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権利を買い戻させていただいた作品

侵略地帯

作者: 星野☆明美

侵略地帯

   星野☆明美

   プロローグ☆流れ星

それは、夕焼けの広がる西の空をいくつもの流れ星が駆け抜けた後に起こった出来事だった。

その日、いつものように小学校の下校の合図にドヴォルザークの新世界交響曲が流れていた。僕らはひとしきり遊んだ後で、名残惜しい気持ちで帰宅していた。

「ヒロくん、流れ星!」

先に気づいたのはカナちゃんだった。

「わ!何か願い事しなくちゃ」

「3回も唱えられる?」

「えっ、でも・・・」

ヒューン、ヒューン、ヒューン。

おびただしい数の流れ星だった。僕らはちょっと怖くなって、願い事どころじゃなかった。

「なんであんなにいっぱい落ちるの?」

カナちゃんが震え声で言った。

「大丈夫だよ」

根拠はなかったけれど、僕はカナちゃんを安心させたくてそう言った。

実際、流れ星はそのうち流れなくなった。僕らはほっとして家に帰った。

「・・・流星群は西京町で多数目撃され、原因究明が急がれています」

夕方の地元のニュースはその話題で持ちきりだった。

「不思議なことがあるものね」

お母さんが晩ごはんの仕度をしながらそう言った。

「隕石か何かが大気圏に突入するときに燃えて、バラバラにわかれたんだろう」

仕事から帰ったお父さんがそう言った。

僕は目をまんまるに開いてお父さんの書斎の棚から科学雑誌を引っ張り出してきて読んでみた。

「UFOの可能性は無いの?宇宙人が乗ってやって来たとか?」

「そんなことあるもんか。バカなこと言ってると今夜興奮してまた寝られないぞ。明日の休みはハイキングの予定だろ?早く寝なさい」

「はーい」

返事をしながら僕はちょっとつまんなかった。

不思議なことが起こるのを心のどこかで待ちわびていた。単調な毎日は退屈だったんだ。


   1☆ハイキング

翌日。秋晴れの高い青空の下、僕は両親と親戚のタエコ姉さんと近場の山登りに行った。

そんなに標高の高い山ではなくて、丘陵地帯って感じだった。杉の林の中を通る小路をリュックサックしょって歩いていった。

「ヒロくん、キノコ生えてるよ!」

タエコ姉さんが興奮して言った。

「見たことないキノコだなぁ・・・」

お父さんが呟いた。

「毒キノコだったらどうするの?そんなのほっぽっときなさい」

お母さんが小路からみんなを呼び戻そうとした。

キキッキキ。

リスが数匹、そのキノコをかじっていた。

「食べられそうだよ!」

僕は手近なキノコをもいだ。

ぶううううううん。

何か、耳鳴りがしたようだったけど、気のせいだと思った。

「私も採ろうっと」

タエコ姉さんがバリバリ快進撃でキノコをもいでいった。

「なんか言った?」

「えっ?何も言ってないよ」

「何か聞こえたんだけどなぁ」

首をひねるタエコ姉さん。

持っていたビニール袋にいっぱいキノコを入れて、あらかた生えてるのは採り尽くしてしまった。

「絶対だめです!捨ててらっしゃい!」

お母さんが頑として聞かなかった。

「わらいだけとか、あたったら怖いんだからね」

「中山さんのお爺ちゃんに見てもらったら?キノコ博士の」

「えーっ」

どうしても嫌がるお母さんと対照的にタエコ姉さんは食べる気満々だった。

「ハイキングがキノコ狩りになったな」

お父さんが笑っていた。

山頂の展望台でお弁当食べて、景色を堪能した。

空気が綺麗で気持ち良かった。

ちょっと、横に寝転んでコンクリートの椅子に乗った。

ぐう・・・。

思わずうたた寝した。


   2☆キノコ型宇宙人

ザワザワザワザワ。

さざめく声を聞いた。そうっと薄目を開けてみると、さっき採ったキノコがビニール袋の中でごそごそ動いている!

