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11話 名選手は名監督にはなれない

 店の外の草むらでピンクのロリータファッションが笑い転げている間、安酒場では新たな議題が上がろうとしていた。


 シャンがグラスを下ろし、黒い爪の指先でマスクを鼻上まで引き上げ、いつもの険しいさとはまた異なる、神妙な顔で

 「皆、ちょっといいか?」


 何やら空気の変化を感じ、マリーナもジョッキを下ろし、首の後ろの長い金髪を掻き上げ

 「ん?なんだい?」


 ユリアもジャガイモを切るのを止め、ナイフとフォークを置き

 「はい、何ですか?」


 ドラクロワは我関せずと、変わらず葡萄酒のビンを逆さにしている。



 シャンがうなずき

 「すまん。このパーティで少し旅をして思ったのだが、ドラクロワの異常なまでの強さを、お前達はどう思う?」


 魔王が天井に向けていたアメジストの瞳だけを、スレンダーなアサシンに流星のごとく下ろす。 

 

 マリーナがまばたきして

 「えっ?どー思うって。そりゃ、スゲーなぁと思うよ?」


 ユリアもマリーナの美しい横顔を眺めながら

 「そうですね。私達とは段違い、いや桁違いの強さですよねー」


 シャンはそれに大きく首肯し

 「それだユリア。ドラクロワはちょっと考えられないほど強い。

 実際、今までも幾度となくそれに助けられた。

 そこで問題なのはだな、私達三人が余りにも弱過ぎる、ということだ」


 聞いていたマリーナがブラウンの片眉を上げ

 「んー。そりゃ……確かにそう思うよ。

 あのさ、シャン。アンタ何が言いたいんだい?アタシはあんまり頭が回る方じゃないからさ、何を言いたいのか、もちっとハッキリ言ってくんないかな?

 いや、別に怒ってるんじゃなくてねー」

 何杯目かのエールに、そのサファイア色に輝く目はトロンとしていた。


 シャンはトパーズの瞳を鮮やかなパープルの瞼で閉じて

 「すまん。宴の席で持って回った言い方をして悪かった。

 簡潔に言えばな、これから魔王の首を獲りに行くにあたって、我々三人はもっと強くあらねばならんと思うのだ。

 流石にいつまでもドラクロワにおんぶにだっこでは、私達が旅する意味はない。

 ドラクロワ、勿論お前ほどまでとは言わんが、我々が少しでもその強さに近付くにはどうすればいいと思う?

 お前の忌憚のない意見を聞かせてくれ」


 ユリアがそこへ割り込む

 「わ、私もいつも怯えるばかりの自分を情けないと思ってたんです!

 こ、こんな私ですけど、何かの役に立ちたいとは思っているんです!

 ドラクロワさん!どうすれば強くなれますか?

 ドラクロワさんみたいに、呪文詠唱ゼロでいきなり攻撃魔法の発動とか、そんなのは絶対に無理なの分かってます!

 けど、何かもっとこうしたら良いとか、ここが間違ってるとか、どんな些細なことでも良いので、気付いたことを教えてもらえませんか!?」


 マリーナもテーブルに長い手の肘をついて、手の甲に顎を乗せ、ジョッキの中の泡を見ながら

 「うんうん、確かにアタシ等これから先、巨人族よりもドラゴンよりも強い、あの魔王の相手をしなきゃなんないんだよね?

 うーん、はっきし言って、今のままじゃ絶、対、無理!このままじゃヤバい!てのは分かってるよ。

 んーそうだね……なんかこう、手っ取り早く強くなれる方法みたいなもんはないかねー?

 ドラクロワさ、アンタそんなの何か知らないかい?」


 皆のすがるような真摯な視線が集中して来て、気楽に地酒を楽しめない魔王。


 (いやいや、お前達は俺の強さと素晴らしさを讃えるのが役目だろ?強くなる意味など全くないであろうが……)


 「そうだな……うん。皆目、分からん」


 三人が「えーっ!?」


 生まれつきの最強生命体はテーブルに左肘をつき、白い拳を握り、グルリと回しながら

 「俺は生まれてこのかた、工夫や鍛練の類いなど一切したことがないのだ。

 だから、むしろ逆に、なぜお前達がそんなに弱いのか聞きたい位だ」

 

 金髪の長身美女が天井を仰ぎ、広い肩をすくめ

 「はい出ましたー、俺天才肌発言!

