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15話 あれ?職権濫用ってこんな字?

 リンドーは西に鬱蒼たる森の広がる、トランより遥かに大きく、モンスター避けのバリケードも高い、王都の如くとはいかないにしろ、かなり栄えた城塞都市であった。


 勇者等は見上げるような強固な外門で、見張りの自警団に冒険者ギルドの登録証を見せると、許可云々どころの話ではなく、是非にと街の中へ歓待された。


 慌てて自警団の詰所から出てきたのは、雄牛のような角兜、スケイルアーマーの自警団長。

 ギラギラとした三十代後半の暑苦しい体育会系の男であった。


 露出の多いマリーナの肢体を見て、いかつい髭面を弛ませ

 「むほおっ!?これはこれは、いやはや凄いですな……。

 はっ!申し遅れましてすみません、私自警団長をつとめております、ゴイス=ボインスキーと申します。

 伝説の勇者様ご一行でごさいますな!?

 いやはや!お、お会いできまして光栄でございます!

 魔王討伐の旅にこの街をご利用いただけるとは……いやはや有り難き幸せ!

 ささっ!まずは、どうぞ領主にお会いください。

 今この街は丁度、七大女神祭りの真っ最中でございまして、伝説の勇者様がご観覧頂けるとのことであれば、祭は更に盛り上がりを見せること必至でございます!

 いやはや、あいにくと宿は祭りのせいで満室でございますが、領主の館に来賓用の部屋がございますのでそちらにご案内致します。 ん?私、いやはやが多いですかな?!いやはや」

 終わりの見えない屋台の列と舞い散る春の花びら、その中をそぞろ歩く賑やかな人の群れへ向けて大きな手を指した。


 自警団長の言った通り、このリンドーでは七大女神に捧ぐ、神前組手大会が開催されており、近隣からのみならず遠方からの客も非常に多く来訪し、街には隅々まで熱気が溢れ、派手に盛り上がっていた。

 

 神前組手大会とは、リンドーで毎年春に行われる、長い歴史を持つ、女性限定の二人一組のタッグマッチ形式の格闘大会で、刃のついた武器と魔法の使用は禁止、決められたエリアから押し出されるか、降参を宣言した方が敗者という女達の熱い闘いの祭りであった。


 その昔、戦国乱世の時代。

 『男達の留守の家を守る女達よ剛健にあれ』という、この土地の血気盛んな気風から自然と興ったものであったとされる。


 優勝者には、まず歴史ある大会の覇者としての栄誉、それから土地も含めた新築の家を一軒建てられるほどの価値のプラチナ硬貨一枚が与えられる。


 ただしこの大会、参加資格が厳しい事でも有名であり、まずは年齢制限が16歳以上29歳以下。

 そして、ただの力自慢や体格に恵まれているだけでは資格に満たず、少なくとも戦士、魔法、盗賊のいずれかのギルドで職業レベルが5以上でなければ参加登録も出来ない。


 この職業レベル5とは、戦士ギルドならギルドの指導役と、2㎏の片手剣での打ち合い組手を通しで30分出来なければならず。

 魔法ギルドでは四大属性の完全な理解と、その十万文字以上の論文の提出。

 盗賊ギルドなら垂直30メートルの手掛かりのある岩壁の登破がそれに当たる。


 それに加え、神前と名の付く通り、決して強ければそれで良いという訳ではなく、内面の人間性も問われ、心、技、体の全てが調和よく優れており、品行方正で犯罪歴の無い者でなければならないという。


 つまり登録、出場出来た時点で万歳三唱なハイレベルな競技大会であった。



 ユリアが神前女組手大会のパンフレットを手に、今述べた参加資格を勇者一行に読み聞かせた。


 「実際の試合では魔法の使用が禁止なのに、魔法ギルドの職業レベル5でも参加が可能なんですね。

 うーん。知性的な女性が戦略的な戦いを披露するのを期待されているのかも知れませんねー。

 私は魔法ギルドのレベルは13ですから一応、参加は可能ですねー。

 恐いから絶対やりませんけど……」

 

 カミラーは左右に引き絞ったコルセットの腰に小さな手を置き、面倒臭そうに

 「ふぅむ、じゃがお前はちっとも知性的ではないのう。

 その職業レベルとやらは幾らで買えるのじゃ?」

 ユリアの顔をしげしげと見詰めながら言った。


 ドラクロワはユリアの

 「カミラーさん!酷いですー!」

 をうっとおしそうに横目で見て

 「下らん催しだな。ふん、七大女神の好みそうな事よ。

 俺は酒場へ行って来る。お前達は買い物でも何でも好きに過ごせ。

 今宵は領主とやらの館に泊まり、明朝ここを発つ」

 言うや、ピンッ!とプラチナ硬貨を、綺麗に磨かれた紫の爪の親指で弾き、シャンにパシッ!と受け取らせた。


 禍々しい暗黒色の鎧姿は、春風に薄紫の髪を靡かせ、既に雑踏へ歩き始めていた。


 ピンクのロリータファッションがその後を

 「お供致します!」

 と慌てて追った。


 残された女勇者三名は立ち尽くし、それを見送っていたが。

 長身の深紅の鎧の美女が

 「シャン!これってさ、アタシ達シードで出れないかね?」


 女アサシンは腕を組んで、ジロッと女戦士を見て

 「私達は伝説の勇者だぞ?

 強いて求められこそすれ、断られる事はまずあるまい」


 ユリアは鳶色の眼を丸くし

 「えっ!?マリーナさん!シャンさん!

 正か、こ、これに二人で出るんですか!?」

 パンフレットにトンッ!と指を差した。


 マリーナが長い深紅の手甲の掌を挙げると、黒い爪のシャンの手が横殴りにそれをパシンッ!と握った。


 「そうゆーこと!」


 「だな」


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