僕はぞっとして全身鳥肌がたった。

「タエコ姉さん!このキノコ、変だよ!」

「そうなのよね・・・悪くならないうちに調理しちゃおっか」

「へ?」

タエコ姉さんがフライパン片手にキノコに塩をふって炒めだした。

ぎゃあああああああ。

叫び声と共にキノコが絶命してゆく。

あまりのことに僕が絶句してると、

「まあ、美味しそう」

とお母さんが嬉しそうに炒めたキノコに箸をのばした。

「おおっいけるじゃないか」

お父さんまで食べている。

「ヒロくん、食べないの?」

タエコ姉さんの問いかけに、僕はぶんぶか首を横に振った。


   3☆鳥

僕は夢でも見たのかな?ってずっと思いながら、山を降りていた。でも両親もタエコ姉さんも平然としている。

ぴいぴい、ちちちちち。

鳥の鳴き声が響いていた。

がさがさ。キキイ。

「うわっ」

僕の頭に向かって鳥がぶつかってきた。帽子をかぶっていたからそうひどくは感じなかったけれど、明らかにその鳥は僕に敵意を持っていた。

「大丈夫?」

タエコ姉さんが僕に聞いた。

「大丈夫だよ・・・」

気のせいか、タエコ姉さんの瞳は薄く赤みがかってみえた。

もしかして、あのキノコを食べたせい?

僕は怖くなった。

「どうしたんだ?」

お父さんとお母さんが近寄ってきた。

「鳥が襲ってきたんだ・・・」

そう言いながら後ずさる。お父さんとお母さんの瞳も赤く見えたんだ!

「ヒロくん、どこ行くの?」

僕はみんなから一目散に逃げた。

走って走って、息がきれて杉の木にもたれかかって休んだ。

からっているリュックサックから水筒を出してお茶を飲んだ。

「落ち着け、落ち着け。どうにかしてみんなを助けないと・・・」

「お前一人で何ができるんだ?」

声に振り向くと、木の枝に止まった鳥が赤い目でじっと僕を見ていた。

「一体、何が起きてるんだ?」

僕が言うと、

「教えてやろうか?」

と、その鳥が言った。


   4☆宇宙から来るもの

 「この地球は現在、侵略されている」

「昨日の流星群に乗ってやって来たんだな?」と僕は聞いた。

「元々この星に住んでいた生物が、他の星に出掛けている間に、お前たちがはびこった」

「そんなの嘘だ」

「永い永い年月、我々は地球に戻る日を夢見ていた」


僕は赤い目の鳥が話すことをにわかには信じられなかった。

「『我々』って、キノコ型宇宙人じゃないのか?」

「あれは媒体ー仲介する姿だ。本当は菌類みたいに細かい姿をしている」

鳥が言うには、キノコに潜んでいた『何か』が食べられることによって移動していくんだと言う。

大変だ!

一種の病原体みたいなものだ。お医者さんに訳を話して治療法を見つけないと、どんどん拡がってしまうだろう!

キノコを見てもらうのに『中山さんのお爺ちゃん』ってタエコ姉さんが言ってたっけ?僕は辺りを捜し回って、キノコのまだ生えてるやつを見つけた。気持ち悪いけど、もいで、バンダナに包んでリュックサックに入れた。

「何をする気だ?」

「僕にできるだけのことだよ!」

そう叫ぶと、山道を駆けおりた。


「中山さん!中山さん!」

ドアを力任せにノックする。

「はい?どなたですか?」

おばちゃんが応対に出た。

「お爺ちゃんいますか?見てもらいたいキノコがあります!」

「ああ・・・。今、庭で柿をもいでますよ」

裏口から回って、庭に案内された。

「誰だい?」

「ヒロっていいます。昨日の夕方流星群が流れて、それに乗ってやって来た宇宙の病原体がキノコになって裏山にいっぱい生えていたんです!僕の両親と親戚のお姉ちゃんが食べてしまって、助けないと!」

「おやおや!」

中山さんのお爺ちゃんは真っ白い眉をぴくりとはねあげて僕をまじまじと見つめた。家の縁側に取ったばかりの柿の実をかごにいれて置くと、僕の取り出したバンダナを開いて例のキノコを見た。

