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3章 24話 王都道中3


「なんだと! ウィリアム様が?!」


「ニルダ、落ち着きなさい!」


シェリーの声で我に返り、助祭の服を掴んでいた手を離した。

私に襟を掴まれたことで苦しかったのか、助祭は少しだけ咳をした。


「ご、ごめんなさい……」


「だ、大丈夫です。

 ウィリアム司祭から手紙を預かっています。

 伝えたいこと、行動して欲しいこと、それぞれが

 書かれているようです」


差し出された手紙を強引に奪い取り開くと、そこにはウィリアム様の字で書かれた文があった。

いつもより汚い字だ。急いで書いたことがよくわかった。


俺たちは騎士団によって王都に連れて行かれることになった。

理由はわからないが暗殺される可能性もある、だからお前の力が必要だ。この手紙を読んだ後に王都へ追いかけてきて欲しい。だが王都につくまでの間に追いつくのは無理があるだろう、だからじっくりと準備をしてから追ってきて欲しい。

王都に着いたからと言ってすぐ帰れるわけではないだろう。だからただの旅支度ではなく一週間以上の滞在があると考えて準備をしてきて欲しい。頼んだぞ。


そう書いてあった。

ウィリアム様がここまで言うのは相当のことだ。急いで行って追いつくことより王都に着いたときにしっかり補佐できる準備をしてきて欲しいことを激しく求められているのだろう。

王都に向かうウィリアム様のそばには間違いなくノエリアがいる。いくらノエリアがいると言ってもノエリアは弓の使い手で、近接に秀でているわけではない。ナイフの使い方は上手いし、有象無象であればノエリアには敵わないだろう。だが、真の強敵がもしあいつが現れたら……そう考えると私が行かなければならないことを切実に感じた。

しかし、焦る気持ちと冷静に考えなければならない気持ちがせめぎ合ってなかなか整理ができない。


「ニルダ、あなただけが頼りなのです。

 私はウィリアム司祭がいない間の闇の女神教を

 任されてますし、仮に追ったとしても私では

 何もできません、ですから……。

 ウィリアム司祭をどうかよろしくお願いします」


私の手紙を持っていた手を助祭が両手で掴んでいた。

助祭の手は震えていて、熱かった……そうか、焦っているのは私だけではなかったんだ。

私よりも今回のことに何もできなくて苦しんでいる人がいる、そう思えただけでも冷静になれた気がした。


「わかった、ウィリアム様のことは任せて。

 だけど準備は手伝って欲しい。

 ウィリアム様からの手紙には、何があるか

 わからないからできるだけの準備をしてきてくれと

 書いてあった。

 だから、思いつく限りの準備をお願い。

 馬車は明日の朝発の馬車に乗るわ」


「ニルダ、すまない。

 私はアリス様の護衛を任されているから

 一緒に行くことはできない。

 準備は手伝うから……ウィリアム司祭のこと

 頼んだぞ」


シェリーはアリス様の護衛を任されているようだった。

確かに、シェリーまでもがウィリアム様を追ってしまったら闇の女神教を護る者がいなくなる。

シェリーは光の女神教の騎士で闇の女神教を監視する役目で来ているから、彼女に守らせるのが一番いいに違いない。

時間がなかったろうに、それでもみんなに手紙を送るウィリアム様は流石だと思った。


その日は一日かけて準備した。

寄付やウィリアム様が稼いだお金を助祭が私に持たせてくれた。額は金貨で10枚を越え……どこからそんなお金が。と思ったのだが、急に金貨を数枚寄付してくれた者がいたらしい。ありがたく旅で使わせてもらうことになった。

金貨10枚以上に銀貨も多数。これだけあれば、向こうについても苦労することはないだろう。


そして翌日、準備されている馬車へと向かった。

馬車の前で待っていたのは御者、一緒に行く予定の冒険者、そしてリネットにアリスにシェリーに助祭だった。冒険者は王都まで一緒に行くだけで、その後にウィリアム様を護ってくれるわけではない。

リネットにシェリーに助祭は、当然のように見送りにきてくれていた。


「あの……これ。多分必要になる気がするんです」


リネットから手渡されたのは、布で包まれた棒のような硬さの物だった。


「これはなんだ?」


「ウィリアム様に渡せばわかると思います」


布を開けてみたがやはりよくわからない棒だった。なんだ? これで料理でもさせるのか?


「とりあえずわかった。ウィリアム様に渡す」


「では、ニルダ。頼みましたよ」


「ニルダ、頼んだ」


「私、ニルダがいない間も剣の練習欠かさないから!」


四人から別れの挨拶をもらうと私は馬車に乗り込んだ。私に続いて一人の冒険者が入ってくる。

今回三人の冒険者が着いてきてくれることになっているのだが、毎回三人で馬車の警護と言うわけにもいかず、一人は基本馬車の中で休みをとりつつ私の話し相手になってくれる。

最初に馬車に入り込んできたのは魔術師だった。


「ニルダ様、今回の旅は最初は私、次に剣士、最後に

 斥候役の者が交替で話し相手になりますね。

 実は、みんなニルダ様の話を聞きたくて今回の

 依頼を受けたんですよ」


魔術師の女はそんなことを言っていた。

ちなみに、今回依頼を受けてくれた冒険者達は全員女性だ。私一人の旅について行くと言うことから、冒険者ギルドがわざわざ女性の冒険者だけを斡旋してくれたらしい。


「そう言ってくれるのは嬉しいけれど、

 私に様付けは無用よ」


私はただのダークエルフだ。ウィリアム様さえ守られればなんでもいい。

そう思っていたのだが、 


「何を言ってるんですか!

