3章 12話 アイスの日 事前準備
闇の女神教の村では夏が始まる前にやることがあるのです。これをやらなければ夏が訪れないと言っても良いくらい。
何をやるのかと言うと、皆で集まってアイスを作るの。それを祭りとしてやる。
あたかも毎年行っています風に言ったけど、実はこの祭りの開催は約半年前に決まったんだ。
待ちに待ってようやくこの日がやってきた。この喜びを伝えるためには、毎年やってます! くらいの言い方でないと私の喜びは伝わらない。そう思って敢えて言ったのだ。
ちなみに私は誰かと言うと、さすらいの氷魔術師のアイスとでも言っておきまそう! 本名は全く別なのだけど、あまりにアイスが好きなので、自分をアイスを呼ばせたいから言っているだけなんだけどね。。
「おお、魔術師殿。ここにおりましたか。
皆が待っておいでですぞ!」
私に声をかけてきたのは、通称老師。
通称老師とは何かと言うと、私たちアイス至高委員会の第8席(末席)に位置する人の通り名だ。
「さ、1週間後に行われるアイスの日のために、
定期報告会に参りましょう」
私は老師が乗ってきた馬車に共に乗り、第3席の貴族が有する家に向かった。
場所は第3席の貴族の館の一室。
私の前にはアイス至高委員会の面々が座っている。八角形のテーブルの辺の部分に皆が座っているのだけど、いるのは現在5名である。
第1席「主」(事情により永遠に不在)
第2席「魔術師」(私)
第3席「貴族」(アイスのレシピを広めたあの人)
第4席「姫」(貴族たちにアイスを広めた某貴族の娘)
第5席「商人」(貴族以外の一般の者にアイスを広めた商人)
第6席「料理人」(現在空席)
第7席「研究者」(現在空席)
第8席「老師」(あまりにアイスが好きで委員会の発起人となった)
なお、2~5席はこの世界でもアイスに最も通じていると言われている4人だ。私がそんな中に入っているのは申し訳ない半分嬉しさ半分だ。
1席が永遠に不在なのは、アイスと言えばこの人のはずなのに老師が黙って委員会を立ち上げてしまったため、言うに言えなくなってしまったためらしい。今から言いに行けと言われたら正直私も言いづらいから仕方ない。
6,7席の不在は、1週間後のアイスの日の2つのイベント「料理大会」と「新レシピ大会」の2つの優勝者が1年限定でなれる席だからだ。
今日改めて集まったのは、その2つの大会についての段取りについての報告のためだ。
「皆さま集まり頂きありがとうございます。
我らが第6,7席を決めるための料理大会,新レシピ大会の
進捗ご報告をお願いしたく。
まずは、魔術師」
促されたので私は立ち上がる。この委員会では各メンバーに上下の差と言う者は存在しない。よって、敬称などは一切なく呼び捨てと言うことになっている。
私の役目は、アイスの大会のために氷魔術師を確保することだ。
冒険者である私にとってそれくらい造作もない……わけはないのだが、結構前から依頼を出しておりすでに了承の返事も受け取っているため順調である。
「大会用に5人,レシピ大会用に5人すでに確保済みです。
一応、最悪の事態には私が体を張ってなんとかするつもりです」
それだけ言って座ると、おお……まさか魔術師殿自らが。とか、アイスの生みの母と言われる魔術師殿の氷が! などと言う声が聞こえる。後者のはちょっと恥ずかしいからやめて欲しい。
「順調のようですな
では、次に姫」
私の2つ隣の席にいる姫が立ち上がった。
「こちらも順調よ。
すでにアイスの美味しさで有名になったいくつかの家からは、
大会への参加の返事がきているわ。
ちなみに、うちの料理長も参加予定よ!」
姫の担当は料理大会に参加する料理人の手配。1週間後のアイスの日は、もうすでにアイスを完璧に作れるようになっている貴族家の料理人のみの参加と決まったので、姫が適任となったのだ。
「こちらも順調なようですな。
しかし……姫の家の料理長も参加予定とは……。
我らは審査員として役得ですな。
では、次に商人」
姫の隣にいる、恰幅の良い中年男性が立ち上がる。
「私は商会の商人に指示をして、各地で今回の宣伝をしております。
すでに各地ではかなりの噂になっており、すでにいくつかの
新たなレシピの話を聞いていますぞ!」
商人の役目はレシピ大会の宣伝と参加を促すこと。
料理大会への参加者は料理大会への重複参加も可とされているので、貴族の料理人でも参加する者がすでにおり、そちらの方は姫が確認を取っている。
それ以外への参加を商人が呼び掛けているのだが、なかなか上手くいかないらしく、宣伝をメインに頑張っている。
「レシピ大会に関しては、なかなか難しいですな。
新レシピの有名人などと言う者がおりませんゆえに。
しかし、商人の情報網は間違いなくこの国でトップでしょう。
その情報網に今回は期待させてもらうとしましょう。
では、次に貴族」
老師に呼ばれ、呼ばれた者がムググッ……と小さく唸った。本人は貴族と言う呼ばれ方が納得していないらしいのだが、気持ちはわかる。私も魔術師である前は女神と言う通り名で呼ばれそうになっていた。あの時は本当に困った。
「一ヵ月前の報告ではうまくいっておらんかった。
だが、今回はもうすでに場所を整え済みじゃ。
この家に来る時、すでに諸君らも見たと思うが、
近くに大会場を設立した!
