3章 19話 闇の女神の啓司3
助祭への昇格の儀は闇の女神教の教会の礼拝室で行われる。
俺が知っている限り、礼拝室が埋まったことは今まで一度もない。だが今日は違った。
礼拝室は満員では済まず、それでも礼拝室に入りたい信徒が立って並んでいる。当然、入りきらずに教会の外に人が溢れていた。
細かく見ていくと、参列している者の中には見知らぬ者たちがいた。いや、しかしその内の2人は知っている。ラウテル家の当主と、審問官だ。
なぜ闇の女神教にほとんど関係ない彼らがこの儀に参加するのかわからないが、シールズ家しか闇の女神教を信仰する貴族がいない中こうやって貴族級の方々が参列してくれるのはありがたいため、今は不思議に思わないでおくことにした。
ウィリアムにはわからない話なのであるが、ことは簡単だ。
助祭への昇格の儀なんてものは他の女神教であれば大騒ぎするほどのことではない。
だが、ウィリアムはこれを盛大に行うとお祭り騒ぎにしてしまった。祭りとなれば、儀の後の酒や料理が必要になる。
無論特産品が祭りで出るわけで、闇の女神教の特産品と言えばアイス。ならば、自分たちが取り仕切らなければなるまい、と張り切ってアイス委員会が参加することになった。
しかし、取り仕切るなどして角が立ってはいけない。闇の女神教最大の貴族は、あくまでシールズ家。それが騎士爵相当だったとしてもその事実は変えられない。
であるから、騎士爵の手伝い、サポート、支援と言った形でアイス委員会は参加していた。
話は元に戻る。
本来役の任命は、女神から教会の仕事を任せられている教皇の仕事だ。しかし、助祭などの地位が低い職位への任命であれば、大司教や司教までその役を下ろされることもある。
だが闇の女神教には助祭以上のものがウィリアムしかいない。よって、俺がその任命をすることになるのだが、それはあくまで他の女神教であれば、だ。
今回俺が考えていることはこうだ。
俺はあくまで闇の女神に願い出る形をとるだけ。実際に助祭へ任命するのは、俺の願いに応え顕現した闇の女神本人だ。
こうすることで闇の女神教の助祭と言う役が、他の女神教の助祭より高まる。それを俺は利用しようとしているのだ。
なお、この話を事前に闇の女神と話していたわけだが、闇の女神はアイスを食べながら聞いていたし、どういう材質で出来ているのかわからないスケスケの服にこぼしながら、しかもお替りをしながらだったので、どこまで確実に行われるかがとても不安である。
話は進み、いざ儀式の時間。礼拝室に集まった皆を背に、祭壇に向けて祈りを捧げた。
「本儀式を始めるに至り、我、闇の女神教の司教が闇の女神に願う。
敬虔なる信徒に、闇の女神の加護を」
他の女神教、もしくは昔の闇の女神教にもなかった流れに驚く参加者たち。しかし驚くのはこれだけじゃないむしろここからが本番。
俺の前、つまり祭壇に光が降り注ぐ。闇の女神が降りてくる合図だ。女神が顕現する際にこんな光の柱なんて立たないわけだが、こうすることで威厳が増すと教えてやったので、そのまま実行したらいし。
突如として現れるウィリアムと同じ髪の色をした、美しいドレス姿の闇の女神。俺と揃っていると俺が闇の女神の子供に見え、俺の威厳もアップするためこの形も勧めておいた。やっぱり実行したらしい。
修道士長の近くまで行くと、修道士長に語り掛けるように、
「あなたの日ごろの行いはいつも見ていました。
やっとあなたの労に報いることができます。
あなたの信仰に意義を」
普段話すスローな感じが出ていないのは、この2日間、みっちり特訓した成果である。のろぉとしたしゃべり方をするたびにおしおき棒で床を叩き、やり直させること百数回。なんとかここまでたどり着いたのである。
闇の女神の言葉の後で、修道士長の上にも光が降り注ぐ。礼拝室に居合わせている信徒からは、おぉと言う感嘆の声がところどころあがる。
あれ? こんな流れ、教えてないぞ。そう思ったが、修道士長に箔をつけるには悪くはないアドリブだったし平然としていたが、光が降り注いだ後に決めた流れの言葉を闇の女神が語らない。
(言え! 早く! 駄女神、早く言え!)
このままだと何かが起きてしまう。まずい。そう思い、心の中で叫んだがその叫びもむなしく。起きてしまった。
降り注ぐ光の中で目を瞑る修道士長がなんと若返っていく。
50歳にもなろうかと言う歳だったが、肌に張りが出て白髪交じりの髪からは白髪が一切消え、元は明るい茶色だったと言う髪の毛には黒みが増して深い茶色に変わっていた。
「あなたの信仰に報いる方法はこれしかないと思いました。
末永く、我が闇の女神教への信仰をお願いします」
そのセリフを最後に、空気に溶けるようにして闇の女神は消えて行った。
(あいつ、やりやがった!)
やってはいけないことをやってしまった。闇の女神は、俺の元いた世界でも何万人と言う人間が望んでやまなかった「不死」と言う言葉の一端を残していってしまったのだ。
これが世界に伝われば、闇の女神教だけではない、この王国がどうにかなりかねない。
これから起こるかもしれない事件、苦労を考えると頭が痛くなりそうだったが、まずは慌てる者たちを諫め今回の儀式に幕を下ろすのだった。
「どうでしたぁ~?
私ぃ、言われるだけじゃダメだってぇ、
思ったんですぅ。
だからぁ、私なりのアレンジをぉ、
加えてみたんですけどぉ」
どや顔で俺に微笑んできた闇の女神。俺のこめかみには血管が浮き出ていたと思う。その血管が切れそうな勢いで闇の女神に拳骨を落とした。
「余計に悪いわ!」
「でもぉ、このままだとぉ、修道士長の寿命はぁ、
今年で尽きそうだったのでぇ……」
言い訳をし始めたと思い用意した二回目のゲンコツだったが、振り上げた辺りで闇の女神の言い分を理解し、そのままもう一度落としたい気持ちも抑え、よくやった。と頭をなでてやった。
修道士長がいなくなるのは困る。だが、軽々しく神の御業を披露したことは叱った。
ウィリアム以外が誰もいない部屋で、ウィリアムが未だかつてないほど怒って誰かに説教をしている。今日の儀のことを考えると、ウィリアムが相手にしているのは誰か、その推測がつけられる人間が多くいたわけだが、しかしウィリアムがその相手に説教をすると言う事実は教会内で働く者たちを戦慄させ、皆口を揃えてそのことを知らないと口を閉ざすのだった。
本小説を読んでいただきありがとうございます。
なお、現在四連休であり小説を書く気持ちが高まり、さらに時間もあると言うことで頑張って後2・3話は書きたいなあと言うところであります。
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また、同時連載中の1から始めるダンジョンマスターもよろしくお願いします。




