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お父様へ

作者: ストロング小指

突然ですけど、昨日、生活保護の申し込みをしました。きっと連絡がいくと思うから、びっくりさせるといけないので先に手紙を書きます。国のお金で、生かさせてもらうなんてもったいない話です。可及的速やかに、今の状況を改善するように努力することを、天皇陛下と国民のみなさまに誓いたいと思います。

 ちゃんと毎週、病院にも通っています。お医者様(わたしは“神”と呼んでいます)にお薬ももらって欠かさずに飲んでいます。“神”に何という病気か、一応おたずねしたら、難産のウミガメのような苦悶の表情を浮かべた後、「新型うつ!」と吐き捨てるように仰りました。何だか「新型プリウス」みたいでカッコいいです。

 それから、“神”から「考えたことを話すように、話すのが無理なら書くように」言われました。考えたことを自分の頭の中に、ためておくのはこの病気には良くないらしいのです。ダダ漏れ状態くらいがちょうど良いらしいので、この手紙にはなるべく自分の思っていることをそのまま書こうと思います。

 かなり以前になりますが、行ってもいないのに「香川県なう。さぬきうどんメチャ美味しいです!」って意味もなくツイッターでつぶやいて後悔したことがあります。

 その後、その罪を償うために、墓場まで持って行こうと心に誓った恥ずかしい事実をいくつくらい告白したら良いか考えました。

 色々なことがごちゃごちゃになってよく分かりません。ただ、一つだけ言えることは、わたしは今、なるべく率直になろうとしているということです。だから、この手紙で言うべきことか分かりませんが、お父様に話しておかなくてはいけません。

 この前そちらに帰ったとき、お父様が物置の奥に大切にしまっていた数百冊はあろうかという大量のエロ本を日の目を見やすい場所に移動したのは、わたしです。ロリ系中心の豪華な品揃えに、自他ともに認める腐女子であるわたしでさえ、度肝を抜かれました。猛暑の中、何箱もある重たいダンボールを運ぶのにとても苦労しました。でも、誌中のフェアリーな彼女たちに「日の当たるところに出してくれてありがとう」そんなお礼を言われた気がして、報われました。

 その後、お母さまが家を出たと聞きましたが、まだ帰ってきませんか?


 それと、これはかなり昔のことになりますが、わたしはお兄様を間違いなく尊敬しておりました。

 あの頃はまだ世間では、2次元を愛する高尚なシュミがまるで病原性の細菌のように忌み嫌われておりました。お兄様に対しては、同じ保菌者としての共感と、そして、求道者としてやや先を行かれている感覚、強いて言えば尊敬と嫉妬の入り交じった感情を抱いていたように思います。

 お兄様が我が身より大切にされ、毎晩数時間は愛でてらっしゃった巨乳系フィギュア十数体を、庭の花壇に首まで埋めたのは、わたしです。ガーデニング好きのお母様が新種の植物と間違えて、水をやってくれるかもしれない…そんな淡い期待もありました。 

 お兄様はあれから誰とも口を利かなくなりました。お兄様が心を開ける相手は見つかったでしょうか(フィギュア以外で)?


 それから、これはさらに昔の話になります。高校三年生のとき、同じクラスのDくんが失踪したことは覚えてらっしゃいますか? ずいぶん騒ぎになりましたのでご記憶だと思います。当時、わたしはクラスのみなさんから“キャリー”と呼ばれていました。もちろん、今チヤホヤされてる“カワイイ”ほうではありません。豚の血こそ浴びたことはありませんが、わたしは“彼女”と同じような扱いを受けていました。学校に行くのはイヤではありませんでした。学校に着くとなぜだかヤル気が出るのです。そのヤル気のことを「殺意」と呼ぶことに後になってから気がつきました。授業中に、教室全体をセメントで固めて東京湾に沈めるまでの行程を詳細な図解入りでノートに描いたりしてました。わたしの予想では数十年後に、雑誌『ムー』で地底都市が存在する証拠として特集されるはずでした。本来なら、マゾ気質のわたしは賤民どもに愚弄されることなど、基本的には気にかけていなかったのです。しかし、どうにもこの前まで一緒に、カースト制度の最底辺いたはずのDくんが、調子に乗りくさりやがって、実働部隊の一翼を担っている点が、ほんのちょっとだけ許せなかったのです。迂闊にも仲間だと勘違いしていた人間に裏切られるのが、どうやら一番こたえたようです。わたしは毎日、どのように彼をこの世から消し去ろうかと案を練りました。

 その件は、本来幕張のイベントで有用に消費されるハズだった三十万円で片が付きました。人を拉致してもらうのは案外簡単なものだと知りました。

 本当に、非常識な世の中になったものです。

 どうして分かったのか、マグロの水揚げで焼津港に上陸した彼から「おかげで強くなれました」と私のところへ絵はがきをいただきました。ベイルート経由の人身売買で世界中の強制労働を経験した彼はさぞや人間的にスケールアップされたことでしょう。復讐に来たら、返り討ちにするプランを今から練っている最中です。

 なるべく可能な限り“神”の言葉を守り、思いつくままに昔のことまで書いてしまいました。少し、胸がすうっとしたような気がします。やはり、このやり方は「新型うつ」に効果が高いのでしょう。

 それから今日、“神”から言われました。

「君は我慢しすぎるから、もっと思いつくままに行動するように」

“神”の言葉は絶対です。


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