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9話 前代未聞

 最初に目覚めたのはシャンだった。


 純黒の総髪を振ると、眉の上で綺麗に水平に切り揃えられた前髪が左右に揺れる。


 「うぅ……。な、なんだったのだ?あの激痛は……。はっ!?」

 咄嗟に上半身を起こし、床の手近の小刀を探って握り、力なく身構える。


 レザーパンツの膝を立て、見上げた先には、ピンクの盛り髪のロリータファッションの美しい幼女(老女)が、城の床にとろけた蝋燭群の灯りに照らされ立っていた。


 「やっと目覚めおったか」


 その背後に悠然と立っているのは魔王ドラクロワ。

 蝋燭の光が下から照す顔は幻想的で、そして美しかった。


 女アサシンは、未だ朧気ではあったが、視覚から入ってきた情報に困惑し

 「ドラクロワ!無事か!?このバンパイアはどうした!?ま、正か負けてはいないだろうな?」

 レザーグローブの両手の小刀を逆手に持って上下に構える。


 ドラクロワは

 「あぁ。説明するから、二人を起こせ。」

 禍々しい暗黒色の甲冑の腕を組んだまま、白い顎を黄色いローブと深紅の鎧へやった。



 数分して、やっと女勇者達は立ち上がった。


 マリーナは高く結った黄金色の髪を振って、深紅のグローブの手を首の後ろへやり、ボキボキと鳴らし

 「あ痛たたた。まだ景色に何かチカチカ見えるよ。

 しっかし、やってくれたねーこのチビガキ、ん?違った、チビ婆さんだっけ?」


 ユリアは先に魔法の光が失われた、いつもの杖を頼りに何とか立っていた。


 「はぁ……凄い衝撃と痛みでしたねー。  私、もう一回さっきの対光属性攻撃をもらったら間違いなく死ねる自信があります。多分寿命が数年分失われましたね、これ」

 タメ息を吐き、口をへの字にした。


 シャンは油断なく、白い睫毛が上下に咲いた真紅の瞳を睨み付けている。


 「ドラクロワ。そいつが無抵抗な訳をそろそろ説明してもらおうか」


 魔王はうなずき、ピンクの盛り髪へ魔族間のみで通じる、特殊な思念波を送る。


 (カミラーよ、こいつらを欺く、適当に合わせろ)


 (はっ!お任せ下さりませ!ですが、魔族の永遠栄華のかかった重大な極秘作戦。些か緊張しております……)


 (安心しろ。こいつらは一級品のバカだ。心配はいらん)


 (一級品……。ホホホ……確かに知能の低さが顔に出ております!ただ……一人、細長いのが少し手強そうです)


 (あれはシャンという。相当に訝しんでおるが、まぁなんとかなろう……)


 「では説明する。この者はな……」


 ユリアが喉を鳴らし、マリーナは長い睫毛をしばたかせ頬を掻き、シャンは紫のアイシャドウの下のトパーズの瞳でドラクロワを見つめた。


 「この者は特異体質ではあるが、お前達と同じく、勇者だ。なんと光属性らしい」


 カミラーが思わずビクッと背筋を伸ばす。 (なっ!?ま、魔王様!?わ、私が勇者!?こ奴等がいくら一級品のバカと申されましても、それはあまりにも……)



 マリーナがだらしなく口を開け

 「はぁっ!?何だって?」

 深紅のブレストアーマーの巨大な胸の前に組んでいた腕が、思わずバラけた。


 ユリアが太目の眉をハの字にして

 「ドラクロワさん!!」


 シャンは微動だにせず

 「ふん」

 と鼻を鳴らした。


 ドラクロワは小動物のような蜂蜜色の三編みのソバカスを向き

 「なんだ?」


 ユリアは親指を立てグーっと前に突き出し

 「ドラクロワさん!やりましたね!!

 カミラーさん!私、ユリアと申します!新しい仲間が増えて嬉しいですー!!」

 ペコリと頭を下げた。


 マリーナも一歩前進し

 「宜しくカミラー!アタシは種族差別はしない主義だ!

 あっ!悪い。握手は命取りだったね……ゴメンよ」

 差し出した深紅のグローブを気まずそうに漂わせ、後ろ頭へ持っていった。


 カミラーは呆然として

 (魔王様!?こ、これは……)


 シャンは二人の仲間とは違い、深紫のレザーアーマーの腕を組んで、刺すような視線をバンパイアに向けている。

 「カミラー」


 カミラーは怯むことなく睨み返し

 「な、なんじゃ?」

 (魔王様!こいつはちょっと違うようです!)


 シャンのマスクの上の目が笑った。


 「さっきのお前のスピードと動きは良かったぞ。

 私はシャン。アサシンとしてお前を高く評価している。宜しくな」


 カミラーが唖然としてドラクロワを振り返った。


 ドラクロワは鷹揚にうなずき

 「よかったな、勇者カミラーよ」

 (な?一級品であろう?一々驚いていては疲れるぞ。早く慣れることだ)


 ピンクの盛り髪のバンパイアは女勇者達へ会釈して

 「わ、わらわは……で、伝説の勇者カミラー。

 ま、魔王様討伐に向けて皆で力を合わせようぞ。よ、宜しく頼む……」

 (ご先祖様!私、勇者になってしまいましたー!……も、申し訳ありません!!)


 暗い城中に、女達の拍手と歓迎の声が鳴り渡った。

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