3章 4話 シェリー・ダンフォード3
ふと、目覚めた。頭が痛かった。昨日は酒を飲みすぎた覚えがあるから間違いなく二日酔いだ。
闇の女神の教会に滞在するに辺り、光の女神教の司教より酒を賜った。ストレスが溜まることもあるからそんな時に酒を飲むのもいいだろう、と。
その酒を飲んだ記憶もある。何があったか、とそれまでの記憶を思い返してみる。
昨日、早朝にダークエルフの剣士と勝負をした結果、完敗だった。どのような剣を放ってもダークエルフの体を捉えることができなかった。
私は神殿騎士内部でトップの実力を誇っていたから剣の腕には自信があったが、あれほどまでに軽くあしらわれることなど今までになかった。あまりにもショックで、つい酒に走ってしまった。
しかし、そこから先の記憶がない……。
今いる場所が一体どこなのだろう。闇の女神教の教会に当てがわれた部屋ではないことだけはわかる。と言うより、あの部屋よりはるかに広い。
二日酔いで痛む頭を押さえて起き上がると、
「ああ、起きたか。
子供の男性に性別的な志向のある神殿騎士殿」
声のする方を向けば、隣のベッドの近くに昨日剣を合わせた者とは異なるダークエルフがいた。確かダークエルフの双子の妹の方で、勝負の判定をしてくれていた者だったと言う記憶があった。
しかしこのダークエルフ、今私のことを不遜な呼び方をしていなかったか……?
「別の言い方のほうが良かったか……?
今日は朝の訓練には参加するのですか?
子供の男性にしか欲情しない神殿騎士殿」
今こいつ、私のことを"子供の男性にしか欲情しない神殿騎士"呼んだなっ?!
怒りが湧き立ち上がろうとしたが、更に頭痛がし足もふらついて思うように立ち上がることができず、再度ベッドに座り込む。
「子供の男性にしか欲情しないな神殿騎士殿はどうやら昨日のことを
覚えていないようだな。
それでは、僭越ながら私が教えて差し上げましょうか。
お前は昨日、ニルダ姉さんに剣の勝負を申し込み、
完膚なきまでに叩きのめされてしまったのだ。
その結果強いショックを受け、許容量を超えるほどに酒を
飲んでしまった。
そして、酒に溺れた結果……子供への欲情が止められなくなり、
ウィリアム司祭に……」
「待て! ご誤解だ!」
無意識にそう答えてしまった。酔って記憶がないとは言え、私は子供に欲情などしない。そのようなことをすることはありえない。
大声を出してダークエルフの発言に横入りをすると、
「面白いことを言う。
あなたがウィリアム司祭をベッドに押し倒し覆いかぶさったのは
事実。そこにどのような誤解があるんだろうね」
「ふん、でっち上げだ!
では私がウィリアム司祭に覆いかぶさったと言う事実を
持ち出してもらおうか!」
売り言葉に買い言葉と言うやつだ、私はあまりにケンカを売ってきてますと言ったダークエルフの言葉に、つい証明の仕方がないことを証明しろ! と言ってしまった。
普通ならこれを言われると困るはずだ、そこで私は条件を出して手打ちをするつもりだったのだが、
「ああ、もしかして気づいてない。そうなんだ。
今いるベッド……誰の物だと思います?」
先ほどからずっと悩んでいた、今私がいるベッドの話をされた。
目の前のダークエルフは闇の女神教の人物。間違いなく、このベッドの主がわかっているのだ。
いや、今の言い方だともしや……。
「ウィリアム司祭のベッドだよ。
少し頭を回せばわかることなんだけどね……」
ニヤリといやらしく笑みを浮かべる。このベッドがウィリアム司祭の者だった、その事実に先ほどから心臓の鼓動が早まるのを止められない。
「光の女神教は強者が弱者を押し倒すのが教義なんでしょうかねえ」
「それは違う! 強者は弱者を守るべき存在だ!
決して弱者を無下に扱う強者などはいない!」
光の女神教の教義をバカにされた形になり、私の怒りが一気に跳ね上がる。
この女、私のことだけならともかく光の女神教をバカにするとは……。
「では、あなたのやったことは一体なんなんでしょう?」
記憶がなかった時のことについては何も言うことができず、悔しさに歯を強く噛みしめていた時……ドアが開いた。
あのローブは……土の女神教!?
「光の女神教の神殿騎士……いえ、あなたは聖騎士殿でしたね。
その聖騎士殿が一体"ウィリアム司祭のベッド"で何をやって
いるのですか?」
目の前が真っ暗になった。
記憶がなかった時のことならともかく、現時点のことについては言い逃れすぐことはできない。
この話が光の女神教に伝わってしまえば、私は聖騎士の称号はおろか神殿騎士からも……。
そう思った時に、土の女神教の司祭の後ろから声がした。
「お前たち、ほどほどにな」
話の中心人物のウィリアム司祭だった。
ウィリアム司祭は部屋に入ってくるなりメンバー全員を静かにさせると、今回のことの顛末を話してくれた。
結論からすると、私は酒に溺れた結果ダークエルフの強さについてウィリアム司祭に問い詰めるため詰め寄り、そしてウィリアム司祭をベッドに押し倒してしまいそのまま寝てしまったらしい。
後はダークエルフの姉の方とウィリアム司祭によって、ベッドに寝かしつけられていたとのこと。
つまるところ、私はもう一人のダークエルフによってただバカにされていただけだったのだ。
あまりの悔しさに私の一生でトップ3位に入るくらい強く睨んでやったのだが、すでにこちらを見ておらず逆に悔しい思いをさせられた。
もっとも、最悪な状態ではないことにホッとした。ホッとしたが、その反面ウィリアム司祭に多大な迷惑をかけてしまったことを知り、とてつもなく申し訳なさに襲われた。
「ウィリアム司祭殿……この度は大変申し訳ないことを致しました。
この謝罪は改めて致します。
本日は場を諫めて頂き、本当にありがとうございました」
私はウィリアム司祭に礼を言うことしかできなかった。
7歳と言う年齢に見合わないあの態度、そして場を収められるほどに皆からの信頼を集め、そして私の行いをも許してくれる度量。
他の女神教の人物だとしても、敬う価値があると思った。
そして、決めた。
私はこの7歳の司祭を監視すると共に、今までの私のような態度をとる者から守ろうと。




