2.友達招待と片手を突っ込む
数時間ほどの仮眠を取って目を覚ました頃には、いつも遊んでいるオンラインゲームのメンテナンスも無事終了していた。
けど、今日はそっちじゃない。さっき届いてた謎のクローズドβメールの件を、まずはいつものメンツに聞いてみることにした。
通話チャンネルに顔を出すと、ランデスとナメタは相変わらず元気に、別々のゲームで遊んでいた。うん、いつも通り。
「ランデス、さっき始めたあのゲーム、実際どうだった? 意外と面白かったし、カンストしても続けてもいいかなーって」
「俺もけっこう好きだったよ。ナメタがあんなに肯定的なこと言うの珍しいな?」
「……うるせぇ。ちゃんと面白かったんだよ」
そんな雑談をしながら、タイミングを見て話題を切り出す。
「でさ、NFMOnlineってゲーム、聞いたことある? 俺、登録した覚えもないのに、クローズドβの案内メールが届いててさ」
「NFM……? 全然聞いたことないな。どんなゲームなん?」
「名前だけ聞くと、NTRFPSみたいな響きだな」
「ナメタ、それは言いすぎだろ」
あいつはすぐにそういう冗談をブチ込んでくる。まぁ、いつも通りっちゃいつも通り。
「調べても情報はほぼゼロ。2chでちょろっと話題にされてる程度? ぶっちゃけガセネタくさい雰囲気なんだよな」
「そういやスレで“変なメール届いた”ってレス見たわ。内容的にオカルト寄りだったけど」
「やっぱ他にも届いてる奴いたんだな……。俺も最初、完全に迷惑メールかスパムかと思ってスルーするところだったわ」
「てかさ、“他のネットゲームに行き来ができる”って何? スキルもアイテムも引き継げるって、完全に意味不明なんだけど」
うん、それな。俺もそこが一番引っかかってる。
他のゲームと提携してるわけでもないのに、別ゲーのデータを持ち込めるとか……法律的にも技術的にもアウトな気がする。
「メールの内容コピペしてよ」
「最近流行りの“ネトゲ転生”系じゃない? 画面の中で死んだら現実でも……とか」
「いやいや、だったらなおさらやべーやつじゃん。俺、冗談でもそんなもん手出したくないぞ」
なんて言いつつも、ふたりともけっこうノリノリだった。俺も気づけばワクワクしてる。アホだな、俺たち。
「とりあえず、これがメールの内容。気になるリンクは“ルールと詳細”“注意点”“友達招待”の三つ」
「俺、まだ読んでない~」
「俺もメールは見たけど、怪しすぎてリンク一個も踏んでない」
実際、ダウンロード手順やインストール方法は普通のオンラインゲームとまったく変わらない。そう、そこだけは“普通”だった。
だけどなぁ……。やっぱどこか引っかかる。
「一応、友達招待コードを入力すれば、招待された側もダウンロードできるらしい。とりあえず入力だけしてみる?」
「アカウント登録もないし、まぁコード入力するだけなら別にいいか」
「おけー」
というわけで、俺が送ったやたら長ったらしい友達コードを、ふたりとも入力。すると、ちゃんと“ダウンロード可能”の表示が出た。
どうやら、このコードがアクティベートキーの役割を果たしてるらしい。
俺たちはそのまま勢いで、ルールも注意点もろくに読まず、ゲームのダウンロードとインストールを済ませた。
そして――
「……ん? 起動したら、“右手をモニターに当ててください”って出てきたんだが」
「え、何それ怖。俺も出たけど……マウスじゃ反応しねぇぞ」
意味がわからない。ゲーム開始のチュートリアルでもなく、設定画面でもなく、いきなりの謎演出。
どうすんだよ、これ。
「俺は右手、突っ込んだら登録完了したよ~」
「……は?」
「いやいや、なに言ってんのお前。突っ込んだって、リアルの手? モニターに?」
「うん、普通に手首くらいまでスッと。何言ってるかわかんないだろ? 俺もわかんない。でもやってみな?」
「嘘だろ……?」
ナメタと顔を見合わせて、恐る恐る、俺もモニターに右手をかざしてみた。
すると――
手首まで、ヌルッと吸い込まれる感触。
一瞬、マジで戻せなくなって焦ったけど、数秒でスッと抜けた。
「……うわ、ほんとに“登録完了”って出た。いやいやいやいや、おかしいだろこれ」
「これがアカウント登録? どんな認証システムだよ……」
ナメタはずっと困惑したまま、ランデスはどこか飄々としてて、俺はというと――
意味不明なはずのこの出来事に、どこかワクワクしている自分がいた。
こうして俺たちは、“NFMOnline”という未知のゲームに足を踏み入れた。
――いや、正確には、片手を突っ込んだだけだけど。