3章 11話 アリスの生活
アリスは闇の女神教の教会にきて、今まで経験がないことばかりだった。
「ねえ、なんでこの食べ物は芽をとらないといけないの?」
教会では常にと言っていいほどリネットと行動している。
お城の者たちとは違い、リネットは決してアリスのことを邪険にしないので、アリスも喜んで一緒にいる。
「この食べ物は今でこそ混沌の実と言う名で
この村の皆に食べられているけど、少し前までは
半毒の実と呼ばれて、毒があってで食べられなかったの。
毒は皮と芽にあるから、取り除かないといけないのよ」
「ふーん。
なんでこの食べ物は芽に毒があるの?
なんで?」
今まで好奇心を人にぶつけることができなかったアリスは、反動でリネットに質問をぶつけすぎてしまっている。
この日もすでに何回目かの質問をリネットにぶつけていた。
「うーん……なんででしょうね……。
私もウィリアム司祭から聞いた話だから、
そこまで詳しくはないのよね……」
リネットはアリスと話しながら、ナイフで混沌の実の芽を取っていた。今はアリスへの返事が止まっているので、進んでいるのは混沌の実の芽を取る作業だけだ。
「それは、混沌の実が育つ時に、芽を動物に食べられないように
しているためだ」
二人の後ろから声がした。誰が聞いてもすぐにわかる。このまだ幼い男の子の独特な声はウィリアム司祭だ。
アリスはすぐにリネットの後ろに隠れた。エプロンを掴みながら後ろに回ったため、服が引っ張られてリネットは困っていた。
「ちょ……ちょっと、アリス」
「別におしゃべりにしに来たわけじゃないから」
アリスに睨みつけられてることもあってか、ウィリアム司祭は流しで手だけ洗うとそのまま台所から出て行ってしまった。
「アリス、ダメでしょ。
ウィリアム司祭にそんな態度しちゃ」
唯一の司祭であるウィリアム司祭を睨みつけたりするアリスをリネットが叱るのだが、ことウィリアム司祭に関してだけはリネットの言うことにも従わなかった。
「アリス、あの人苦手……」
子供と言うのは、女性のほうが身体的にも精神的にも成長がはやい。
先日8歳になったばかりのウィリアムに対し、10歳のアリスが苦手意識を抱くと言うのは本来であればとても変な話しである。
しかし、この二人はそれとは完全に逆。大人び過ぎているウィリアムに対し、アリスがどう接したらいいかわからないと言うほどの逆転具合だ。……と言うより、ウィリアムに至ってはリネットよりも年上に思えることも多い。この世界で200年近く生きているニルダやノエリアよりも精神的に大人に思える。アリスが普通と言う言葉が全くに合わないウィリアムのことを苦手と思うのも仕方ないのかもしれない。
ウィリアムが部屋から出ていき、戻ってこないのがわかるとアリスは引き続きリネットと一緒におしゃべりを始めた。
アリスの教会での暮らしだが、朝はリネットの朝食の手伝いかニルダ達の早朝訓練の見学、その後教会が主催している学校での勉強。空いた時間で教会でも作っている畑の手入れや家事の手伝いである。
マナーや計算,読み書きの授業では、流石貴族と言った風で一緒に勉強している者たちと比べて圧倒的に進んでいた。
しかし、闇の女神教の教会ではウィリアムが現代で学んだ勉強法を教えている。だから、貴族が子供の頃から納めている学問以上に覚えることがたくさんあり、アリスも暇を持て余すことはなかった。
授業の中でもっともアリスが楽しみにしていたのは、ニルダの授業だ。授業の選択はアリスの自由だったので、一般的な読み書きマナーとずっと気になっていたニルダの剣技の授業を選んだ。
ニルダの剣技の授業は主に冒険者相手に行われている。参加しているのはアリスよりずっと年上の大人ばかりだ。冒険者や商人(護衛術目当て)になる予定の大人一歩手前の若者もいるにはいるが、それでも14歳~16歳と言った感じで、アリスより大分年上で体つきも違う。
授業を選んだものの、アリスは訓練には参加することができず毎日見学をしていた。
アリスが毎日飽きずにニルダを見続ける。。
大人の男性……それもニルダより更に体が大きい人を相手に、剣を合わせることなく倒す。
しかも、圧倒的強さの上にまだ手加減をしていて、それは素人のアリスでも見てわかるほどだった。
倒された男性の方は逆上するでもなく、自身の剣技のどこが悪かったか、どこが良かったかを真剣に聞いて、それを素振りで確かめた後また別の者と木剣で打ちあう。
そこには師匠と弟子のような信頼関係があった。そこに憧れを感じた。
ずっと兄や姉に虐げられてきたアリスだけに、武力があってかつそれを鼻にかけない姿に強い憧れを抱いた。だから、毎日見ていても飽きることはなかった。
訓練に参加できないのに、毎日見学に来ていれば流石にニルダとしても気になるところである。見ていて、どう? と話しかけようと近づくが、アリスはニルダに気付くと焦って逃げてしまう。
本当はニルダと話したい、だが緊張して話すことが出来ない。
城の中で人と会話することが少なかったことによる弊害だ。アリスはこれで人としっかり話すことの大事さを思い知った。
そんなアリスの姿をウィリアムは自身の部屋の窓越しに見ていた。
(せっかく、人が気を使って朝の訓練を見に行かないようにしているのに)
ウィリアムが訓練を見に行くとアリスが来ない。だから、アリスが来れるように行かないようにしていた。
ニルダから逃げたアリスに近づく者がいた。
「剣術、気になるの?」
アリスに話しかけることができたのはシェリーだった。
シェリーは訓練に参加するメンバーの中では頭いくつ分抜けて実力が高いが、それでもやはりニルダには及ばない。しかしその腕前をアリスは認めているので、憧れの範囲には届いていないが尊敬に値する人物と言うちょうどいい存在だった。
(コクン)
だが、流石にリネットと同じようにコミュニケーションを取ることはできなかった。
それでもなんとか逃げ出さずに頷くことが出来ていた。
「じゃあ、これ。あなた用の木剣よ。
みんなが使ってる大きさの物じゃないけど、
今のあなたにはちょうどいいと思う。
いつかはみんなと同じ木剣を使えるようになるから。
それまではそれを使ってね」
ショートソードより更に小さめの木剣をシェリーが手渡した。
握りも細めでアリスの手に合わせてある。
「あり……がと……」
聞こえるか聞こえないかくらいの声だったが、アリスはお礼を言うことができた。
見学していて、自分用の木剣が欲しくなった。でも、口に出せなかった。欲しい物があるときに、それを欲しいと言う方法なんてもう覚えてさえいなかった。だから、もらえたことがお礼を言えるくらい嬉しかったのだ。
アリスは木剣を手に取って構えてみる。シェリーからしてみれば、剣の持ち手もおかしいし、振り方も、構え方もでたらめだった。振った時に体が木剣に引っ張られて態勢を崩してしまい、そのまま転んでしまった。それでも、アリスにとって楽しかったようだった。
「良かったら、明日はそれ持って訓練に参加してね」
手を取って起こしてもらった。けど、今度はお礼は言えなかった。
アリスの教会内での人間関係は少しずつよくなっていった。
ただし、ウィリアムを除いて。
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