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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パニック(その他)

鋼鉄の防人たち

作者: onyx

 視界に広がる原生林と、時折りその隙間から差し込む陽射しがディスプレイに写し出される。そのディスプレイには、自分たちを含めた味方の位置関係が投影されていた。

 中隊長からの無線が、意識をディスプレイから遠ざける。

『中隊長より全機、目標は前方300mの市街地を占拠中である。我が中隊の移動ルートは敵の最も防備が薄い部分に面しており、ここから諸職種の支援を受けつつ停泊中の敵中型母船を一気に強襲し破壊する。非常に困難な任務だが、既に道東では何度か我が方の勝利も確認済みだ。次は我々が勝利の報告をする番になる事を期待する。以上だ』

 ディスプレイの位置相関投影を最大可した。都市の両翼から戦車部隊が接近し、包囲の幅を狭めつつある。後方10キロには特科の射撃陣地が密かに構築されており、十数門の榴弾砲を睨ませていた。これに加え、ヘリ部隊も攻撃発起地点で待機中だ。どれもこれも、頼もしい存在である事に違いない。

『小隊長機より各班長、市街地突入後は相互に連携しつつ敵中型母船を目指す。可能な限り自己の保全を優先しつつ、仲間の背中を意識しろ。突入に備えて装備の最終確認を行え』

 そう、信じられないかも知れないが、俺たちはエイリアンの軍団と戦っていた。不意の侵略で道北・道東・道央を奪われたが、1年と少しの時間を掛けて連中を道北まで押し返した。

 右腕に備え付けられた重機関銃の装弾をチェックする。搭載弾薬数は300発。電子制御された5点バーストなら60回撃てる。次に左肩から伸びる4連装84mmロケット弾の動作確認に入った。装填されているのは成型炸薬弾で、主力戦車の正面装甲にどうにかダメージを与えられるぐらいの威力はある。

 最後に、後ろ腰部分に磁力で吸着している近接戦闘用アックスを取り出した。刃の鈍い輝きに、ディスプレイの中にある自分の目が反射して見える。これなら熊でも十分に斬り殺せるだろう。最も、パワーアシストされた状態の斬撃は車すら叩き割れる威力だ。

『こちら2戦連第3中隊、配置完了』

『4中隊、同じく配置完了』

 戦車の位置取りが終わり、特科も射撃準備が完了。突撃の準備が整った。

『全機、ジェネレーター出力を戦闘レベルまで上げろ』

 全身を覆う人工筋肉が温まる。普段は常温で、戦闘行動に必要ない部分は駆動しない。こうなると、ちょっとジャンプしただけでも思っているより高く舞い上がり、それに驚いて着地が疎かになって大怪我する可能性もあった。

『攻撃準備射撃開始、各隊は着弾確認後に前進せよ』

 微かに砲声が轟く。数十秒の後、盛大に着弾する音が鳴り響いた。これを合図に、戦車と我々の突入が始まる。

『中隊全機、前へ』

 オープンにされた無線から各小隊長たちの怒声が聴こえる。そんなに大声を出さなくても十分だが、部下たちに気合を入れるのが彼らの役目だ。仕方ないのだろう。

『第1小隊前進!』

『第2小隊! 行くぞ!』

『3小隊前進!』

『第4小隊駆け足!』

 森の中からゾロゾロと、緑色の装甲に覆われた人型の機械が姿を現した。これこそ、現状を打破するため日本が各国に先駆けて凌ぎを削って開発し、短期間で正式化まで漕ぎ着けた27式装甲機動戦闘装着セットである。


 中隊はヘリ部隊の直援を受けつつ無事に市街地へ突入を果たす。小隊毎に別れて行動を開始し、中央に停泊する敵中型母船目掛けて進み始めた。

【前方20mに歩兵タイプ、攻撃を推奨します】

 女性らしい声色の、落ち着いた電子音声がそう囁く。各機には運用サポートのため音声認識型のAIが搭載されており、色々と手助けをしてくれるのだ。

「班長、前方20mに歩兵タイプ、撃ちます」

『目に入ったのからどんどん撃て! 足を止めるな!』

 他の連中も一斉に撃ち始めた。自分も便乗しつつ、可能な限り的確に弾薬をバラ撒く。撃ち抜かれた歩兵タイプは宇宙服から鮮血を滴らせ、ヘルメットが破れた事で息苦しそうな仕草をしながらアスファルトに横たわっていった。

『適応出来ない惑星に移住してくんじゃねぇよエイリアンども!』

『酸素が吸えるようになってから出直してきやがれ!』

 仲間の汚い怒号が飛び交う。ああは言うが、自分の考えでは恐らく連中の目的はテラフォーミングか何かであって、今直ぐの適応は考えていない気がしていた。

『2時方向! 敵の機動兵器です!』

 全高30mほどの4足歩行兵器が姿を現した。小さい家屋なら薙ぎ倒してしまうが、日本の無駄に頑丈に作られたビル群には敵わないらしく、大人しく道路を通って来るのが何とも滑稽である。コイツは4本の足と別に、2本の腕のような副腕を持っており、そこに火炎放射器やら連続して光弾を撃ち出す機関銃を備えていた。

『ロケット弾用意! 小隊集中!』

 各班ごとに纏まる。火器管制を切り替えると、ディスプレイの表示も変わった。目標までの距離を自動的に割り出し、最適な発射角を指示してくれる。ランチャーもそれに合わせて発射口を上下させた。

