18.三人の戦い方
「あれはなんだ?」
「ハッ! ジャレイ王子の寝床と聞いています!」
ブルース達の陣の後方から現れた騎馬隊、その隊長らしき人物が魔動力機関装甲輸送車を見てたずねる。
やはり鉄の馬車の存在感は大きいのだろう。
「ではテントの中には誰もいないのか?」
「ただいま確認中です。……誰もいないようです」
「ならあの鉄の馬車をひっくり返し、ジャレイ王子を引き摺り出すとしよう。騎馬隊、鉄の馬車へ向けて攻撃開始!」
騎馬隊長の命令により、馬にも鎧を纏った五百以上の鎧騎馬隊が魔動力機関装甲輸送車に向けて突進する。
兵士の鎧は胸と腕にだけ付けられている。
長い槍を前に構えて魔動力機関装甲輸送車に向けて突進し、次々と槍が魔動力機関装甲輸送車に襲い掛かる。
しかしその装甲を突き破る事は出来ず、槍は無残に粉砕してしまった。
「硬いな。しかし全く向こうに動きが無いのが気になる……よし、文字通りひっくり返してやろう」
新たな指示を飛ばすと、鎧騎馬達は魔動力機関装甲輸送車の側面に集結し、一斉に体当たりを開始する。
流石に大量の馬にぶつかられ、魔動力機関装甲輸送車は左右に揺れる。
「ええい! 全員で持ち上げてしまえ! ん? なにぃ!?」
流石にこれだけ攻撃を受けたので、その場から移動を開始する魔動力機関装甲輸送車。
その後を鎧騎馬が追いかけるのだが、馬と言えど鎧を纏っているため魔動力機関装甲輸送車には追いつけない。
距離を取ると反転し、鎧騎馬の真ん中へ突っ込んでいく。
動いていない魔動力機関装甲輸送車に対しては勇敢でも、向かってくる鉄の塊に対しては恐ろしかったのだろう、必死に止まろうとするが魔動力機関装甲輸送車の速度は速かった。
止まれない、避けられない鎧騎馬達は次々にはねられ、潰されていく。
逃げる魔動力機関装甲輸送車を追いかけようと、縦長の隊列になってしまったのが致命傷となり、いきなり半数以上の鎧騎馬が動けなくなった。
「総員散開しろ! 後は俺がやる!」
指示通り騎馬達は方々に散り、遠巻きに眺めるだけとなる。
魔動力機関装甲輸送車と騎馬隊長が向かい合い、先に仕掛けるかどうかと様子を見ている。
先に動いたのは魔動力機関装甲輸送車だった。
騎馬隊長に向けてアクセルを踏み、他の鎧騎馬と同じように隊長を吹き飛ばそうとする。
「ふん、俺を他の兵士と同じと思ってもらっては困る!」
なんと隊長、魔動力機関装甲輸送車を馬で駆け上がる様に上に避けてしまった。
着地し後ろを振り向くと、そこには武器を構えたローザとペガサスに乗ったエメラルダが剣を振り下ろしている。
「な、なにぃ!?」
とっさに馬を走らせてローザの剣を避けたが、エメラルダの剣は避けられないとみて、後ろを見ながら自らの剣で受け止める。
「重装騎兵の癖に早いんですのね」
「貴様、伝馬騎士か!」
エメラルダの細身の剣が弾き返され、隊長は方向転換して二人と向かい合う。
「まさか護衛に伝馬騎士がいるとはな。聞いた事もない」
「伝馬騎士だけじゃないよ! 剣士もいるよ!」
「剣士か、すまないが戦力としてカウントした事が無いのでな」
「キー! エメちゃん、コイツぶっ倒そう!」
「だれがエメちゃんですか、だれが」
また喧嘩が始まりそうだったが、それを許してくれるほど隊長は優しくなかった。
一瞬だけ自分から意識が逸れた隙に、槍を投げつけて二人の距離を離させると、まずは戦力ではない剣士へと突進し剣を振るう。
「まだ若そうだが、恨むなよ」
剣を頭上から振り下ろすと何かが砕け散る音が鳴り響く。
剣が砕け、ローザは『にっ』と口を横に広げて自分の剣を隊長の顔に向けて突き出すが、それを首をずらす事で皮一枚切らせて逃げる。
「貴様! 子供のくせに何という怪力だ!」
「子供じゃないよ! 立派な大人だよ!」
体が小さいため少女と思われがちだが、ブルースよりも年上だ。
何より大きな胸が大人の証しだ!
「よそ見をする暇がありますの?」
エメラルダが隊長の側面から細身の剣を突き出すと、武器のない隊長は何とか籠手で受け流す。
隊長は後退しながら何とか攻撃をさばき、エメラルダはペガサスの素早い動きで左右から自在に攻撃を繰り出している。
「ほらほら! 同じ騎馬でもスペックの違いというモノを見せて差し上げますわ!」
馬上の攻撃とは思えないほどに素早く攻撃を放ち、隊長は腰に下げていたナイフを持ち辛うじて致命傷を避けている。
だがそれも長くは続かなかった。
相手が完全に逃げに徹しているためエメラルダも決め手に欠けていたが、ふと何かが目に入り微笑む。
さらに手数を増やして攻撃し、相手に考える余裕を与えない。
「おのれ……! こんな、こんな子供に私が!!」
「私も子供じゃないわ! 立派な……未成年者よ!」
歳の割に大人びて見えるが、エメラルダは立派な子供だ。
剣は更に速度を増し、遂に止めを刺そうと剣を大きく振りかぶる。
「それが子供というのだ! チャンスと見ると周囲が見えなくなる! そんな大振りが当たると思うのか!!」
「当てないわよ」
「……は?」
大きく振りかぶった剣のはずが、エメラルダとペガサスは空を飛んで逆さまになり、剣で肩をかすめるだけで空へと舞い上がる。
「に、逃げるのか!」
「ええ、だって……逃げないと轢かれるんですもの」
隊長の背後に魔動力機関装甲輸送車が現れ、そのまま全速力で弾き飛ばしてしまった。
馬ごと轢かれて宙を舞うが、その着地地点にはローザがいた。
「食らえ! 大人の一撃!」
上段に巨大な剣を構え、隊長の頭に向けて全力で振り下ろす。
二つに分かれた体は地面でバウンドし、動かなくなった。
『やった! やったね二人とも!』
「やりましたわブルー兄様!」
「わーい! ブルー君との共同作業だー!」
隊長を撃退し、何とかジャレイ王子の身を護る事に成功した。
しかし戦いは終わっていない。
いや、ある意味では終わっていたのだ。
「これは……まさか隊長がやられたのか?」
なんと千五百もの敵兵が現れたのだ。