3章 5話 異端審問事件1
光の女神教と闇の女神教の事件です。
数話続きます。
シェリーが来てから約半年が経った。
態度を改めたシェリーは人を色眼鏡で見るようなことをしなくなり、その誠実さを持って闇の女神教の村の人たちと接した。
それこそが本来のシェリーの素顔なのだろうと思う。村人もシェリーに顔を合わせれば気兼ねなく話しかけるようになり、時には一緒に遊んだりして過ごすようになっていた。
中でも同じ剣の道を志すニルダとは特に仲が良く、親友のような関係になっていた。
「シェリー、腕を上げたね」
「いやいや、ニルダにはまだ追いつかない……。
一体どれほどの高みにいると言うんだ、君は」
毎日恒例の、早朝の勝負がちょうど目の前で終わり二人が友誼を確かめ合っているところだ。
俺も必然的にその勝負を毎日見ることになり、シェリーの腕はニルダに近づいてきているのが手に取るようにわかった。
ただ、唯一そこには明かされない事実がある。それはニルダがギフトを持っていることだ。
つまり、今目の前で行われている友誼も……。
(フフ……お前らの友情は仮初のものだ)
頭の中でそんな言葉を浮かべていると、
「7歳の子供とは思えない顔をしてるぞ」
俺の斜め前にいたノエリアから言われた。どうやら、ちょっと変な笑みが隠せていなかったらしい、これは失敗。
本音を言うと、ギフトと言う隠し事があるものの俺たちのシェリーに対する気持ちも概ねいいものだ。シェリーは俺に礼を尽くしてくれるようになったし、闇の女神教の教会に滞在させてもらってると言う心構えになったらしく、色々と積極的に手伝ってくれる。
滞在費にプラスして食材なども出してくれるようになり、料理のレシピの代金と合わせて闇の女神教の教会はどんどん貧し暮らしから解放されていった。
そしてその日の朝食の時間、
「あ、シェリーさん。あなた宛てに手紙が来ています」
「ん? 私宛てにか。と言うことは、間違いなく光の女神教からだな」
リネットから手紙を受け取ると、シェリーはその場で手紙の封を開けた。
シェリーの目が左から右へと流れる。そのまま顔が下に向いていき……途中でシェリーの目が止まった。
「旧シールズ男爵領に新しく貴族が赴任してきたらしい」
旧シールズ男爵領は、王国に返還された土地だ。その後他の貴族の領になったのだが、あれからもうかなり長い間誰も赴任してきていなかった。
それが、今になってなぜ……。
「ふむ……あの領地なのだが、渡りに渡って光の女神教を信奉する貴族の所領と
なったらしい」
シェリーの話で納得が行った。
男爵領の半分、しかも飛び地である。そのような領地、誰も統治したくなかったのだろう。
何人かの貴族の手を渡り、最終的に光の女神教を信奉する貴族が買い取ったのだ。
「その情報、教えて良かったのか?」
シェリーは最近俺たちによくしてくれているが、光の女神教の機密を話すことは裏切りや背教に当たる可能性がある。
「実はな、手紙に書いてあるのだ。
新しく赴任する貴族とが挨拶に来るのでウィリアム司祭に伝えよと」
なら問題ないか、とその話を一旦区切ることにした。
新しく来る者がシェリーのように誠実さをもって接してくれるようならいい、来た当初のシェリーくらいでもいい。
だが性根からして悪の者であった場合、対応を考えなければならない。
「止まって下さい!
ここは闇の女神教の教会ですよ!」
玄関の方から、修道士の一人が叫ぶ声が聞こえた。
そして食堂のドアがバタンと強く開かれ、見たことない二人の男がやってきた。
その後ろに先ほどの声の主の修道士が倒れている。無理やり押し入ってきたに違いない。
「お前がウィリアム司祭か!
私は旧シールズ男爵領に赴任してきた者だ。
ふん、見るからに貧乏臭い恰好だな。この教会も埃臭い」
先ほど手紙に書かれていた光の女神教を信奉する貴族で間違いないだろう。手紙とほぼ同時に到着になったのだろうが、手紙と同日に来るなんて貴族らしくはない。普通は数日開けてからくるものだ。
ただ恰好だけは貴族らしく、服は、絹で出来ているだろうものを羽織っており、恰幅も良かった。
「聞いているぞ、汚いことをしてその地位を手に入れたとな!
ガキの頃からそのように汚い心根をしている人間に碌な奴はいない!」
次に声を出したのは貴族の後ろに控えていたやつだ。こちらは、光の女神教の司祭のローブを纏っているから、司祭なのだろう。
飛び地が光の女神教の領地になったので、教会を建てて赴任してきたのだろう。
しかし……こいつら、なんなんなのだろうか。なぜ勝手に人の家(教会)にずかずかと押し入ってきて罵倒してきているのだろう。
「貴殿ら! いくら他の女神教相手だろうと、無礼だろうが!
しかも、ウィリアム司祭は司教扱いで接しろと光の女神教でも
広まっているだろ!」
誰より先に、シェリーが立ち上がって反論した。
しかし、無礼を咎められた二人はシェリーには舌打ちだけし、更に続けてきた。
「チッ。聖騎士か……面倒な奴だ。
いいか、そこのガキ! お前は闇の女神教がなくなれば、
貧民街のガキと何ら変わらぬのだ!
