3章 3話 シェリー・ダンフォード2
早朝、ダークエルフの双子が庭で訓練をしている最中に、シェリー・ダンフォードがやってきた。
庭で訓練してもよいことを伝えたので早朝の訓練をしにきたのだろう。誰よりも早く来たつもりみたいだが、俺たちがすでにいたことに気づいて驚いていた。
自身が庭にやってきたことについて俺たちが何も反応を示さないので、俺たちの訓練――特にニルダの素振りを熱心に眺めだした。
もう何年も続けているニルダの素振りは、達人の域に入っていると思う。正直言うと俺が見てももうどれくらいすごいのかがわからないほどだ。
そんなニルダの素振りを見てもシェリーは驚いたりしなかった。それどころか、ヘタな手品を見ているかのように優越感を抱いてるようにも見えた。
ニルダのすごさを全くわかってないシェリーをとても残念な子だと思ったが、彼女もこと剣技に関しては相当の腕なのかもしれない。
出来たら腕前を見てみたいなと思っていたところ、
「そこのダークエルフ、手合わせしてみないか」
ちょうどよく、シェリーがニルダに勝負をふっかけてくれた。
ニルダは受けていいものか、俺の方を見てきたので頷いて了承を示す。
「わかりました。受けて立ちましょう」
シェリーが口の端をあげて笑った。もしかして、昨日の仕返しをニルダにするつもりなのだろうか。
ニルダが予備の木剣を持ってきてシェリーに手渡し、勝負の内容を話し合いはじめた。
どうやら、腕、足への攻撃は2回で勝ち判定、胴体,頭部へは1回で勝ち判定となったようだ。剣以外での攻撃は反則となるらしい。
木剣とは言え本気の剣戟が体や頭に当たると危険だと思うが、俺が近くにいることもあってよっぽどのことがない限り強すぎる攻撃も認められるようだ。
今回の勝負において、ニルダのギフトをひけらかすわけにはいかないのでそこだけ釘を刺すことにした。
「(ニルダ、手加減してやれよ)」
「(わかっております)」
相手が光の女神教の人間とわかった上でもニルダは冷静だった。自分たちの里を滅ぼした人間かもしれないと思えば、憎しみを抱きかけないとさえ思うのに。
二人が木剣を構えて向かいあう。
ノエリアが始めの合図をすると、シェリーが先手をとって真上からの打ちおろしを放った。剣術のお手本となるかのようなキレイな技だったのは間違いない。
ただ、あまりにも単純すぎる攻撃だ。完全にニルダをなめ切っていることがわかった。ニルダはそういう剣術を相手どる練習を今までずっとしてきていたのだから、負ける要素がない。
紙一重とまではいかないが、見切ったようにシェリーの剣を躱し、返す一撃でシェリーの右腕の肘を打った。まずは一撃だ。
すかさずシェリーが振り下ろし切った剣を今度は横に凪ぐ。ニルダはそれも一歩後ろに態勢をずらしただけで躱し、今度は左腕の肘を打つ。合わせて2回だ。
あまりに勝負が早く決まってしまったため、シェリーは呆然としていた。
「合わせて2回、ニルダ姉さんの勝ちです」
「ま、待て! もう1本だ!」
ノエリアが勝利判定をしたところでシェリーが食い下がった。
明らかに油断していたため、本気を出せていないのでもう一回やりたいのだろう。
こちらを見ていたニルダに頷いて二回目も了承を示した。
ニルダは手加減していたが、木剣で両肘を打たれたのだから痛い思いをしているだろうと考え声を掛ける。
「ヒールは?」
「いらぬ! これくらい、大した傷でもない!」
シェリーは興奮しているようで拒否された。痛むだろうが動かせなくなるほどではないからまだ平気だろう。
続いて二回目の勝負。先ほどとは異なり、今度はすぐには突っ込んでこなかった。少しだけニルダを伺ってから、突きを放ってきた。
予備動作の少ない良い突きだったと思う。だがそれだけだ。ニルダはシェリーの少ない予備動作片足を軸に回転し、突きを躱す。そして返す攻撃でまたも肘を打った。
先ほどのダメージもあったせいか、今回はシェリーが木剣を落としてしまった。
ルールにはないが、流石に武器を落としてはその時点で負けと判断せざるを得ない。
「武器手放しにより、ニルダ姉さんの」
「もう1本だ!」
またも食い下がるシェリー。
このままの流れだと、シェリーが納得するまで続けることになりそうだったので、気が済むまで続けるようにニルダに伝え、近くに座って眺めることにした。
2時間近く経過しただろうか。リネットが朝食の連絡をしに庭に来た。
「あ、あの……これは一体どういう……」
ヒールは怪我を癒すことができても疲れをとることはできない。
ニルダに比べ、圧倒的に無駄な動きの多かったシェリーは疲労の余り四つん這いになっていた。その前にはニルダがいて、ちょうど土下座をさせているかのように見えたのだろう。
リネットはシェリーの回復を待つことになり、俺,ノエリア,ニルダの三人は先に食堂に向かった。
朝食の時間に遅れている理由を修道士長に告げて、先に朝食を頂く。
「勝負の結果はどうだったのですか?」
修道士の一人から勝負の結果を聞かれ、俺はニルダに話を振った。
「え……えっとぉ……私の全勝でした……」
あまりも圧倒的結果だったので、ニルダが思わず言い淀んでしまう。
数回でもシェリーが勝っていたなら、言い難いこともなかっただろうに。
その後、10分ほどしてからシェリーがやってきたが、あまりの気まずさにか一言も喋らずに朝食を食べていた。
周りの修道士も気まずくなって話しかけることができずにいた。
その日の夜、寝る支度をしていた俺の部屋に、突然シェリーがやってきた。
普段のらしさが全くなく、目が据わっている。そして……酒臭い。手には見たことないが陶器を持っていた。これに酒が入っているのかもしれない。
「なんなのら! おまえらあ!
どうひて ひょんなに つよいんらあ!」
シェリーは入ってくると即座に俺に絡んできた。彼女の目は赤く、瞼が腫れていたので部屋で泣いていたに違いない。
しかし、シェリーが負けたのはニルダにであって俺にではない。なぜ俺に絡んで来るのか。
「あらしだって、つよいんらぞお。
しんれんきしれでいちらん、つよかったんらぞお!」
どんどん詰め寄ってくるので俺は逃げるように後ろに下がるのだが、下がった分どんどん寄ってくる。
護衛のニルダの方を向くが、自身が酔っ払いに絡まれたくなかったのか、顔を背けていた。
(こ、こいつ……自分がやった癖に……)
そのままどんどん詰め寄られ、ベッドにぶつかりそのままベッドに倒れ込んでしまった。
仰向けに寝転ぶ俺に、シェリーはさらに詰め寄ってくる。そして、俺に逃げられないように顔の横に両手を置いてきて……そのまま俺の胸に顔を預けて寝てしまった。
流石に大人と子供の隊格差でシェリーをどかすことができなかったので、ニルダの方を向いてどかすよう頼もうとすると、なんと両手で顔を覆っていた。
いや……護衛が何やってるの……。
その後、ニルダによって解放された俺は仕方なくシェリーを俺のベッドで寝かせ、別の部屋で寝ることになった。
ニルダはシェリーと同じ部屋で寝たくなかったのかノエリアに事情を話して交代を申し出ていたが、ノエリアは喜んで了承した。
翌日、闇の女神の教会ではシェリーはショタコンで有名になった。




