1章 16話 ダークエルフ ノエリア・サラサール
今回はダークエルフが主人公となる回です。
よってダークエルフの一人称で話を書いています。
私の名前はノエリア・サラサール。ダークエルフの里サラサールに住む双子姉妹と言えば、里に知らない者はいないほど有名だ。
姉のニルダ・サラサールは剣技、妹の私は弓術でそれぞれ里一番の実力者。それもそのはず、私たちは姉妹で名誉あるギフト持ちだった。
ギフトとは戦闘・魔法・鍛冶等あらゆる分野における才能のようなもので、ギフトを持って生まれた者はその道において他を寄せ付けぬ技量を手に入れることができるのだ。それゆえギフト持ちと言うのは非常に稀である。私たちはギフト持ちの双子姉妹として有名だったのだ。
ダークエルフの里であるサラサールには度々侵入者がやってくる。多くは、私たちダークエルフを捕らえようとする奴隷狩りの連中だ。私たちダークエルフは、里にこもってほとんど村や街には出行かないので珍しがっていることはわかっている。
しかし、私と姉さんさえいれば何十人来ようと敵ではなかった。この森を私たちダークエルフほど知り尽くしている者などいない。私たちダークエルフに敵う者などいないのだ。大概の奴は私の目視できない場所からの矢を受けて、必要以上に怯え逃げて行く。
だがその日は違った。
森にやってきたのは金属鎧に体全体を包んだ前衛を筆頭に、ローブ姿の者が多数。とても不気味な集団だった。
私はまず威嚇のための矢を数本撃った。相手が目視できない距離から放った私の矢は兜をかすめたり、胴のすぐ横のローブに触れたりして、相手に恐怖を植え付けるのに成功したと思った。
だが、相手は気にしないどころか私のいる方向を正確に判断し、走って向かってきたのだ。
逆に驚かされることになった私は更に2本の矢を射た。今度は相手の足を狙った。鎧の者には当たっても弾かれると考えローブの者を狙う。矢は私の想像通り2本とも足を射貫いた。射貫かれた者は倒れるが、他の者は倒れた者に見向きもしない。
更に3人ほど足を射貫いたところで、私の姿は先頭を走る鎧の者に目視されてしまった。
姉さんが私と鎧の者の間に割って入る。
相手が逃げずに向かってきた場合、そのようにすることが決まっていた。里内の者相手でも外の者が相手でも、姉さんは苦しい戦いはしたことがなかったから私は安心していた。重装甲の鎧であっても姉さんに敵うはずがないと、そう思っていた。
剣を合わせ始め、圧倒的に姉さん有利に剣戟が続いた。姉さんの剣の振りの速さに鎧の男はついていけず、受けそこねては鎧に守られていた。しかし、剣戟を重ねて行くうちにどんどん姉さんが不利になっていった。理由は簡単だった、相手は姉さんの剣を剣で受けずに鎧で弾いていたのだ。
剣の腕は姉さんのほうが圧倒的に上。だが、剣は相手の鎧を切り裂くことができなかった。
姉さんが剣を振るう。剣は鎧に当たり弾かれる。男は姉さんの隙を狙って剣を振るう。姉さんはそれをなんとか避けまた剣を振るう。何度も何度も同じことが繰り広げられ、姉さんの体に無数の傷が増えて行った。そして姉さんに向かって矢が飛んだ。矢は姉さんの右目近くに飛び、肉を切り裂く。そして姉さんが発狂するような声をあげた。
矢には毒が塗ってあったようで姉さんは苦しみ、戦いどころではなくなっていた。
私は鎧の者に矢を撃ち姉さんに近寄ると肩を貸して里の方向に逃げた。
今回の相手は何かおかしい、私たち姉妹だけでは勝つことができない。私は里に助けを求めて向かった、里には……私たちが相手にしていた以上の敵が押し寄せていた。私たち双子姉妹が相手にしていたのは相手の一部でしかなかった。
私は姉さんに肩を貸して無我夢中で走った。息が切れそうになって、とても苦しくて、足も腕も疲労で動かすのが辛くて、それでも息が続く限り走った。どんどん森の奥に移動し、川が流れている場所にたどり着いた。
川の音が耳に入り、何かから目覚めたかのように心が落ち着いてきたので後ろを見ると、追われているような感じはしなかった。すぐに姉さんを寝かせて傷を調べると、傷から毒が浸透してしまったようで右目の辺り全体の肉の色が変わっていた。姉さんの右目はもうダメだと思った……。
毒に効く薬草を探し姉さんの右目辺りに塗り付ける。毒だけは明日にはなんとかなるだろう。
それから、私たちは逃げるようにして更に森の奥に移動していった。
姉さんは毒が抜けて普通に行動ができるようになったが気づくとギフトを使えなくなっていた。
毎朝私より早く起きて剣を振るう姿を見るのだが以前のようにするどい斬撃を放つことはできなくなっていた。それでも毎日続けていた。
数日経ち、もう追われていなさそうであることを感じたとき、今回のことについてようやく考えることができるようになった。
改めて考える。何者かによる大規模なダークエルフの殲滅作戦であると、そう思えた。
しかし私たちを殲滅することに意味があるとは思えない。もし仮に私たちを殲滅することに少しでも意味を見出してる者がいるとすれば、それは光の女神教の者だ。なぜなら私たちダークエルフは、光の女神教を信奉する亜人のエルフと非常に仲が悪い。敵対していると言っても過言ではない。宗教国家ノアニルによって、基本的に国内の争いを禁止されているから、表だって行動できないだけだ。
私は今回のことで、光の女神教、そして信奉しても何もしてくれなかった闇の女神教を次第に恨むようになった。姉さんの目の傷を治してもらおうにも、闇の女神教には司祭どころか助祭もいない。他の女神教にお願いしようにも、今の状態では光の女神教の追ってを気になって他の町に行くことができない。八方ふさがりだった。
それから、姉さんと二人で森の中に逃げ込んだ同胞を探して歩いたが、一人とて見つけることができなかった。
森の中で暮らして数年が経った。もう大丈夫だろうと里があった場所に戻ると廃墟になっていた。もしかすると、ここに居続ければ里の者が帰って来るかもしれない。そんな思いで廃墟となった里で過ごし始めた。けれど、何年経っても誰一人としてダークエルフの里の者が帰って来ることはなかった。
ある日里に人が訪れた。私たちがここに来てから初めてだ。そいつらが何のためにこんな廃墟に来たのかわからず、私は遠くから見ていた。彼らは廃墟となった住居を調査し、私と姉さんの生活の跡を見つけると戻って報告していた。
そして更に私たちの火の跡を見つけ、どんどん私と姉さんに迫って来た。あの里が襲撃された日が思い出され、怒りの感情がとても湧いた。
私はその怒りの感情をそのままに一人に向けて矢を放った。矢は誰にも気づかれることなく、そっと肩に突き刺さった。特性の毒を塗った矢だ。一刻もせずに相手は死ぬはずだった。
連中の中でローブを纏った小さい姿の者が近寄ると、両手を傷口に当て毒を解除し怪我を治した。
私は叫ばざるを得なかった。
こちらを向いた小さい姿の者は、とても幼い子供だった。