死体を見て判断したにしては、随分と慧眼……が過ぎる気もする。
「伊達に何年も戦場で活躍してないわよ」




