3章 13話 アイスの日当日
今回、書いていたら長くなって6000文字になりました。
いつも2000文字程度で書こうと持っているのですが、もし長いと思った方がおられましたら申し訳ありません。
先に言っておく、別に俺が主催したわけではない。だが、闇の女神教の村では今日は一年に一度のアイスの日らしい。俺がこの世界で初めてアイスを作った日なので、記念としてアイスの日にしたそうだ。一体誰がそんなことを決めたのやら……。
そのせいか、アイスの日にイベントをするから挨拶をしろとかアイスを作れとか色々言われている。流石になんでもかんでも了承することはできないが、闇の女神教の村でやるお祭りのようなものらしいから、少しは参加しないといけないだろう。と言うことで、1つだけ請け負った。
請け負った内容は、一番手間がかからなそうな"挨拶"だ。イベントの開会式に、挨拶と開始の合図をするだけの簡単なお仕事。イベントの場所は、コロシアム見本に作られたイベント会場だ。
会場は俺が作ったわけじゃない。最近の闇の女神教の懐事情はかなりよくなってきているが、そんなものを作れるほどお金が余っているわけではない。誰は、誰が? と言うと、ラウテル家の当主が何か面白そうな建物を作りたいと相談しに来たので、面白半分に知ってる知識を教えてやったら、喜んで帰った上に気づけば工事に取り掛かってしまった。
しかも、王都とか栄えてる街とかに作るのではなく、なぜかこんな辺鄙な場所に作ってしまった。本当に良かったのだろうか……とむしろ心配になっているほどだ。
「ウィリアム司祭様、出番でございます」
思いに耽っていたらいつの間にか挨拶の時間だったらしい。開会式で挨拶をするために、控えの部屋から出て舞台に向かう。
このイベント会場は、色んなイベントに使えるようにと控えの部屋から直接舞台に繋がる通路がある。そこを歩いていくと、設置された舞台へつく。
ドーム状なので、舞台からは360度全てが観客席となっている。つまり、マイクが存在しないこの世界でも舞台にいる人の声が響く仕組みになっている。
通路を歩いてる最中に、途中から観客に俺の姿が見えるようになる。その瞬間、多くの人からの拍手で俺の耳をうめつくした。その音は俺が舞台にたどり着くまで続いた。
拍手の音が止んだので満を持して挨拶をする。
「ちょうど一年前、この地でアイスを作ったことを思い出す。
あの味、そして皆の笑顔は今も忘れられない。
今、ここに第1回アイスの日を宣言する。
今日は色々なイベントがあると言う話なので、
皆が楽しめることだろうと思う。
是非、多くのイベントに参加してもらい、
楽しんでいってもらいたい。
このイベントを感謝できることに、神に祈りを捧げようと思う。
皆、自らが思う神に祈りを」
闇の女神教の村での開催で、かつ闇の女神教の司祭である俺が挨拶をしているのに、敢えて闇の女神にとは言わない。
多くの宗教の信徒が混ざって参加しているだろうし、ここで無茶なことを言って反感を買い、今年のみの開催となってしまうのは忍びないからだ。
しかし当然ながら闇の女神教の村で開催して、俺が神に祈りを捧げると言えば闇の女神への祈りになるのは間違いない。挨拶を買って出たのは簡単なのが目的だけではなく、こうして信仰稼ぎも兼ねていた。
約1分に渡る祈りが終わり、ではアイスの日を開始する! と声高に言うと、観客の喜びの声で何も聞こえなった。みんなアイスが好きなのはわかるけど、この雰囲気ちょっと異常じゃないのか……。
アイスの日のメインとなるイベントは2つある。
1つはアイス料理人の一位を決定する大会。もう1つはアイスのレシピの大会だ。
前者は、貴族の料理人が集まり基本的に同じ材料を使ったアイスの美味しさを競う。工夫はしてもいいらしいが、根本的な味は変えてはいけないとか、結構細かいルールが設定されている。
後者は皆の考えたアイスのレシピを一人の料理人が作り、どのレシピの物がもっとも美味しかったのかを競う大会だ。
なおレシピの募集は開会式が終わった後約一時間ほど行うそうだ。その後料理大会の裏開催で予選が行われ、午後の部に行われる本大会にて予選を勝ち抜いたレシピのみが皆の前に出ることになる。
むちろん、俺もレシピは新規に投稿する予定だ。とっておきがあるからな! どうなるかが楽しみだ。
教会の皆とレシピを書いた紙を投稿すると、ラウテル家当主から案内された裏VIP席なる場所に向かう。VIP席は、貴族の偉い方々が使うそうなので、表立って俺をVIP席に案内できないことへの配慮をした席だそうだ。
「皆さま、今から料理人の大会を始めたいと思います。
まずは審査員の皆様を紹介させて頂きます。
初めにこの人、この世界にアイスを広めたとされる
有名な貴族、ラウテル家当主様でございます」
料理大会が始まった。なんと司会者は以前告発を受けた際の審問官だった。
あの時は厳かな雰囲気の老人と言った風だったのに、今はシャツにベストと言った姿で軽やかに司会をしている。あの人一体何やってるの……。
