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1.スキルブック

「おや、何をやっているんだい?」

「今スキルブックを与えているのよ。お腹の中にいる子供たちにね」


 天界にある屋敷の中の一室で、女神らしき若い神が分厚い辞書の様な書物を次々に空間に開いた穴に放り込んでいた。

 スキルブックは人間に与えられる能力の事で、スキルブックに書かれたものならば、素晴らしい能力を発揮できるというモノだ。


 スキルブックに書かれた能力以外も努力したら伸ばせるが、その能力はスキルブックを持つ者に比べて低く成長も遅い。


「キミはランダムに与える派だったね。それにしても……もう少し整理したらどうだい?」

「いいのよ、どうせランダムなんだから、スキルブックを整理する必要はないでしょ?」


 男神(おがみ)は乱雑に積み上げられたスキルブックを見て呆れているが、女神は気にしていないようだ。

 

「キミがかまわないならいいが……うわっ!」


 乱雑に置いてあったため、床に転がっていたスキルブックに足を取られて転んでしまった。

 その際、手に持っていた書物を落としてしまったのだが、間違えてスキルブックを手に取ってしまう。


「今晩は会議があるから忘れないようにしておくれよ?」

「わかってるわよ。ほら邪魔邪魔」


 男神は追い出されてしまった。

 女神はその後もポイポイとスキルブックを人間の子に与えていくのだが、ふと手にしたスキルブックを見ると、懐かしいスキルが書かれていた。


「うっわファランクスだわ。今の時代は魔法攻撃と機動力を生かした戦いがメインだから、重装歩兵は盾にもならないのよね。このスキルを受け取る子、ご愁傷様」


 ポイっと穴に放り込んだが、そういえばスキルブックにしては表紙の色が違い黒っぽかった事を思い出す。


「スキルブックにあんな色あったかしら……それにあまりにも時代遅れのスキルは全部抜いたはずだけど、まだ残ってたのかしら」


 しかしこの女神、少々楽観主義者というか、かなり雑な性格をしていた。


「私がそんなミスするはずないわよね。気のせいよ、気のせい」


 そうしてスキルブックを空間に開いた穴に放り込む作業を再開した。

 翌年、ワイズマン子爵家に一人の子供が誕生した。

 ブルース・フォン・ワイズマン。

 ワイズマン子爵家の五人目の子供で、戦乱の時代において、武勲で成り上がったワイズマン家にとって望まれた男子だ。


「おおでかしたぞ! この子にもきっと素晴らしいスキルが与えられたに違いない!」

「あなたは剣豪、長男は剣聖(ソードマスター)、長女は聖女(セイント)、他の子はまだスキルが確定していないけど、きっと素晴らしいスキルを与えられたはずだわ」

「もちろんだとも! 次はなんだろうな、聖騎士か? それとも勇者!?」


 この大陸では大小問わずすべての国が戦争状態であり、いまこうしている間にもどこかで戦闘が行われている。

 ワイズマン家は元は一兵卒だったが、その膨大な戦果により一代限りの貴族として取り立てられた。

 しかし戦果を挙げ続ける事で、永続貴族になる事も可能だ。


 ワイズマン伯爵はそれを狙っている。


「ふふふ、五歳のスキル鑑定の儀が楽しみだわ」


 それから数年が経ち、次男は狙撃手(スナイパー)、三男は魔法使い(ウィザード)、そして第五子で四男であるブルースは……


「ふぁ、重装歩兵(ファランクス)だとぉ!? バカな! その様な時代遅れのスキル、使い物にならないではないか!!」

「ああ! アナタどうしましょう、こんな子がいるとバレたら、我がワイズマン家の威信にかかわるわ!」


 時代遅れのスキルだと判明し、ワイズマン家は神殿の中にもかかわらず大騒ぎをしている。

 幸いひと家族ずつのスキル判定なので、神殿内には神官以外は居ない。


「だが成人するまでは必ず育て上げねばならない。王国法で厳しく取り決められているからな」

「それならば他の子達に注力(ちゅうりょく)しましょう。この子は居ないものとして扱えばいいわ」


 この国での成人は十五歳。

 あと十年はワイズマン家で暮らせる。いや、あと十年しか暮らせないのだ。


「やぁ久しぶり。スキルブックの分配は順調かい?」


 天界の一室で仕事をしている女神の元に、男神が訪れた。


「また来たの? 順調よ。用がないなら出て行って、今忙しいの」

「そう邪険にしないでくれよ。前に来た時に、本を忘れて行ってしまったんだけど、どこかに落ちていなかったかい?」

「本? 知らないわね、見てないわ」


「ファランクスっていう本なんだけどね。本当に見てない?」

「大体アナタが前に来たのって何年前よ」

「えーっと、五年程前かな?」

「そんな昔の事なんて……ファランクス?」


 女神は思い当たるフシがあるようで、スキルブックを空間の穴に放り込む手を止めた。

 そして今持っているスキルブックを見ると農業と書かれている。

 そして表紙の色はいつも通りのスキルブックの色だ。


「ファランクスって、何色の本?」

「黒っぽいかな」

「……そのファランクスって、どんな本なの?」

「武器・兵科辞典だよ。どのランクの世界にも、なぜかファランクスっていう名を持つ物が存在していてね、面白いからまとめたんだ」


「ファランクスって……重装歩兵よね?」

「第一ランク世界ではそうだね。でも第二ランク世界では魔動力機関の装甲車なんだ。第三ランク世界になると――」

「待って! それ……スキルブックと間違えて、人に与えちゃったかも……」

「……え!?」


 二人の神の顔が真っ青になり、顔を見合わせてプルプルと震えている。


「なんでそんな物を忘れていくのよ!」

「なんでそんな物を与えてしまうんだ!」

「あったら与えちゃうでしょ!?」

「確認くらいしてから与えたらどうなんだ!」


 言い争いが始まったが、そんな事をしても事態が改善する訳でもない。

 それを重々理解しているようで、神達は直ぐに冷静になった。


「そ、それで、武器・兵科辞典を与えてしまった場合、どうなってしまうのかしら?」

「単純に、書かれている武器が使えるようになるだろうね」

「ちょっと待ちなさいよ! まさか第十ランク世界の武器を使えるって事!?」


「将来的には、だけどね」

「レベルの上限はスキルと同じなの?」

「恐らくね。レベル99までで、100になるとランクが上がると思うよ」


「それなら……大丈夫なのかしら?」

「人間の最高レベルが89だから、重装歩兵のままで一生を終えると思うよ」

「ちなみに、第十ランク世界でのファランクスって何なの?」


高次元航行(こうじげんこうこう)移民戦艦(いみんせんかん)だね」

「ああ、最終型になると天界に行けるようになるって言う、神の予備軍の連中ね」

「そうだね。まぁ心配はないと思うよ?」

「そうね。うふふふふ」

「あはははは」


 本来ならば客観的な予想だったが、その予想は大きく外れる事となる。

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