大会場には、第1席の主の意見を多く組み入れた。
声が大きく聞こえる仕組みと言うのも取り入れてある。
当日を楽しみにされよ!」
貴族は第1席の主に場所についての相談をしたらしい。主なら、私たちには思いもつかないような素晴らしいアイデアを提案してくれるはずだ。
大会場は貴族が満足いくようなものが出来上がったのだろう。当日が楽しみである。
「全て順調のようですな。
では定期報告会は以上にしましょう。
各々当日までよろしく頼みます。
この後は、毎度恒例のアイスです。
今回は私が当番ですな」
老師がそう言って、手をパンパンと2回叩く。すると、すでにドアの向こうで準備していたのか、メイドが委員会の人数と同じ数だけ入ってきて、それぞれのメンバーの前にトレイを置いた。
きたーっ!!
私がこの委員会に入った目的の1つがこれだった。
委員会では、毎回の定例会後に当番のメンバーが自身の好物のアイスを皆に振る舞う。委員会のメンバーは貴族が多いので、私には食べることができないようなアイスがたくさん出るのだ。
目の前に運ばれてきたアイスは、薄く黒い色をしたアイスだった。
「ふむ……これは……黒糖か?」
貴族が匂いを嗅いでから答えた。老師がそれに黙って頷く。つまり、貴族の言う通り、これは黒糖を混ぜて作ったアイスなのだ。
その答えを舌で確かめるために皆がスプーンでアイスをすくう。そのまま口の中の舌の上に落とす。
……甘いっ! アイスはすぐに舌の上で溶けて甘さを私に感じさせてた。それにしても、ものすごい甘さだ。それでいてコクがあって美味しい。スプーンを動かす右手が止まらない。
アイスはそれほど大きくなかったので、3度4度とスプーンを動かす間になくなってしまった。
儚い……なんて儚い食べ物なんだアイス。
他のメンバーも同様の感想だったらしく、すでに食べ終わって何もない皿を見つめていた。
「大好評だったようですな。
黒糖は……まあ、そこそこ珍しい物ではありますが、
貴族や姫,商人ならすぐに入手可能でしょう。
自身の家でも作ってもらってみてください」
そう言う老師の顔はとても満足そうだ。この恒例のアイスはどんどんハードルが上がって次に次に新しい物が登場する。
競争みたいになってきてるので皆は当番で出すアイスに困っているようなのだが、正直私は第1席の主から安く依頼を受ける代わりにアイデアをもらっているので、あまり困ってはいなかった。
アイスを食べた後、歓談をしたりして皆がゆっくりとした時間を過ごすことができた。
歓談もある程度終わり、手持無沙汰になってきたメンバーも現れたので老師がこの場をしめる。
「今回はこれで解散しましょう。
それでは、次は当日に」
老師の言葉で、皆が席を立つ。この場ではもっとも上位の席である私が最初に部屋を出る。
真っすぐに館の外へと続くドアへと向かう。私に続いて第3席の貴族もついてくる。
そして、私はドアを開けて外に出る。
「それではご当主様。また何か御用がありましたら、
ギルドに依頼ください」
「うむ、また頼むぞ!」
ドアを開けて後ろを向き、丁寧におじぎをして貴族に頭を下げた。この館を出てしまえば、委員会は意味をなさない。
今の私は、ちょっとした依頼を受けて貴族当主の館に来た冒険者と言う身分なのだ。
こうして、準備は順調に進みアイスの日当日を迎えた。
第1席~第8席、誰だったかわかりましたでしょうか。
固有名詞が出てこない人ばかりなのでわからなかったかもしれませんが、あの時話に出てたあの人かな?なんて考えてわかるかもしれませんね。