そして最初に審査員として案内されたのはラウテル家当主、つまりフェルメールのお父さんだ。
確かに俺がアイスのレシピを売ったのはラウテル家だ。俺自らが販売をするよりいいと思ったからそうしたのだが、まさか第一人者と呼ばれているとは。
実際ラウテル家はアイスや俺のレシピで相当な利益を得ているらしい。この筋の情報を知っている人なら、ラウテル家からもたらされたレシピは全て俺から流れていることも知っているはずだが、まだ世界はラウテル家がレシピを広めていると言う認識らしい。
その後次々に審査員が紹介されていくのだが、全部名前を知っている奴らだった。
と言うか、全員フェルメールがアイスのレシピを売る相手として紹介してくれたやつらじゃん。
偉い方々がこんな田舎まできて何やってんの。
俺はそう思っていたのだが、審査員紹介は観客にはとてもウケていた。
隣のリネットに言わせると、どうやら世界中のアイス好きにとっては審査員の誰もが会ってみたいけど会えない有名人らしかった。
それくらいのアイス界(そんなものがあるのかどうか怪しいが)の重鎮らしいのだ。世の中わからないものである。
審査員の紹介、そして料理人の紹介が終わり、ようやく料理大会が始まった。今回作るのは一般的なバニラアイスクリームだ。ただ、俺はバニラの存在を伝えてはいないため、この世界で一般的に知れ渡っているのはプレーンのアイスクリームと言うことになる。
工夫や味付けはそれぞれで変えていいようなので、そこに個々の違いがみられると言うことだ。
生クリームや牛乳は運営側が準備したものを使うことになっているので、使う糖類や隠し味は持ち込み自由なようだった。
皆、思い思いの物を持ってきている。特に糖類に関しては黒糖を持ってきているものもいれば、ただの砂糖のものもいるし、はちみつを持ってきた者までいる。
そして、生クリームなどの材料を混ぜ合わせるのだが、いきなり全ての材料を合わせる者もいれば、一度生クリームを軽くかき回してから混ぜる者、泡立てる者、十人十色だった。
皆が知らないアイスの作り方や隠し味などが出るたび、会場は一喜一憂した。我々闇の女神教の教会から見学に来ている皆も、会場と一緒に一喜一憂している。女性はいつの時代でも甘い物が大好きなのは変わらないらしい。
そして、約1時間に渡る大会が終わった。結果から言うと、公爵家の料理長が優勝した。
フェルメールの情報通り、公爵家はグルメで国中の美味しい食べ物のレシピを集めているだけあって、料理長の料理に関わる技術や味付けなどに他の料理人が及ぶことはなかった。
公爵家の料理人の作ったアイスがやはり一番だと言うのが審査員の総評だった。
俺が見た中では隠し味に塩を少し入れたものや、黒糖をうまく使ってコクを出しているものなども評価したい。彼らは一位にはなれなかったが、今後を担う料理人であるのは間違いないと思う。
表彰式が終わり、会場は大喝采に包まれた。
隣にいる、リネット,アリス,シェリー,ニルダ,ノエリアも大喜びで拍手をしていた。
午前の部である料理大会が終わったので、午後の部のレシピ大会まではまだ時間がある。
さて、飯でも食うか……と立ち上がった際に、いつの間にか左側に来ていたニルダと、元から右側にいるリネットに両腕を掴まれた。
「さ、ウィリアム司祭。行きましょう」
え、何……ただ昼食を食うだけじゃないの? なんで腕掴まれてるの?
なぜこんなことをされなければならなかったのかと言うと、どうやら料理大会を見て自分たちもアイスを食べたくなったらしかった。
その事実を、俺は連れて行かれた店のテーブルについて知った。
「今日はアイスの日ですから、うちの店では
アイスに関係しないお食事はお出ししておりません。
一番お腹にたまるもので、クレープのアイス載せでしょうか」
連れてこられたのは、本日アイス関係の料理しか出さない店。ここなら、アイスしか食べる物がないし、売り切れる心配もないとのことだった。
まじか! と思ってショックを受けていると、皆がメニューを見ながら何を注文するか考えている。彼女たちの戦いはすでに始まっているようだ。
「実は、この店はアイスの日で最も注目されている店らしいのだ。
せっかく優待券をもらったのだから、食べないと損だしな」
シェリーが"優待券"なるものを口に出していたが、なんだそれは? 俺は知らないぞ。
「闇の女神教の教会宛に届いたんですよ。
で、アイス好きな皆で分けることにし」
喋るニルダの口を複数人で抑えていた。
つまり、こういうことか。闇の女神教宛の物を俺に黙って皆で勝手に分けたと。
「いや……その……修道士長ももらいましたから……」
ニルダの口を押えながら、リネットが言い訳になってない言い訳をする。だが、あの真面目な修道士長もアイスを食べたがっていたのか。修道士長がアイスで盛り上がる想像をしてみたが上手く想像できなかったのでやめた。そして、まあ仕方ないか、とあきらめることにした。実際、俺もここに食べに来ているし、俺を無視して皆で何かしたわけじゃないし。
