馬鹿との上手な付き合い方
ヨシとは付き合って3ヶ月になる。
正式には出会って3ヶ月。
渋谷のクラブでナンパされて、なんとなくキスして、なんとなく寝た。
その日だけだと思っていたら次の日も連絡がきた。
その時が暇だったんだと思ってたら毎日連絡がきた。
指輪ももらった。
気付けばヨシがあたしの彼氏だった。
正直、ヨシを好きなのかどうかは分からないけど、あたしも人間だし1人は寂しい。
結局はヨシだって同じだと思う。
あたしの心の隙間にヨシが埋まる。
それだけの関係。
「俺は本気でアヤのこと愛してるからさ」
ヨシは口癖のように言う。
そんなヨシは嫌いじゃないし、たまに可愛いとも思う。
それでも毎日言われ続けるとなんだか虚しい単語に聞こえてくる。
愛とは容易く手に入るものだ。
最近つくづくそう思う。
2人で会う時はたいていあたしの部屋だった。
食べて、飲んで、セックスして、そんなのの繰り返し。
それでも十分満たされた。
あたしは一度だけ聞いてみたことがある。
「なんであたしなの?」
ヨシは気の利いた答えを考えたようで、少し悩んだ後に
「運命?」
と、馬鹿っぽい答えを導きだした。
「運命」
あたしも馬鹿みたいに繰り返した。
ヨシとは気があう訳でもない。
あたしはヨシをまったく理解できなかったし、ヨシもあたしを理解できないようだった。
ヨシは口を開けば「好き」とか「愛してる」とか、いくつかの言葉を子供のように繰り返した。
あたしはそれに対していつだって「はいはい」って答えた。
セックスしている時だけあたし達は分かり合えた。
いや、分かり合えたってのは言葉が違う。
感じ合って無になれた。
よく分からないけど少しだけ幸せな気分になれた。
結局、ヨシとあたしは体以外何も繋がってないんだろうか。
そもそも他人と繋がるなんて可能なんだろうか?
ある日、そんな疑問が体を覆ってヨシを受け入れなくさせた。
そんなことを知らないヨシは無邪気に私の体に触れる。
何も湧かない。
何も起こらない。
いくらヨシでもそのうちに気付く。
「アヤ、今日はしたくない?」
なんだか全てが馬鹿馬鹿しくなった。
なんでヨシはあたしといるんだろう。
あたし達はお互いを知ろうとしない。
心を置き去りにして、体だけ求めて、先も見えなきゃ終わりもない。
「あたしが毎日したくないって言ったら、ヨシは他の子探す?」
言葉にしたら急に寂しくなった。
ヨシも寂しそうな顔をしていた。
あたしの一言からどれくらいの時間が経ったのだろうか。
今、あたしたちは何事もなかったかのようにテレビを見ている。
ほんの一瞬で自分を支配したあの寂しさはどこかへ消えて、虚しさだけが残った。
ヨシはテレビを見ながらいつもどおり1人で笑っている。
何もしなくてもこのまま朝までいてくれるんだろうか。
そんなことを考えたら胸の奥がなんだかピリッとした。
「アヤ、俺もう寝る」
ヨシはそう言って先にベットに入った。
あたしが隣に滑り込むと、背中を向けて赤ん坊のように小さくなった。
「俺、アヤがしたくないなら我慢するよ」
ヨシは独り言のように呟いた。
「アヤがしないなら俺もしない。でもアヤが他の男とするのは絶対嫌だ」
体が熱くなる。
さっきのあたしの質問に馬鹿なヨシが数時間かけて導きだした答えは、今までヨシがくれたどんな言葉よりも愛に溢れていた。
「ヨシ」
「・・・」
「あたしのこと大好きなんだね」
「・・・いつも言ってるし」
ヨシは丸くなった体をさらに竦める。
「ヨシ」
「ん?」
「眠い?」
「あんまり眠くない」
ヨシを後ろから抱き寄せる。
「あたし、今したい」
ヨシは振返るようにしてこっちを見ると、そのまま寝返りを打ってあたしに抱きついた。
「アヤって本当よく分かんない」
ヨシはくすくす笑った。
「馬鹿との上手な付き合い方」は、私が高校生の時に初めて書いた作品です。
つたない文章ですが、思い入れのある作品だったので投稿させて頂きました。
最後まで読んで頂き、有難うございました。