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30話 プランB

 見切られることなど百も承知!とばかりに手応えの無さなど歯牙にもかけず、マリーナは咆哮を上げ、間断なく渾身の剣撃を繰り出す。


 観客は、その堅い木の両手剣がボウッ!!と唸りを上げる度に騒然となる。


 一部の専門家気取りの客を除くこの群衆には、一切の無駄なく、すれすれにアンとビスがそれを交わすのが、勇者の怒涛の剣撃にこの大会覇者二名が圧されているかのように写り、息を飲み、手に手に汗を握っていた。


 アンとビスはヒールの足下を狙った、マリーナの当たれば粉砕骨折必至のパワフルな薙ぎ払いを同時に跳ねて交わしながら、空中で前に出た美しい顔を見合わせる。


 褐色のビスが白い肌の妹へ

 「この女戦士の必死さ。あの奥のアサシン、なにかを狙ってるね?」


 アンも、肩透かしで斜め前へ「わったった!」と流れ、つんのめる金髪の深紅のチェストアーマーを見送りながら

 「うん。臭う。これはワナの臭いだね」


 ビスはうなずき

 「一応、あの紫からも目を離さないでね?」


 プラチナに輝くボブヘアーの妹は鼻を鳴らして

 「勿論よ。それにしても舐められたものだね。

 フフフ、私達に隙なんかないのにね。

 全く、ご苦労様」



 シャンは焦っていた。

 

 アンとビスは事も無げにマリーナの猛攻を余裕で交わし、或いは棍で流水を受け流すように巧みに逸らしと、完璧に剛打をさばき切りながらも、その四つのブルーグレイの瞳は油断なく自分をねめつけているのである。


 つまり、この大会連覇の二人には、どこをどう探しても、つけ入る隙など一分も見当たらないのだった。


 作戦機動中の長身女戦士の躍動する胸鎧の背中は、丸で水を浴びたように濡れ光っている。


 彼女に全力で大剣を振るわせ続けるのは申し訳なかったが、どう考えても今ここで自分が飛び込んでも、アンとビス両名に難なく迎撃され、地面に組伏せられてしまうビジョンしか見えない。



 最前線で鉛のように重くなってきた剣を振るうマリーナも、汗をブーツの中、石の床に散らしながら驚愕していた。


 彼女に剣を授けた、若い頃は勇者として鳴らし、数々の強敵モンスターを討伐してきた老練な父親でさえ、ここまで完璧に自分の剣をさばき切ることは出来なかった。

 

 今更ながら二人の女勇者達はアンとビスの戦闘力に戦慄いていた。

 しかも、腹の立つことに、双子の姿は未だ滑らかな肌の人間の乙女のままである。

 あの決勝戦恒例、必勝の型である、獣人深化さえ見せてくれないのだ。


 分かってはいたが、勇者達とアンとビスとの実力差は、正に圧倒的だった。


 女アサシンは、深紫のレザーアーマーの袖を捲った両手でトンファーを握りしめ、悲しき現実に打ちのめされ、呆然と立ち尽くしていた、が。


 「マリーナ。もう、いい」

 なんと、シャンという名の美しい参謀は、ここに来て素直に諦めた。


 ブロンドの美しい女戦士は空しく地面を打って手を痺れさせていたが、後方の仲間を振り仰ぎ

 「あんっ!?アンタ……。い、今なんつった!?」


 アンとビスもその後ろ姿へ隙ありと追撃することなく、その女戦士と同じく、怪訝な顔で深紫のアサシンを見る。


 シャンは黒いグローブの右手を後頭部へやり、自らの総髪を、その純黒の長い髪を振りほどき

 「マリーナ、すまん。命を薪とし、惜し気もなく火にくべるが如く剣を振るったお前には悪いが、残念だが……。アンとビスにはこの作戦は通用しないようだ。

 私の思慮が足りなかった。申し訳ない。

 誇り高き戦士、私の親友マリーナ。少し休んでくれ。

 私は……一族禁断の秘奥義を使う」 

 彼女が諦めたのは最初の策のことであった。


 その証拠に、その端整な顔からは少しも闘志は失われていなかった。

 いや、それどころか何やら余裕めいたものまで感じさせた。


 マリーナは顔へ降り注ぐ滝のような汗と、そこにへばり付いた金髪を深紅のグローブで払って、大剣を石舞台に突き、それを支えに肩で荒い息をし、憔悴仕切った顔で

 「そ、そうかい。ハァ、い、いや、こっちこそ余り役に立てず、ハァ、ゴメンよ!

 コイツ等ときたらさ、ハァ、どんなに気張って振り回しても、ハァ、当たりもかすりもしないんだよ!ハァ」


 アンは汗一つかいていない、取り澄ました白い顔で

 「やはりシャン様、マリーナ様を楯に私達の隙を突こうとしておら、」


 突如、視覚野から入ってきた、その情報の余りのインパクトに、プラチナカラーのライカン娘は先を語るを忘れた。


 隣のビスも飛び出さんばかりにブルーグレイの瞳を剥き、茫然とその場に凍りついていた。


 グリーンの運営側テントから、サフラン色の(いしゆみ)の矢ように、女魔法賢者が飛び出した。


 まほろび出て、そのまま地面を転がり、痛みもローブの汚れも気にも留めず、素早い膝立ちで

 「え!?えっ!?シャ、シャン……さん!?」

 その驚愕する鳶色の瞳が映したのは、白い舞台に屹立する、スレンダーな美しき女アサシン。

 

 春の風にさみだれた黒髪がなびく下、美しいトパーズの瞳が爛々と、燃え盛る陰火の如く輝いていた。 


 その姿は正しく……。  

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