さっさと宗教を畳み、この土地を我ら光の女神教に捧げるのだ!
さすれば貴様ら闇の女神教の者も、光の女神様によって
雀の涙程度の恩赦を受けることが叶うだろう!」
怒りを通り越して呆れると言うか、あまりの傲慢さにある意味感動してしまうと言うか……。
もうなんと返したらいいのかもわからなくなり、ただ聞くだけになっていた。
「邪悪によって穢れた肌を持つ者までおるではないか!
早く部屋から出ていけ! 空気が穢れるわ!」
「そうだ!
この教会ごと今日から光の女神教が使ってくれる!
今から出ていけ!」
放っておいたら、限りなく傲慢になってきそうな二人だった。
都度シェリーが止めに入るのだが、完全にのれんに腕押し状態で相手には通じない。
相手の態度に仕方ないと言った感じで、
「ウィリアム司祭、我が光の女神教の者が申し訳ない。
この場は私が聖騎士としてこやつらを捕縛し、光の女神教へと送り」
「いや、必要ない。
ニルダ! ノエリア!」
ちょっとした面白いことを思いついた俺は、ニルダとノエリアに声をかける。
二人はすぐに椅子から立ち上がると貴族と司祭の二人を床に倒し、上から踏みつけてまともに動けないようにした。
俺はそこに近づき、二人を片方ずつ見る。
「何をする! 離せ穢れ者が!」
「どけっ。お前らのような下等な宗教の信徒がしていいような
ことではないぞっ!」
二人の態度は全く変わることもなかったため、俺は再度ニルダとノエリアに命じる。大人しくさせろ、と。
ニルダとノエリアは武器を抜き、ニルダは剣を貴族の首元に当て、ノエリアは弓を引き絞って矢の切っ先を司祭の顔に向けた。
「「ヒッ」」
ここまでされてようやく自身に降りかかった火の粉を感じとってくれたらしく、怯えて静かになった。
俺は朝食のために用意された木のフォークをテーブルから取ると、それを貴族の眼球に向けた。
「俺たちはお前たちをまだ家に招いていない。なのに勝手に入ってきた。
しかも、途中で修道士に一人暴行を働いたな?
お前たちは強盗も同然だ。
この国の法律では強盗は死刑だ。わかるな?」
本気でフォークを刺してやるくらいの気持ちで威圧すると、貴族はもう何も言う気力もなかったようでただ震えるだけだった。
「脅しだと! 闇の女神教のやるこ」
「うるさい」
今度は司祭の方がまた喋り始めた。ノエリアの向けている矢はあまり意味をなしていないようだ……。
仕方なく司祭の目にフォークを向ける。当然先ほど同様の言葉を司祭に浴びせると、ヒッと声を上げて黙った。
「いいか。
お前たちが旧シールズ男爵領をどのように扱おうが構わない。
しかし、闇の女神教の信徒に手を出してみろ。
その時は……」
「悪かった! もうしない、もうしないから……。
許してくれ! すまん!」
「わ、悪かった……頼む……」
ようやく態度が改まったようだったので、今回の件は許してやることにした。
俺の心は海のように広いのだ。
「今回のことは特別に許してやる」
立ち上がって、ノエリアとニルダに離してやれと言おうとしたところで、もう1つ面白いことを考えたのでそれを実行する。
「ああ……そうだ。
今は反省したかもしれないが、明日になったら反省も忘れるかもしれないな」
俺はそう言って、手に持ったフォークを貴族の眼球に当たる寸前まで前に出した。
貴族はすぐ目を瞑ったが、今までにこのようなことをされたことはないだろう。恐怖が刻み込まれたに違いない。
「ヒィィッ」
貴族の体はガタガタと痙攣するように小刻みに震えている。
「今お前に、呪いをかけた。
次似たようなことをした場合、お前の眼球は顔から爛れ落ちて、
二度と陽の目を見ることができないだろう。
そして、爛れたときの痛みは死ぬまで続く」
耳元でそう囁くと、貴族はビクと強く震え、そのまま何も言わずに震え続けた。
ちょうど背中を向けて隠すようにしていたため、司祭の方は貴族に何が起こったのかがわかっていない状態だ。
よって、同じことを司祭にもしてやった。仲間外れはよくないからな。
司祭も貴族同様、震えが止まらなくなっていた。
「いいか、二度とこの村に来ようと思うなよ!
このまま領地に戻って一生出てくるな!」
そこでようやくニルダとノエリアに貴族と司祭を離してやれと伝えると、解放された二人は何も言うまでもなく争うようにして教会から出て行った。
背中を向けて逃げる二人に、俺はなんとなく鑑定を使った。なるほど……。
騒ぎは収まり、さあ朝食と席についたのだが周りの修道士はおろかシェリーやニルダ,ノエリアも席につこうとしない。
どうかしたのか? と皆を見ていると、
「ウィリアム司祭……流石の私もドン引きだぞ……」
「ウィルくん、あれはちょっと……」
どうやらやり過ぎたらしい。