『よーい! 撃っ!』

 全員が1発ずつ発射したロケット弾は4つ足へ次々に食らいついた。見た目の割に装甲はそこまで厚くないらしく、弾頭の成型炸薬効果で穴を開けられて内部にダメージを負い、機体の各所から火を噴出して爆発炎上。副腕も千切れ飛び、抵抗する事もなく崩れ落ちていった。


 市街地に突入して早くも30分が経過。あちらこちらに抵抗線を築く歩兵タイプを重機関銃で薙ぎ倒しながら、味方の火線を利用して接近し装甲で覆われた人工筋肉で力任せに殴り付けた。歩兵タイプはそもそも体が人間と大差ないため一撃で吹き飛んでいく。

『2戦連4中1小隊から装機中隊、敵母船型の北西100mにまで進出した。必要であれば支援行動に入るがそちらの状況は如何か』

 どうやらかなり最深部まで入り込んだ部隊が居るようだ。こっちは足並み揃えないと全滅の危機を常に孕んでいるから、装甲に覆われた身と言えど過信は禁物である。それに引き換え戦車は流石の突破力と機動力だ。

『こちら装機中隊、まだ敵母船まで500mはある。下手に刺激せず監視を続行されたい』

『1小隊了解、監視を続ける、通信終わり』

 ディスプレイに味方の位置相関図を表示させた。上手く連携していたつもりだったが、意外にも進出状況はまちまちで各部隊同士の距離も開いている。

『みんな急ぐぞ。突入のタイミングを逃すと母船型の逃亡を許す事になる』

『特科の砲撃で叩き落せばいいじゃないですか』

『バカ野郎、物理的衝撃を防がれちまうから俺らが突っ込むんだろうが』

 これに関しては米軍がバンカーバスターや対地トマホークの飽和攻撃で無力さを痛感している。母船型の周辺はこれらの砲爆撃による攻撃を無効化してしまうバリアのような物が張り巡らされており、全てが意味を成さないのである。

 これに対し、ロンドンを占領されたイギリス軍はSASを中心とした決死隊を編成。地下から接近して母船型の真下に音も無く現れ、歩兵タイプの目を掻い潜りながらありったけの爆薬を仕掛けた。この起爆で母船型は大爆発を起こし、周囲のビルもかなり吹き飛んだが一応の勝利を収める事となった。現在数多くの国々でこの戦法が取り入れられ、我々もこれからそれをやりに行こうとしている最中である。

『2戦連3中隊、攻撃発起地点に到達、別命あるまで待機する』

『1対戦ヘリ隊は予想接触線付近で威嚇行動を行う、各隊は速やかに前進願います』

 WAH-64の編隊が機銃掃射を始めた。歩兵タイプは人間と同じかそれに近い思考回路をしているらしく、驚いたり恐慌状態に陥ったりする事もあるので威嚇が十分に効果を発揮する。

『第2小隊、位置に就きました』

『1小隊同じく』

 これに続いて第3第4小隊も次々に攻撃発起地点へ到達した。最後の攻撃が始まろうとしている。

『戦車隊は陽動を開始、ヘリ部隊は撹乱を始めろ』

 車体に増加装甲を施した90式戦車が凄まじいスピードで走り出した。建物の間から流鏑馬の如く砲弾を送り込み、母船型の周辺に展開する歩兵タイプや機動兵器を撃ち抜いていく。更にヘリ部隊がロケット弾を無造作に撃ち込んで混乱を誘い、敵の防衛線を突き崩していった。

『中隊突入! 前進せよ!』

 重機関銃で弾幕を張りながら母船型へ突き進む。母船型は4本の支柱をアスファルトに突き刺しており、それでバランスを取っていた。中央には歩兵タイプや機動兵器を出し入れする開口部があり、ここに爆薬を仕掛けるのだ。お互いの背中に厳重に仕舞われているC-4爆薬を取り出しあい、これを開口部にひたすら取り付けていく。

『第4小隊全機、設置完了』

『第3小隊、設置終わりました』

 第1第2小隊も遅れること数分で全ての設置が完了。これにより後頭部の部分に搭載されている6連装スモークディスチャージャーから煙幕弾が無数に発射され、我々が撤退する様を敵から隠してくれた。この間も戦車とヘリの支援攻撃は継続される。市街地外郭への撤退が完了した時点で彼らも後退を開始した。

『装機中隊、撤退を完了しました』

『ご苦労、これより起爆作業に入る』

 設置した爆薬の指令系統は中隊長の手元に全て集約されており、安全な場所から起爆指令を送る事が出来た。戦車もヘリも安全圏へ退避が終わっている。やるなら今しかないだろう。

『通電確認、起爆』

 音より先に衝撃波が我々に襲い掛かった。次いで爆音が鳴り響き、母船型がゆっくり崩れ落ちていくのが目に見える。一先ず、我々の勝利だ。

『これより残敵掃討に任務を移行する。各機は補給を受け次第、再度市街地への攻撃行動を開始せよ』

 まだまだ休めないらしい。ヘリ部隊が再び進出して機銃掃射を始めるのを尻目に、我々は段列が用意された後方300mへと機械音を立てながら足早に戻って行った。

何年後かにこの連載版を考えています。

その時はまた中身が変わると思いますが、雰囲気だけでも感じて頂ければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 臨場感あふれるワンシーンといった素敵な短編ですね! かなり好きなやつ。
[良い点] 基本「現用兵器」+パワードスーツな所が良いです。 ドローン兵器は電子妨害されちゃうんでしょうかね? [気になる点] 何故北海道に侵攻したんだろう? 普通人口密集地じゃないだろうか? イギリ…
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