【2-18】.議論の果てに
武道大会の夜。町の宿にある談話室に、レン、ナメタ、ランデスの三人が集まっていた。
薄い灯りのもと、出された飲み物には手をつけず、話題はただ一つ――今日、観客の視線を集めたあの少女、ミアリスだった。
「いやぁ、ミアリスちゃん、良かったな。あの突っ込み、目がマジだった。あれで俺に抱きついてくれたら完璧だった」
開口一番、ランデスが笑いながら言う。
「……はぁ? お前、どこ見てたんだよ」
ナメタが即座に切り捨てる。
「こっちは“戦い”の話してんだよ。色ボケ脳で混ざってくんな」
「えー? 真剣に見てたよぉ? 動きも、目線も、汗の角度も……」
「最後のいらねぇだろ」
ナメタが容赦なくランデスの額にツッコミを入れると、ランデスは「いてっ」と笑いながら頭を撫でた。
「まあ冗談はさておき」
レンが話を戻す。
「ミアリスの戦いぶり、どう見た?」
「……フィジカルは合格。反応速度も、直感も、まあギリ許容範囲。問題は“自覚”だな。自分が何をしてるのか、理解せずにやってる」
ナメタが冷静に言い放つ。
「要は“才能だけで動いてる状態”。伸び代はあるけど、今のままじゃ実戦では不安定。ハマれば強いが、崩れたら終わり」
「ふむふむ、ナメタ先生、相変わらず評価がえげつないっスねぇ」
ランデスが頷きながらポテトチップスをつまむ。
「お前が軽すぎるだけだろ。てか食ってんのどこで買ったんだよ、それ」
「さっき下の売店で買ってきた☆ ついでにミアリスに“君、良かったよ!”って言ったら睨まれた☆」
「そりゃ睨まれるわ」
レンが咳払いして再び話を戻す。
「ランデス、おふざけ抜きで。ミアリスの“伸びしろ”、どう見てる?」
ランデスはポテチを口に運びながら、少しだけ真面目な顔になった。
「んー……“光る原石”って言葉、あるだろ? ミアリスはね、それが“すでに輝きかけてる石”。表面に光が出てるけど、本人が気づいてないタイプ」
「比喩ばっかでフワッとしてんな」
ナメタがまた切り込む。
「いいじゃん、雰囲気で伝われ!」
「伝わらねーよ」
「はは……」
レンが苦笑しつつ言葉を引き取る。
「でも、俺も似たような印象を受けたよ。彼女、今は“結果的に動けてる”だけだ。でも戦場の空気の読み方、体の運び、目の使い方……全部が、無意識のうちに整ってる。普通じゃない」
「だからこそ、怖いんだよ」
ナメタが静かに続ける。
「今は“使える駒”じゃない。けど、ある日突然“主役”になる可能性がある。その時、制御できるのか――本人が、な」
「おぉ~、それっぽいこと言った。なんか一人だけカッコよくてずるくない?」
ランデスが妙に悔しそうに唸る。
「お前がチャラけすぎてんだよ。ちょっとは反省しろ」
ナメタの呆れ声に、レンは少し笑ってから締めの言葉を口にした。
「今後の育成次第ではかなり強い人材として育つ事が出来ると踏んでいる...ましてや前衛アタッカーとして優秀な点からサブタンクとして俺は運用を考えている、どうだろうか?」
二人は黙って頷いた。
この夜の議論が、後にどんな意味を持つか――それを知る者は、まだいない。