 今じゃ冒険者ギルドで有名ですよ。最高の剣士って」


私が……最高の剣士? 負けた私が?


「先日B等級の剣士の方と模擬戦をしていたじゃ

 ないですか。

 その時相手の剣士の方が言ってたんですよ。

 完敗だ、しかも全力を出してない上に

 まだ何かを隠していた。

 一生掛かっても勝てる気がしないって。

 B等級の冒険者って、正直もっと大きい街にいるような

 方なんですよ。そんな方がそう言ったんです。

 ニルダ様はもっと自信をもっていいんです!」


魔術師は前のめりになって興奮していたので、肩を押して座らせる。


「す、すいません……つい……」


「ああ、いいよ。

 だがありがとう。前向きに受け取ることにするよ」


少しでも早くウィリアム様に追いつきたい。そう思って焦っている自分を冷静に判断できた気がする。

それも、目の前の魔術師が興奮してくれたおかげなのだ。


「ところで、君は王都に詳しいかい?」


「ええ、まあ……。

 少し前には王都の冒険者ギルドにお世話になっていましたから」


その後、この魔術師から王都について色々聞いた。

話のほとんどが美味しい食べ物の話だったのは……困ったが。

けれど、どのような場所であるか、人種の割合や差別意識の話など色々聞けたのは良かった。

国民街と貴族街があって貴族街に入るにはウィリアム様のような何かしらの役職付である必要があること。

王城は国民街と貴族街に挟まれるようにして王都の真ん中にある。ウィリアム様が連れて行かれたのは王城であろうとのことだった。


「王城か……私がウィリアム様を追うことはできないのか?」


「いえ。そうとも言い切れませんね。

 話を聴いていますと、ニルダ様の双子の妹の

 ノエリア様はウィリアム司祭の従者扱いで

 王城へ入れるはずです。

 おそらく、ニルダ様もウィリアム様が従者として

 入れるよう計らってくれるのではないでしょうか」


「なるほど。

 つまり、私が王都へ到着したことをウィリアム様へ

 伝えられれば……。

 しかし、それこそどうやって伝えたらいいのか」


「冒険者ギルドを介すればいいですよ。

 ウィリアム様は、アイス様を連れ立ってますからね。

 アイス様はA級冒険者ですから、王都でも重宝されて

 いますよ」


「アイス様?」


「えっと……氷魔術師の冒険者です。

 闇の女神教とも関係の深い」


「ああ、あの魔術師の方か。

 そういえば、ことあるごとにウィリアム様と

 一緒にいたような……」


「今では、闇の女神教優先冒険者みたいになって

 いますからね。

 連絡を取りたい、と冒険者ギルドに言えば

 間違いなくすぐに連絡をとってくれます。

 そういうニルダ様も冒険者ギルドでは

 結構重宝されてますからね?」


魔術師とは馬車の中で有意義な会話ができた。

そして次は剣士の番だった。


「ニルダ様、是非私にも剣士の心得を教えて

 いただければと思っています。

 何度か闇の女神教に教えを請いにいったのですが、

 冒険者初心者しか参加できなくて……」


ああ、この剣士が言ってるのは闇の女神教で請け負ってる学校のことか。


「ああ、あれは……」


説明すると、納得してくれた。だが、この場で教えを請う気持ち自体は変わらない様だった。

なので、少しだけ教えてあげるようにした。


「まず、君は剣をどう扱いたいの?」


「どうとは……?」


「高重量で叩き潰したいのか、相手の隙に一撃を入れるのか、

 それとも斬りたいのか」


『斬りたい』のところだけ一応私の思いを乗せたつもりだったのだけど、


「自分の戦い方だと盾で相手の攻撃を防いで、

 相手の隙をついて一撃を叩き込むって言う感じなので、

 おそらく相手の隙に一撃を入れるのが近いです」


割とまともな答えが返ってきた。

この剣士は冒険者としての役割を明確に持っていて、そのための剣を学びたいのだ。


「であれば……」


その後、この剣士に剣の話をした。ほとんどがウィリアム様の言葉をそのまま伝えただけなのだが、この剣士は私の言葉として受け取ったようだった。

一旦一夜を過ごし、その後斥候役に替わった。


「うーん……君には教えられることはないな」


「えっ?! いきなり?」


斥候役の冒険者が話す前に言った。この冒険者と話すにはノエリアが適しているが、私はあんまりだと思った。


「君が扱う武器は短剣や弓だろう?

 私は短剣なら多少は使えるが、弓は全くダメで。

 5メートル先の目標にも当たらないんだ」


「では、ノエリア様はどのようにしておられるんですか?」


話ができないと言いつつ、ノエリアの話で盛り上がった。

どうやら彼女は私よりもノエリアの方と会ってみたかったようで、ノエリアの話をすると目を輝かせるようにしていた。


「どうしても、弓を持っている人間は近接に弱いという

 イメージがあるらしいね。

 大振りで掛かってくる奴が多いとか。

 なので、そこを隠しもっていた短剣で最短距離を

 ズブリさ」


ノエリアの受け売りだけど、話をすると彼女は感嘆の声を漏らしていた。

是非彼女にはノエリアと話す機会を設けてあげたいと思った。

その後も冒険者たちが入れ替わり、三回目の入れ替わりが終わった頃だろうか。

ようやく王都へ到着した。

そのころには話題がほとんどなくなっていて、私も精神的に疲れていたのもあって助かった。

はやく……ウィリアム様に会いたかった。

今までは望めばいつでも会えたのに、たった数日会えなかっただけでこれだ。

私はどれだけウィリアム様に依存していたのかと改めて思った。


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