皆の争うような注文が終わり、数十分もするとテーブルの上がアイスだらけになった。
周りの気温が数度下がった気がする。
「さ! みんな! 食べるぞ!」
リネットの掛け声で皆が、えいえいおーと声を上げて一斉に食べ始める。
俺はお腹に溜まりそうなクレープのアイス載せを確保すると、アイス片手間に皆が食べる姿を見ていた。
はっきり言おう。獣の食事だと。
一応スプーンを使って食べているのだが、みんな一心不乱に食べている。全員に何かに取りつかれたのではなかろうかと言う感じだ。
しかし、周りを見渡してみるとどこもかしこも同じ有様で、特にカップルで訪れたテーブルでは女性の変わり様に男性が驚いていたのが見えた。
そしてものの10分で全てテーブルの上が片付いてしまっていた。ほんと驚きである。
女性陣は満足してくれたらしく、俺たちは店を出た。会計は……当然のように全て俺だった。あれ、おかしいな……俺連れて来られただけなのに、お金払わされてるぞ。しかも、シェリー意外の皆にはちゃんと給料まで払っているのに払わされる意味がわからない。
行きと同じように帰りも両腕を捕まえられ、裏VIP席まで連れて行かれる。もう途中からは、移動が楽だから良いかと諦めることにした。
皆がアイスについて雑談していると、あの審問官が午前と同じ姿でやってきて、レシピ大会の開始を告げた。
レシピ大会で決勝まで残ったのは全部で4つで、審査員は料理大会と同じメンバーだ。俺の投稿したレシピも残っていた。
司会者が1つ1つレシピを発表し、それを料理人が手ずから作る。
レシピで作ったものを審査員の人数分に分け、審査員が評価をすると言ったやり方だ。
1つめ、2つめのレシピは決勝戦に残った割に審査員の評価は高くなかった。
2つとも果物を使ったものだったのだが、空前絶後のアイスブームではありきたりのものだったらしい。
そして3つ目。俺の投稿したレシピの番だ。
「あ、俺のやつだ」
思わず口に出してしまったが最後、一緒に来ていたメンバーに肉食獣のような目で見られた。
「ウィリアム司祭、後で作って頂きますから」
まさかノエリアから言われるとは思ってなかった。
レシピ自体は簡単だからいくらでも作ってやれるんだけどさ……。
料理人は、司会者に言われるがまま普通にアイスを作る。観客はそれを見て、えっと驚いていた。
ただ普通のアイスを作っているだけなのだ。強いて違いをあげれば、普通のアイスの分量より糖分がかなり多いことくらい。
アイスが出来上がった。普通以上に甘いだけのただのアイスだ。これで完成? と観客がざわめきだしたところで、司会者が……そこにミルクを投入してください。と、その声が水を打ったように響いた。
一瞬静かになった後、その声に観客の皆が更に驚きの声をあげた。司会者からの言葉を聞いた料理人もびっくりしていた。
それもそのはず、俺のレシピは実際アイスかと問われると少し違う。だってシェイクだもの。
アイスをかなり甘めに作っておき、それを牛乳で割ってかき混ぜたものだ。昔シェイクを初めて食べた時、その美味しさに驚いた。その驚きをまさに皆が今目で味わっているのだ。
言われるがまま、料理人は牛乳を入れて混ぜ、とろみがしっかりつくまで混ぜ終えると、飲む用の陶器のカップに投入された。
飲むアイス。その反響は凄まじかった。
審査員はその衝撃と美味さに誰もが高評価をし、俺の後に出たレシピはひどいとしか言いようがないほどの低評価を出され、俺のレシピが優勝した。
レシピの投稿者は表彰されることになっていたので、仕方なく舞台にまた上がると審査員全員から個別に握手を求められた。
司会者から表彰され、優勝賞品として砂糖を袋で進呈された。これを使ってアイスを作れと言われかねない賞品だ。
最後に、一言お願いしますと言われたので、仕方なく
「今回のレシピの名前を、今ここで公開します。
この料理の名前は、アイスシェイクです。
ほぼ、ただのアイスクリームです。
特別な何かをしたわけでありません。
アイスクリームを作れる権利をお持ちの人は
今後このアイスシェイクを自由に作って頂いて結構です」
そう言うと、会場は大騒ぎになった。
ラウテル家はアイスクリームを作るための権利を売っていた。つまり、誰もがアイスシェイクを作るにはそれ専用の権利が必要だと思っていたのだ。それがアイスクリームの権利だけでいいのだ。追加でお金がかからないのであれば、今アイスクリームを出してる店で食べることができるわけだ。そりゃ、みんな大喜びするか。特にお店のほうは、こんな簡単なレシピで新たに美味しいメニューが1種類増えたとなれば、大喜びだろう。
会場の騒ぎはそのまま俺の名前呼びに変わり、そしてその後、俺はアイスの神と呼ばれることになった。
「うぅ……今だけは信仰はいらないから私もアイス食べたい……」
その頃、今も神力を貯めるために絶賛休憩中の闇の女神が、地上を見ながらつぶやいていた。




