15.直衛による試験
「おはよう。よく眠れた?」
「おはよう、ジーナ姉さん。うん、ゆっくり眠れたよ」
王都に付いた翌日、オレンジーナはブルース達が泊っている宿を訪れ、一緒に宿で朝食をとっている。
エメラルダとローザも挨拶をして、食事を始める。
「それで姉さん、ジャレイ殿下の護衛だけど、僕のファ……鉄馬車で戦場に送ればいいの?」
「そうね、基本的にはジャレイ殿下は鉄馬車の中で指揮を執る事になるわね。出来るだけ外には出ないようにするけど、中と外で会話は可能なの?」
「うん、窓は閉めたままでも内部と外部で会話が可能だよ」
「……息が詰まることは無いの?」
「空気は循環させてるから大丈夫」
「そ」とだけ言って食事を再開する。
なにぶん護衛対象が第三王子なので、万が一があってはいけない。
なので事前にある程度の確認はしておかなくてはいけないのだろう。
そして食事が終わり、王城へ向かう事になった。
王城へは魔動力機関装甲輸送車で向かうのだが、本来は厳しい入城チェックがあるにもかかわらず、今回はオレンジーナの顔パスで簡単に通れた。
今回は国王に会う訳ではないので謁見の間ではなく、王子の執務室へと向かう。
オレンジーナが扉をノックする。
「ジャレイ殿下、オレンジーナです」
「入れ」
扉の両脇に待機していた衛兵が扉を開け、四人が中に案内される。
室内にはジャレイを含めて五人が待機していた。
ジャレイは正面の机に、他の四人は左隅のソファーで向かい合って座っている。
机の前に四人が歩みを進めると、四人は深々と頭を下げる。
「ジャレイ殿下、この者達が今回護衛を担当する者でございます」
「は、はじめまして殿下。私はブルースと申します」
「お久しぶりです殿下。エメラルダでございます」
「はじめまして! 私はローザです!」
エメラルダは何度も会った事があるようだが、ブルースとローザは初対面だ。
ジャレイはゴールドバーグ王国の第三王子であり、現在他国と交戦中のため戦場におもむかなくてはならない。
戦いを経験しないと配下からなめられる、というのが一番の理由だ。
ジャレイ本人は戦いは苦手であり、本分は内政にあるのだ。
見た目は二十歳前後、父親譲りの金髪でかなりウェーブがかかっている。
体は細身で戦場で武器を持って戦うタイプには見えない。
「よく来てくれたね。私がジャレイだ、よろしく」
王子と言っても継承権第三位のため、あまり偉ぶっていない。
この国では特殊な例外を除いて第一王子が王位を継承しているため、予備の予備としての責務さえ果たせればいい、そう考えているのだろう。
「それでは早速始めようか。お前の鉄馬車を見せてもらうぞ」
いつの間に背後に立っていたのか、ソファーに座っていた四人がブルースを囲む。
かなり屈強な男達で、口ひげのハゲ、黒いロングストレートの優男、赤いツンツン髪のオッサン、四角い顔で目が細い男の四人は、ブルースの肩を掴む。
いずれも黒いスーツと黒いマントを羽織っている。
「え? えっと、ま、魔動力機関装甲輸送車なら厩舎の側に置いてありますので、そちらへ行きますか?」
厩舎の側に行くと、馬の世話人たちが魔動力機関装甲輸送車をじろじろ見ていたが、王子達を見つけてそそくさと仕事に戻る。
「ほぅ? これが件の鉄の馬車か」
「はい殿下。こちらから中に入れま――」
「それはいい。まずは装甲を確認させてもらおうか、小僧だけが乗り込め」
ブルースの言葉を遮って、赤いツンツン髪のオッサンが腰から剣を抜く。
剣はかなり大型で、普通の者ならば両手で持つ大きさなのだが、このオッサンは片手で扱っている。
ブルースが慌てて乗り込むと、赤いツンツン髪は両手で剣を持ち前に構える。
「フン!!」
体重を乗せて魔動力機関装甲輸送車に突きを放つ。
だが魔動力機関装甲輸送車は揺れこそするが、その装甲には擦った傷が付いただけ。
「次は俺だな」
四角い顔で目の細い……見えているのか不安なほど細いが、四人の中でもひときわ体が大きい。
その男がマントを外し、腕まくりをして魔動力機関装甲輸送車の底に両手をかける。
「ぐおおおお! ふんぬぁー!」
どうやらひっくり返そうとしているようだが、十トンを超える車体はびくともしなかった。
「どけ! 私がやる!」
黒髪ロングの優男が細目男をどかすと、マントの中から直径十五センチ程の金属のリングを四つ取り出す。
それを見た他の三人と王子は慌てて女性陣を連れて距離を取る。
「輪環魔法、灼熱攻虎砲!」
四つの輪が空中で直列に並び、回転しながら中心の穴から炎が噴き出した。
炎は魔動力機関装甲輸送車に直撃し、さらに炎は魔動力機関装甲輸送車を包むほどに大きくなる。
しかし車体は何ともなかった。
「最後はワシじゃ」
口ひげハゲの年寄(?)っぽい男が装飾の付いた剣を抜き、マントの下、背中に担いでいた盾を構える。
「神技絶招・ヴァルハラ凰旗」
魔動力機関装甲輸送車の下から爆音がし、車体が少し持ち上がる。
爆風が車の下から吹き荒れたが、それ以上は何も起こらなかった。
「ふむぅ……これは驚いたわい、中の男は……驚いた顔をしておるようだがな」
「だがそれだけのようだ」
「熱くもなかったようです」
「結局ダメージは無い、か」
四人の男たちは首を縦に振ると、ブルースに降りてくるように合図をする。
試験らしきものが終わったようなので少しドキドキしており、その表情も少し落ち着かないようだ。
「恐れ入った。ジャレイ殿下の護衛、正式に依頼させていただこう」
口ひげハゲが頭を下げると他の三人も頭を下げる。
「どうやら合格のようね。ブルース、正式に護衛依頼を受けたから、これから詳細を詰めましょう」
とても満足げな顔でオレンジーナはブルースの頭を撫でる。
エメラルダとローザは嬉しくて両脇から抱き付いている。
「その試験待った!!」
喜ぶ声を遮る様に、ブルースの兄クリムゾナが現れた。