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1章 10話 幼児期7


朝起きて軽く食事を済ますと昨日出来なかった慰問の話をするためにシスター全員と打ち合わせをした。

決まったことは、

1.慰問の準備に時間がかかるため、慰問は2日後からとすること

2.1日に治す相手は具合の悪い者から順に20人に限ること

3.慰問はかなりの疲労を伴うため、朝に10人。昼過ぎに10人に分けること

4.慰問に訪れた者は基本的に誰でも治すこと

5.寄付を募ること。強制ではないし、額も相手に任せる

この5つだった。


4と5は昔からの取り決めで決まっていたことだったから、修道士長が真っ先に教えてくれた。2と3は今回の特別対応で俺への配慮をされた結果だ。疲労に関してはともかく俺のMPはこれくらいで尽きることはないので、いつか打ち明けなければならない。

1は慰問がかなりの間されなくなっていたこともあり、定期的に開催する慰問の日を決める必要もあったのでしっかり話し合った。

慰問の準備は各シスターに少しずつ割り当てられ徐々に整っていった。そして、慰問の日になった。


俺はリネットにより助祭の服に着替えさせられ診療所に向かった。昨日事前に下見を行っていたため場所もわかるし使い勝手もわかっていた。

診療所は6畳間くらいの1室だ。俺と診療する相手が座る椅子が計2脚。怪我や病気の度合いがひどい患者のために、木製の骨組みに布を張っただけの簡易的なベッドが1つあるだけだ。

俺は診療所に着くと椅子に座って時間を待った。初めての慰問であるが、どうせヒールとクリーンをかけるだけなので大した緊張もない。

慰問開始の合図がしたので、リネットが反対側のドアから出て行って最初の患者に声をかける。

ドアは外に繋がっていて多くの患者が外で列を作っていたのが見えた。外には別のシスターがいて事前に患者に具合を聞いては順番と人数を決めている。

最初の患者がリネットに体を支えられて入ってきた。

患者は中年の男で外観を見る限り怪我をしているわけではないらしい。患者は椅子に座るとリネットに促され、自身の容態を話し始めた。


「おらぁよ、この村で農夫をやってるんだがぁ。

 最近体を動かすのもやっとでねぇ。

 だるいし、体も熱いしでこのままじゃぁ仕事に差し支えるだぁ。

 助祭様ぁ。なんとかしてくれねぇだか?」


俺は相手の話に頷くといきなりヒールを使うようなことはせず、まず鑑定を使うことにした。鑑定で相手の状態を確認できるので、ヒールとクリーンを無駄なく使ってMPを抑えることができる。と言っても、MPにはまだ余裕があるわけだが。

鑑定の結果中年の男は病気だった。数日の間体のだるさに苛まれていたのだろう。

俺は手を相手の顔の前に掲げる。


「クリーン」


手から淡い光が放たれ相手の頭をゆっくりと包み込む。頭を包み込んだ淡い光が頭に吸い込まれるのを確認してから、俺は手を下げた。


「だ……だるさが消えただ。

 ね……熱も……」


男がクリーンの効果を実感したのを確認できたのでリネットに目で合図を送る。


「治ったからと言って無理はしないでくださいね。

 できれば後1日はゆっくり休んでください。

 本当に治ったか確認したいので、念のため次の慰問の日にも

 来てもらえますか」


打ち合わせの時に俺が合図が送るとこの言葉を相手に伝えるように決めていた。

これは修道士長からの提案で、子供の俺が言うより傍付きの修道士が伝えたほうが良いとのことだった。その中に、助祭とは言え俺を見た目で侮る輩もいることも含まれていると感じた。

中年男性の患者からは何度もありがとうございますと言われ手を握って上下に振られる。後ろに立っていたリネットは俺が嫌な顔をするより先に患者に話しかけ、次の患者さんが待っていますからと治った患者を部屋から出していった。

そしてまたドアを出て新しい患者を連れて来る。

次の患者は若い青年で、腕に深い傷を負っているのが見てとれた。


「俺はよ!……先日怪我をしちまったんだ。

 見ての通り、これよ。

 チッ。母ちゃんに言われなければ

 こんなところに来なかったのによ!」


青年の態度が悪かったのはどうやら俺への侮りだけが理由ではなかったようだ。ここへ来ること自体を嫌がってたいたと言うことは闇の女神の信徒ではないのだろう。

容体については怪我をしているのであるから、ただヒールを使えばいいと思うのだがやはり念のため鑑定をしておく。先ほどの男もそうだったように病気にかかっている場合もあるからだ。

鑑定したところ男はやはり病気にかかっていた。弱い感染症の様で、掛かり始めであったこともあり熱やだるさと言ったものはまだないようだ。 病気にかかる 漢字だと 病気に罹る 罹患の罹です

俺は青年の腕に向けて手を掲げるとまずクリーンを唱えた。怪我に対してクリーンを使ったことで青年は驚いていた。


「お……おめぇ、何やってんだ!

 怪我だっつったろ!」


青年は驚いてクリーンを使われた腕を引っ込める。

俺の考えを理解できなかったことは仕方がなかったろう。だが俺は今回のことをわざわざ青年に説明する気はなかった。


「(うるさい)」


面倒だなあと言う思いでボソリと呟いたことが、青年にも聞こえてしまっていた。


「な……なんだとぉーっ!!!」


「お静かに!

 感染症の可能性もあります!」


青年が興奮して立ち上がったところにリネットが間に割って入る。

リネットから内容をしっかり説明をされた青年は納得せざるを得ず、大人しく椅子に座った。

俺はヒールを唱え残っている怪我を治す。男は怪我が跡形もなく治る様子を見ていて驚いていた。


「……流石……助祭様だぁ。

 悪かった……助かったよ」


青年は今までの態度を俺に詫びた。

弱冠じゃっかん5歳の助祭と言うのはやはり疑いの目で見る以外の何者でもなかったのだろう。この男が今回の件を村で広めてくれることでそういう輩が減ることを願いたい。 弱冠は20歳以外でも大丈夫派です。 若冠 は、世代や辞書によっては注釈付きで正しいとする場合もあるようです。


「もうっ!助祭様!

 必要なことはちゃんと伝えてあげてくださいね?」


俺は男が外に出た後リネットから叱られた。


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