10.水中に引き込まれ
亀のモンスターは湖に戻ってしまい、首に食い込んだ大剣もろとも少女ごと潜ってしまった。
「あららぁ~、潜っちゃったねぇ~?」
「どうしてそんなに落ち着いてるんですか!? 早く助けないと!」
「少年よ、それは無理なのだ」
「どうしてですか!」
「我々は……泳げないのだ」
水浴び程度なら平気だが、海が近くに無く、湖の周辺にでも住んでいない限り泳ぐという習慣が無いのだ。
だから安全圏と思われる場所まで亀をおびき寄せたのだろう。
「え!? じゃあ彼女はどうなってしまうんですか!!」
「苦しくなれば戻ってくるんじゃないか?」
どうやら筋骨隆々……筋肉達磨は理解していないようだ。
泳げないというのがどういう事なのか、を。
亀が水卯に見潜って約一分が経過したが、小柄な剣士は浮かんでこなかった。
「あれぇ? 今回は中々戻って来ないねぇ~??」
ブルースは知っていた。
学園にいた時に、フル装備でプールに沈められた事がある。
急いで装備を解除したが、深いプールで溺れると上下の感覚が無くなってしまうのだ。
「浮かんできませんよ! 力んで暴れて沈んでしまうんです!」
ブルースは走り出し、魔動力機関装甲輸送車に乗り込んだ。
潜水の道具でも積んであるのだろうか、と思ったら、なんとブルース、魔動力機関装甲輸送車で湖に向かってアクセルを踏むではないか!
「ちょっと!? そんな鉄の塊で何をするつもりなのよ! エリザベスみたいに飛べないでしょ!!」
ブルースはその言葉を聞かず、浅瀬からどんどん湖の中に進んでいく。
「狂った狂った狂った狂った狂った! やっぱり沈んだ! 血血血ちチ! 血が頭に登ってる!」
そう、魔動力機関装甲輸送車は頭から湖に沈んでしまったのだ。
沈んでしまったのだが……なんと水中でコントロール出来ていた。
タイヤが左右にせり出してプロペラの様に正面を向き、タイヤが回転し、ホイルがスクリューの役目を果たしているようだ。
この装甲車両、なんと水陸両用だったのだ。
ヘッドライトと屋根に装着された強力な六つのライトが点灯し、水中の中をくまなく探すのだが視界内には人間はおろか亀すら見えない。
「クソッ! ソナーを使う!」
スイッチを押すとメーターの表示が替わり、周囲の物体が点で表示される。
ほとんどが枯れ木や魚だが、その中で人間サイズの表示が現れた。
「これだ!」
大きな点へ向かうと、そこには息を止めて暴れている小柄な女性の姿が見えた。
「無事だった! 今行きます!」
照明に照らされた女性はビックリし、魔道車両に向かって構えを取る。
ブルースは外部スピーカーを使って声をかける。
「僕です! ブルースです! 助けに来ました!」
女性にも聞こえたのだろう、構えを解いて魔道車両を凝視する。
屋根のライトを消して、車内の灯りを付けるとブルースが見えたので安心したようだ。
ゆっくりと女性に近づき、ボンネットに乗せると急上昇を開始する。
なぜか女性はノリノリで喜んでいるが、実は危機が迫っていた。
獲物だと思ったのか、巨大な亀が後を追いかけてきたのだ。
ブルースは気付いているので焦っているが、女性は相変わらず喜んでいる。
……息苦しく無いのだろうか。
水面に出て急いで陸地を目指すが、女性はボンネットの上に立ちあがり、拳を突き上げて喜んでいる……のだが、直ぐに亀が背後に上昇してくると、流石にビビッてボンネットにしがみ付く。
亀だから遅いかと思いきや、やはり体が大きいためかなり速い。
何とか陸に乗り上げてそのまま逃げだすと、陸に残っていたデモンスレイヤー達も一緒に走り出す。
「うお!? 亀が怒ってるぞ! おいお前! そのまま湖から引き離しちまえ!」
「あっはっはー! 少年やるな!」
「あ、あんた無事だったんだぁ~」
「え~? ……せっかくの睡眠時間が……」
「エリザベス! これで勝負を決めるわよ!」
「亀亀亀亀亀! かめー! 亀の血をぶちまけろーー!」
随分と湖から引き離すと、ブルースは急ブレーキをかけた……当然ボンネットに乗っていた女性は前方に吹っ飛び、地面を転がって木に激突した。
「ああ! すみませんすみません!」
「いやっほ~い! 私、帰還!」
何事も無かった様に立ち上がり、両手を突き上げて喜んでいる。
剣士なだけあって頑丈なようだ。
魔道車両から降りて駆け寄るが「武器が無い!」と騒いでいるため、重装歩兵の装備を展開し、付属している通常サイズの剣を手渡した。
「え? 何それ便利。借りるね!」
と亀に向き直ると、何と目前まで亀が迫り、顔で二人を吹き飛ばそうとしていた。
「危ない!」
ブルースは盾で亀の突進を受け止めるが、やはり体重差があって数メートル後退した。
そう数メートルだけ、押されたのだ。
「あ、あら? 私、吹き飛んでないの?」
フル装備のブルースならば、かなりの衝撃を受け止める事が可能だ。
もちろん物理に限るが。
「こんのぉ! 私の命の恩人に何するのよ!」
小柄な女性は亀の首を駆け上り、さっき大剣が食い込んだ場所を何度も斬りつける。
最初は跳ね返されていたが、大剣で斬った時よりも首へのダメージが大きい。
「あ、あれ? 私の大剣よりも威力ある?」
それもそのはず、重装歩兵の武装は正面から敵を受け止めるため、通常よりも頑丈に作られており、更にレベル99の武器は鎧と同じく性能が高い。
亀の首筋から血が吹き出す。
足元や首の下からも仲間が攻撃を加えており、また逃げるのではないかと思われたが逃げない。
今はブルースとの力比べの最中であり、力を抜いたら亀が吹き飛ばされてしまうからだ。
兜の中から睨みつけるブルースの目から、亀を逃がさないという意地も見える。
「エリザベス! 踏みつけて!」
二本の斧を持つ野人の様な女性がそういうと、何と小鳥だったはずの鳥は巨大化し、亀の上に落ちて来た。
その重みに耐えられなかったのか、亀は胴体を地面に付けて動けなくなる。
「よぉ~っしぃ、今のうちにやるよぉ~!」
「首! 首首首首、首の、血血血血チちぃ! 狙え!」
マッドな学者風の男の指示により、全員がジャンプして首の上に乗る。
「く」
「た」
「ば」
「り」
「な」
傷口に剣を深く突き刺し、斧が傷口を広げ、僧侶は拳で殴り、魔法使いは剣と斧を通して雷撃を撃ち、密偵はナイフを足で差し込む。
そして。
「これでぇ~、終わりだよぉ~」
司祭は自らの剣に炎を付与させ、体重をかけて根元まで剣を突き刺した。
それと同時に爆発したように首がはじけ飛び、大きな音をたてて地面に落ちる。
各メンバーも地面に着地し、亀の首から噴き出す血を浴びていた。
「血ぃ~~~~~~!! 来た、来た来た来た来た、来たぁ~~!」
約一名喜んでいるが、亀が動かない事を確認し、これで任務は完了となった。
「やったねブルース! やっぱり私の男だね!」
小柄な女性はブルースの首に飛びつき、ブルースにキスをせがんでいる。
「ちょ、ちょっとま、待ってください!」
そんな様子を上空から怖い目で見ている者が居た。
ペガサスに乗った少女、エメラルダだ。