「これは、見たことがないキノコだ」

「まあ?キノコ博士って言われてるのに、お爺ちゃんの知らないキノコがあるなんて」

おばちゃんがびっくりして言った。

「だから、宇宙からやって来たんです!」

「宇宙から?」

おばちゃんが笑った。僕はわかってもらえないのかと思ってじれったかった。

「む?何か話し声がするぞ」

「そのキノコです!」

「うーむ。保健所へ持っていって調べてもらおうか」

「はい!そうしてください!」

僕は今、中山さんのお爺ちゃんだけが頼りだった。


「このキノコに宇宙の病原体が潜んでいるんです!」

みんな、はじめは僕の言うことを笑い飛ばしていたけれど、キノコの現物を見ると、だんだん深刻に考えるようになった。

「これを食べた人や動物の目が赤くなって、変になるんだ!」

「これヤバくないですか?」

保健所のお姉さんがシャーレのなかから取り出したキノコのかけらをプレパラート用に薄く切って顕微鏡で覗いて言った。

「急いで対応策を考えないと、パンデミックになるぞ」

「調理して食べてもおかしくなったんだね?」

「はい」

「加熱方法は効かないってことか・・・」

「何か弱点があればいいんだけど・・・」

みんなが途方に暮れた。

「砂糖、塩、お酢、お酒・・・なんでも試してみましょう!」

「そんな、お料理教室じゃないんだから!」僕は呆れてしまった。

「砂糖!」

「はい」

「塩!」

「はい」

「お酢!」

「はい」

「お酒!」

「はい!・・・美味しいです」

「「「えっ?」」」

見ると、お姉さんの目が赤くなっていた。

「なんで食べちゃったんだ!」

「だって・・・お腹すいてたんだもん」

「あちゃー」

「皆さんもどうぞ」

「ほいじゃ貰うか」

「えっ?」

僕は自分の目を疑った。

大人たちみんながキノコの料理を食べ始めたからだ。

「ヒロくん~あんたも食べなさい」

「うわーイヤだ!」

僕は這う這うの体で保健所から逃げ出した。

なんでだ?なんでみんなはじめは疑ってたり警戒してたりするのに、どうして口に入れるんだ?

「だから言ったろう?一人で何ができるんだ、って」

山で会った鳥が僕のところに舞い降りた。

「あれ?目が赤くないぞ」

「うん。汗や老廃物と一緒に時間が経つと体の外に排出されるんだ」

「でも・・・まだ喋ってる!」

「まだ残ってるからねぇ。でも、俺としてはこうして喋れるのは嬉しいがね?」

「なぜ?」

「人間に言ってやりたいこと山ほどあるよ。どんどん自然を削って、空気を汚染して、なんてひどいことするんだってね」

「それは・・・人間が発展していくのに必要だったからじゃないのかな?」

「そんな生物、地球に要らないよ」

「!」

僕はショックだった。

「きっと、大昔の地球に侵略者として現れたのは、お前たち人間の方じゃないのか?」

「そんなわけあるもんか!」

「何か証明できるか?」

「破壊された環境を改善したり、絶滅危惧種を保護したり、良いことだってたくさんやってるよ!」

「立ち位置がね、他の生物と違い過ぎるんだよ。一体、どんなこと考えて行動するのか、見ていてハラハラする」

「それでも・・・人間は地球の一員だ!僕らもいなくちゃ、地球は地球でなくなっちゃうよ」

「こどもの理屈だね」

「いつか僕が大きくなったら、もっとちゃんと答えられるようになるよ」

「本当に?」

「本当に」

その鳥は一回こっくりとうなずいた。くちばしから何かの塊を吐き出すと、喋らなくなった。

「もう、話ができないんだね?」

僕が寂しげに問いかけると、ピーヨと一声鳴いて、空へ飛び立って行った。きっと山のねぐらに帰るんだろう。

僕は脱力してその場にへたりこんだ。


   5☆星に願いを

 「おっ。起きたか?」

お父さんが言った。

見渡すと、山の上の展望台にいた。

「眠ったっきり、なかなか起きないし、うなされていたからどうしようかと思ったぞ」

夢、だったのかな?

でも、光のちょっとした加減でお父さんの目が赤く見えた。

僕はぶるるいと身をふるわせた。

「キノコ?なんのこと?」

タエコ姉さんも訳がわからないようだった。

「とにかく、暗くなる前に山を降りましょう」

お母さんが薄手の上着をみんなに着せた。涼しい風が頬を撫でた。

「お父さん」

「なんだ?」

「僕ら人間は地球の侵略者なの?」

「なんでだ?」

「他の生物と違うし、好き勝手やってて、きっと他の生物からしたら邪魔な存在なんだよ」

「そんなこたぁない」

お父さんは優しく笑って、僕の頭を撫でた。

「俺たちは他の生物と共存してゆける。これまでも、これからも」

「そっか、そうだよね!」

僕も笑った。

「一番星、みーつけた」

タエコ姉さんが不意に叫んだ。

「こんな平和な日々がずっと続きますように」

僕は心からそう願った。

ピーヨ、ピーヨ。

鳥の群れが頭上を飛んでいった。

「平凡な日常を退屈に思っていたけど、何か起きてしまったらそんなことすっ飛んじゃうんだね。知らなかったよ」

僕はそうひとりごちた。

「ヒロ、なんかちょっとだけ大人になったんじゃないか?」

と、お父さんが言った。

「まさか、気のせいよお父さん」

とお母さんがクスクス笑った。

「大人になるのが楽しみでもあるし、怖い気持ちもするよ」

「みんなそうだよ」

僕らは暮れて行く空の下、帰路についた。


 おしまい



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