 時々いるんだよねー、こういうヤツ。何でも器用にスーイスイ涼しい顔してこなしちゃってさ。

 どうすればそんなに上手に出来んの?って聞いたら決まって、えっ!?なんで出来ないの?て平然と返すヤツ!

 ハイハイ!アンタは天才!ハイハイ!スゴイスゴイー!

 オッサーン!エールもう一杯!!」

 拍子外れの拍手をばら撒き、やけになって手を口に添えて追加オーダーを喚いた。


 シャンはやけにならず、真正面から魔王を見据え

 「ドラクロワ。お前からしたらそうだろうが、こちらは真剣なんだ。

 同じ勇者の仲間だろ?もっと親身になって考えてくれ」


 ユリアも蜂蜜色の三つ編みを揺らし

 「そーですよドラクロワさん!俺スゴーイ!だけじゃダメですよー!」


 ドラクロワは呆れて

 (いや、俺はそれで良いんだがな……)


 「うーむ。そう言われてもな……。努力して強くなったのではないから、教えることなどないのだ。

 さて、どうしたものか……」


 そこへピンクの盛り髪の美しい幼女にしか見えない、元魔戦将軍が戻ってきた。


 ドラクロワは、それが隣で木製の椅子を引くのを見て

 「カミラーよ、戻ったか。こいつらがな、」


 カミラーは椅子にちょこんと腰掛け

 「はっ。聞こえておりました。こやつ等、何やら強くなりたいとか」

 戻って来るついでに気を利かせて持ってきた、新しい葡萄酒のビンを魔王に恭しく手渡す。


 マリーナが仰け反り、エールジョッキを持った手を、ユリアの後ろの背もたれにだらしなく乗せ 

 「そうなんだよー!アタシ等、アンタみたいに超スピードもないしさー。

 でも、これから先を考えると、まーいっかー、そのうち強くなんでしょ?て訳にもいかなくてねー。

 なーんか手っ取り早く強くなる方法ないかい?」


 シャンは座り直し、向かいに前のめりになり

 「カミラー。長命のお前の意見も聞きたい。私達が強くなるにはどうすればよい?」


 カミラーは魔王をチラリと見て、思念波を送る。


 (魔王様。確かに、こやつらを邪神にぶつけて共倒れに玉砕させるとしても、今のままでは余りにも……)


 (ふん。弾としても弱過ぎる、か……困ったな)


 (では僭越ながら、私めがこやつ等の指導を致しましょうか?)


 (うん?自信があるか?では任せる)


 (はっ!では失礼致します!)


 魔王は心の底からどうでも良かった。


 カミラーは真珠色の爪の手で小さな顎を撫で

 「そうじゃな。では、万年弱小不死軍団を魔王軍の一軍にまで押し上げた、名コーチとして名の知れた、このカミラー様がお前達を指導してくれよう」


 「本当!?」

 女勇者達の顔に喜色と期待が湧いた。


 名コーチはビシーッ!と深紅の巨大なバストを指差し

 「まずお前!なーんか手っ取り早く強くなりたーい!とかいうその性根が、伝説の勇者として恥ずかしいと思わねばならんぞえ!?」


 マリーナは両眉を上げ、席の上で姿勢を正し、両手を膝に置き

 「ぐっ!た、確かに!すんませんコーチ……」


 ユリアも杖を膝に

 「カミラーさん、何だか頼もしいですー!」


 シャンもマスクの中でボソリ

 「流石は五千歳、か」


 カミラーは真紅の瞳をカッと見開き

 「何ぞ言ったか!?アサシンのクセにのろまな細長いの!」


 シャンも背筋をビシッと伸ばし

 「な、なにも。失礼しましたコーチ!」


 魔王は葡萄酒をあおりながら

 (何かジャンル変わってきたな……)


 カミラーは小さな腕を組んで真紅の瞳を細め

 「よいか!?地道にお前達を育てる事は誰にでも出来る!

 じゃが、そこを短期間でお前達凡人の戦闘力を飛躍的に伸ばしてやれる!というが、このわらわの手腕の見せどころじゃ!

 そこでじゃ!簡単、確実かつ目覚ましくお前達の戦力を向上させる方法がある!」


 シャンは目を丸くし

 「そ、そんなものがあるのか?

 いや、あるのですか!?コーチ!」


 カミラーはしっかりと勿体付けて

 「ある!それはじゃな……」

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