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20話 デジャヴ感が凄い

 息急き切って降りて来たのは、くたびれた皮鎧を着込んだ、酒で鼻を赤くした、白髪混じりのフサフサの顎髭の先を三つ編みにした、厚みばかりで高さのないドワーフの男だった。


 このドワーフとは亜人間であり、一般的に筋肉質で低身長。鍛冶や工芸、芸術を好んで得意とし、なにより酒と博打を愛する無頼な性質の種族である。



 ガラの悪い男達は、何事かと咄嗟にテーブルの羊皮紙を隠し、一斉に振り向いた。


 「おい!おまえら!よく聞けよ!?」

 乱入してきたずんぐりむっくりが、ひび割れた分厚い唇から泡を散らす。


 左目にアイパッチ(眼帯)のやさぐれた男が

 「なんだ、お前かよ!うるっせえな!」

 一瞬、自警団の賭けの取締りかと肝を冷やしたが安堵したようだ。


 ドワーフは荒い呼吸を整え

 「いや、それが大変なんだよ!!」


 アイパッチの隣、禿げ頭の襟足の長い、耳の尖ったローブの老人が

 「どうした?正か自警団にバレたか?」

 目を瞑ったまま、唱えるようにドワーフに言った。


 ドワーフは店主から渡された、酒樽を模したエールジョッキに吸い付いていたが、それをダンッ!と下ろして、フーッ!と一息吐き、皮鎧の袖口で髭の口を拭い

 「いや、そうじゃねぇんだ!よく聞け!?なんとな!この大会に今噂のジュジオンに集いし伝説の勇者達が出るらしいぜ!?」


 十数名いる男達がどよめく。


 アイパッチがゴゴッと椅子を鳴らして、思わずと立ち上がり

 「なんだとー!?そりゃ飛び入りってことかよ!?

 冗談じゃあねえよ!試合ごとのオッズはもう出来上がってんだ!

 畜生!勇者のアマ共め!これじゃ全部が台無しだぜ!!」

 羊皮紙の表をテーブルに叩き付けた。


 オッズとは賭けの予想配当率のことである。

 この男達は組織的に賭けを裏から取り仕切っていたようだ。

 それゆえ、随分と手塩にかけてそれぞれの選手の戦歴などから試合ごとのオッズを算出し、この日を迎えたのである。


 ドワーフはまたもや酒樽型ジョッキに吸い付いていたが

 「いや、それは大丈夫だ。なんでかってーと、これがまた勇者達はただ出るんじゃねぇんだよ!

 なんとよー!決勝戦に勝った選手と戦うらしいんだよ!

 だからよ、手間暇かけてこさえた試合ごとのオッズはムダにはならねぇ。

 ただ今年はもう一つ試合が増えるってだけよ!

 まぁどうせ、今回もアンとビス辺りが勝ち上がって来ると思うが、追加のもう一試合は一般の選手と勇者達のどっちが勝つかで一回増やせば良いだけだ!」


 子供のように小さな髭面の男がテーブルに刺していたナイフをクッと抜いて

 「おいおい、良いだけだ!じゃねぇよ。

 一般の優勝者がアンとビスか、それを負かすような奴等なら、まずどんだけ女勇者達が強かろうと相手にならねぇじゃねぇか!?こりゃ賭けが成立しねぇよ」

 

 ドワーフはアルコールが脳に回り、少し落ち着いて来たのか、アカでテカる顔で太い人差し指を立て

 「なーに言ってんだ?元々アンとビスの試合は全部そーじゃねーか。

 俺が大変だと言ったのは、今から追加の一戦のオッズをはえーとこ決めて、他の酒場の皆に伝えなきゃなんねーと思ったからだ」


 女勇者達の実力が全く読めず、オッズの作りようもなく騒然となる荒くれ者達。


 どうやら、この『黒獅子亭』は只の地下酒場ではなく、ご法度の神前組手大会の賭けを裏で取り仕切る、この街のギャング団の物騒な根城だったらしい。



 ドラクロワは神前組手大会など無関心であったが、ギャング団等のやり取りを聞くともなく聞いて、恐ろしく不愉快な顔で

 「フン!あの三色バカ女共め!主人公たるこの俺より目立つつもりか!?

 大体、あいつ等程度の腕で格闘大会の優勝者相手にまともに戦えると思っているのか!?

 全く、己を知らぬ者の虚栄心とは始末に負えんな」


 カミラーも厳しい目付きで

 「まぁ、奴等も公衆の面前で恥をかけば己の無力さに気付くことでしょう。

 虚栄心といえば、先程からここの客の話を聞いておりますと、何やらこの神前組手大会とやら、それなりに高名らしく、優勝者の組にはメダルの授与式から始まり、この街のみならず、近隣の町々を巡る三日間の優勝パレード、握手会、サイン会と、それこそ息をつく間もないほどの連日の祝賀の祝典に招かれ、食傷するほどの称賛と賛美が注がれるとのことです」


 ドラクロワの淀みのない葡萄酒の栓抜きが急停止した。


 「なん、だと?」

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